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英国UCL教育研究所との合同授業を開講しました。(2015.12.11-13.)

2016.02.01

 教育学研究科(以下「京大」)では、2015年12月11日(金)−13日(日)ロンドンのUCL教育研究所(以下IoE)において同研究所との国際交流企画の一貫として「国際教育研究フロンティアC」と同研究所博士課程コースの科目との合同授業“The Cultivation of Political Emotions”(「政治的感情の育成」)を開催した。講師は、UCL教育研究所の教育哲学部門長であり哲学センター長であるPaul Standish教授であった。授業の主題は、公正な共同体の創造の鍵としての政治的感情とその育成のための教育であり、J. M. Coetzee, The Lives of Animals(1997), G. Lloyd, “Man of Reason” (1979)、M. Nussbaum, Political Emotions (2013)などの教材の講読とディスカッションや映画The Band Wagon(1953)の視聴と討議を通じて、人間の理性と感情、動物のいのち、コスモポリタニズムとパトリオティズムの政治感情、市民教育、人種差別やマイノリティに対する代替的な政治性などが取り上げられた。キプロス大学のMarianna Papastefanou教授による特別講義も取り入れられた。京大学生はヨーロッパの教育研究のメッカであるIoEで英語による生の大学院セミナーを受講し、短期留学に匹敵する経験を積んだ。最終日、京大学生は教育学研究科外国人教員Jeremy Rappleye准教授の助言のもとで授業復習と英語レポート執筆の準備を行った。

 参加者は、京大より8名(TA、参加教員含む、内学部生1名)、IoEより9名(内教員一名)、参加者の国籍は、日本、イギリス、中国、台湾、韓国、アメリカ、アイルランド、キプロスなどきわめて国際的な構成であった。参加した教員、学生の研究領域は、教育哲学、市民性教育、生涯教育、教育政策学、比較教育学など多岐にわたった。3月9日(水)にはIoEで毎週水曜日に開催されるイギリス教育哲学会ロンドン支部のセミナーに京大学生が参加する機会をいただいたり、同セミナーの後大学のパブでの議論に参加したりと、教室を超えた学際的・国際的交流の場を経験することができた。参加学生はスタンディッシュ教授の授業と指導を通じて学際的研究の意味や思想の実践性を再考し、教育研究の視野の転換と深化につながる経験をもつことができた。今回初めて海外の授業を経験し日英の橋渡しの役を務めたTAの松枝拓生氏(臨床教育学講座博士課程)よりは、日本人学生が、自身の研究関心や主題を多文化・多領域横断的な場で提示し交流することによって多角的な視座を得ることができたということ、同氏自身も英語でのディスカッションや異文化コミュニケーションの真意を初めて経験し自らの殻を破る経験をでき自信につながったとの感想を得た。

 本イベントの成果としては下記が挙げられる。(1) Standish教授の指導のもとで国際性、学際性、実践性を備えた生きた学問としての教育研究のあり方を京大学生が教えられたこと。(2)京大学生が世界各国の学生や若手研究者と海外で英語を通じて交流することにより、国際交流というフィールドで学術研究を行うという研究スタイルを実体験できたこと。(3)本授業の成果は帰国後も国際会議での英語発表や論文投稿につなげられていること。(本イベントに参加した一部の学生は、授業の後にフィンランドのヘルシンキ大学で開催された京大-JSPS-ヘルシンキ大学共催の国際会議に参加し、Standish教授のご支援を得つつ英語論文発表を行った。また帰国後に京大教員の指導もとで国際学会への英語論文投稿を行っている。)これらの波及効果は今後国際学術誌論文投稿数の増加や留学生数の増加に寄与する可能性をもつものであり、本イベントの内容の質保証を裏付けるものである。(4)昨年に続き、ロンドンでの授業の様子が京都大学OCWを通じて世界的に発信される。これにより教育学研究科が京大で果たす教育研究の国際化の貢献がグローバルに可視化されることになる。

 本イベントは過去数年間にわたり京都とロンドンで行われてきた京大とIoEとの国際交流の発展的成果である。第二期中期目標・計画で示されているように、現在、京大の国際的な位置づけを世界で向上させるために大学を挙げて内側からの国際化、制度的な改変や国際プロジェクトの推進、国際交流に関する意識変革が奨励されている。その推進の原動力は学生の高度な語学力の育成と内向き志向の打破にある。昨年に続き本年度も取り入れられたロンドンでの合同授業(=京大の単位を提供する京大学生の授業と、IoE側博士課程コースのトレーニングの一貫として提供される正規授業の合体)は、京大が推進する教育研究国際化戦略の一端を担うものでもあり、京大とIoEの大学間協定を発展させるのみならず、今後、京大の教員とIoEの教員による共同指導など、教育学研究科の国際化に向けての新たな教育研究の取り組みの布石を打つものとなるであろう。(文責・イベント責任者:斉藤直子)

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UCL教育研究所 Paul Standish先生のご講義風景

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Standish先生と学生の授業風景1

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Standish先生と学生の授業風景2