南部 広孝(京都大学大学院教育学研究科長・教育学部長)

南部 広孝
京都大学大学院教育学研究科長・教育学部長
京都大学教育学部は、1906(明治39)年に京都帝国大学文科大学が創設されたとき同時に設置された教育学教授法講座を前身として、1949(昭和24)年5月に設立されました。また、大学院教育学研究科は1953(昭和28)年4月に設置されました。それ以来70年以上にわたって、教育学部と教育学研究科は、広い意味での教育学の研究とその研究者や実務家の養成、学生の教育、全学の教職教育の責任部局という責務を担い、これまで6,000名以上の卒業生・修了生を送り出して、各界で活躍する有為な人材を輩出してきました。
教育学部は、教育と人間に関わる多様な事象を対象とした諸科学を学ぶことにより、心、人間、社会についての専門的識見を養成し、さらに広い視野と異質なものへの理解、多面的・総合的な思考力と批判的判断力を形成し、責任感と高い倫理性をもって人間らしさを擁護し促進する態度を啓培することで、多様な人々との協働によって地球社会の調和ある共存に貢献できる人物の育成を目的としています。1学科制(教育科学科)で、体系的かつ高度で幅広い教育を実施しており、3年次からは、現代教育基礎学系、教育心理学系、相関教育システム論系のいずれかに分属してより専門的な内容を学ぶ教育システムをとっています。どの系も学生の主体的な学びを重んじ、卒業論文の作成を重視しています。
大学院教育学研究科は、1998(平成10)年にいわゆる大学院重点化により部局化し、2018(平成30)年には、組織再編としてそれまでの2専攻(教育科学専攻、臨床教育学専攻)を統合して「教育学環専攻(Interdisciplinary Studies in Education)」としました。この「教育学環」専攻という名称には、科学知と実践知を繋ぎ、研究・教育・社会貢献の間をスパイラルに往還する新しい知「フロネシス(実践的叡智)」の拠点形成という意味が込められています。急速な社会変化や技術革新によって人間とは何か、文化とは何かが改めて問われる現在、人間と教育についての根本的な問い直しとともに、次の時代に向けた新しい教育方法の開発や制度設計が求められています。本研究科では、こうした社会的要請にも応えうる教育学研究の拠点としてさらに発展するため、これまでの蓄積と伝統を土台としつつ、研究科全体が分野や領域を越えてより柔軟に連携・協力する体制へと移行しました。従来の11講座を5講座(教育・人間科学講座、教育認知心理学講座、臨床心理学講座、教育社会学講座、連携教育学講座)とし、学内他部局の教員の協力も得て、これまで以上に柔軟な相互連環ができる融合的組織となっています。
あわせて、グローバルな視野に立った融合的・先端的研究プロジェクトや教育を進めていくためのリエゾン部門として2017(平成29)年にグローバル教育展開オフィスを設置しました。本研究科ではこれまで、中国教育科学研究院、北京師範大学、ランカスター大学、ソウル大学校、ドルトムント工科大学、ハワイ大学マノア校、オックスフォード大学日産日本問題研究所、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教育研究所など、海外の大学・研究機関との共同プロジェクトや学術交流、学生交流を積極的に進めてきています。グローバル教育展開オフィスを設置して以降、こうした交流を基礎としつつ、領域横断的でかつ世界的視野で独自の研究・教育を推進するとともに、グローバル教育科目の開発や海外共同教育・研究ネットワークの構築など本研究科独自の取り組みを進めています。
このような組織体制のもとで、大学院学生は、教育学環専攻に置かれている9つのコース(教育哲学・教育史学、教育方法学・発達科学、臨床教育学、教育認知心理学、臨床心理学、教育文化学、比較教育政策学、高等教育学、臨床実践指導者養成(博士後期課程のみ))のいずれかに所属して学修と研究を行います。学生の自発的な研究活動を支援し、理論と実践とを融合し、学際的・国際的なフィールド経験を重視した教育を実施することを基本方針として、自らの専門分野を深く修めると同時に、広い視野を持って研究を進めることができるようになっています。これに加えて、博士課程教育リーディングプログラム(京都大学大学院思修館、グローバル生存学大学院連携プログラム、デザイン学大学院連携プログラム、霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院)への参画によって、専門分野を越えた連携による教育活動も展開してきています。
本研究科・学部では、理論と実践の往還による社会的貢献も重視してきました。1980(昭和55)年にはわが国最初の心理教育相談室が正式に開設され、1997(平成9)年にはそれを発展的に改組した附属臨床教育実践研究センターが設置されて、心理教育相談にあたってきました。また、2007(平成19)年には、「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」を推進するために教育実践コラボレーション・センターを設置し、今日まで、学校や地域とも連携しながら現場(フィールド)で生じている個別的、具体的な課題やその対応を考える活動を進めてきています。E.FORUMは、学校教職員等による実践の改善に貢献する活動を継続的に実施しています。さらに、2018(平成30)年からは、国家資格である公認心理師のカリキュラムを学内の他部局と連携して運営しています。
京都大学大学院教育学研究科・教育学部は、その創設の理念と伝統を維持し、揺らぐことのない独自の軸に支えられた学術の進展や展開を追求し、その一方で、時代と社会の要請に応じて自ら改革し、変化を遂げてきました。これからも、学生と教員がともに専門領域を基盤としつつ学際的な視点から厚みのある研究活動を展開し、その成果をもとに積極的に社会貢献を進めていくとともに、地球規模の視野に立ち、責任感と高い倫理性をもって、広い意味での教育学研究や教育実践を牽引する人物が育っていくよう教育活動に取り組んでいきます。

