稲垣 恭子 (京都大学大学院教育学研究科長・教育学部長)

dean_inagaki京都大学教育学部は、1906年(明治39年)の京都帝國大学文科大学の教育學教授法講座を前身とし、第二次世界大戦後の1949年(昭和24年)に設立されました。ほぼ同時期にスタートした大学院教育学研究科は、1998年(平成10年)に大学院重点化(大学院の部局化)が行われました。学部と研究科の両方を合わせて、広い意味での教育学の研究とその研究者の養成、教育学を学ぶ学生の教育、全学の教職教育の責任部局という責務を担っており、これまでおよそ6002名の卒業生・修了生を送り出し、各界で活躍する有為な人材の輩出に貢献してきました。なお、同窓会として、京都大学教育学部同窓会(京友会)を組織しています。

教育学部は、教育と人間にかかわる多様な事象を対象とした諸科学を学ぶことで、心・人間・社会についての専門的識見を養成し、広い視野と異質なものへの理解、多面的・総合的な思考力と批判的判断力を形成し、人間らしさを擁護し促進する態度を啓培することで、地球社会の調和ある共存に貢献できる人材を育成することを目的としています。学部3年次からは、現代教育基礎学系、教育心理学系、相関教育システム論系のいずれかに分属し、専門的な教育を受ける教育システムであり、どの系も伝統的に卒業論文の作成を重視しています。

教育学研究科は、組織再編によって2018年度(平成30年度)から、これまでの2専攻(教育科学専攻、臨床教育学専攻)を1専攻に統合し、「教育学環専攻(Interdisciplinary Studies in Education)として新しくスタートしました。専攻名に「環」が入るのは全国でもこれがはじめてです。「教育学環専攻」という名称には、科学知と実践知を繋ぎ、研究・教育・社会貢献の間をスパイラルに往還する新しい知(「フロネシス(実践的叡智)」の拠点形成という意味がこめられています。現在、人工知能等を含む技術革新によって人間とは何か、文化とは何かが改めて問われる中で、人間と教育についての根本的な問い直しと同時に、次世代に向けた新しい教育方法の開発や制度設計が求められています。本研究科では、こうした社会的要請にも応えうる教育学研究の拠点としてさらに発展するため、これまでの蓄積と伝統を土台としつつ、研究科全体が分野や領域を超えてより柔軟に連結・協力する体制へと組織再編を行いました。

具体的な研究組織としては、これまでの2専攻11講座から1専攻5講座(教育・人間科学講座、教育認知心理学講座、臨床心理学講座、教育社会学講座、連携教育学講座)となっています。学内の高等教育研究開発推進センター、こころの未来研究センターなどの教員の協力も得て、これまで以上に柔軟な相互連環ができる融合的組織になっています。

大学院生は、各講座の下に設けられた9つのコース(教育哲学・教育史学、教育方法学・発達科学、臨床教育学、教育認知心理学、臨床心理学、教育文化学、比較教育政策学、高等教育学、臨床実践指導者養成(博士後期課程のみ))に所属して、専門分野を深く修めると同時に、講座間を柔軟に横断する広い視野で教育・研究を進めることができる体制をとっています。

さらに、文・理の枠を超えた先端的研究プロジェクトやグローバルな視野にたった教育を進めていくためのリエゾン部門として「グローバル教育展開オフィス」を新たに設置し、専任の教員を配置しています。この新しい組織体制のなかで、領域横断的でグローバルな視野にたった独自の研究・教育を推進していきたいと思っています。

教育学研究科では、これまでにもグローバルCOE「心が活きる教育のための国際拠点」や、特別研究経費(教育改革)による「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」というプロジェクト(平成19年度~23年度)によって、専門分野を超えた連携のもとに研究を進めてきました。また近年は、複数の博士課程教育リーディングプログラムに関与しつつ研究・教育をすすめています。具体的には、京都大学大学院思修館(平成23年度採択)、グローバル生存学大学院連携プログラム(平成23年度採択)、デザイン学大学院連携プログラム(平成24年度採択)、霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(平成25年度採択)との連携を行っています。また、海外の大学・研究機関との共同プロジェクトや学術交流も積極的に進めています。今後はこれらの蓄積を土台として、グローバル教育展開オフィスを軸に研究科独自の取り組みを発展させていく予定です。

また本研究科・学部では、理論と実践の往還による社会的貢献も重視してきました。1980年(昭和55年)には、わが国最初の心理教育相談室が正式に開設され、1997年(平成9年)には、それを発展的に改組した附属臨床教育実践研究センターが設置され、心理教育相談にあたってきました。2007年(平成20年)には、「子どもの生命性と有能性を育てる教育・研究推進事業」を推進するために教育実践コラボレーションセンターを設置し、学校や地域との連携、国際的情報発信を行っています。さらに2013年(平成25年)には「地(知)の拠点整備事業:大学COC事業」に採択され、学校や地域連携の強化を図り、地域貢献と地域資源の教育活用を進めています。

このように、教育学部・教育学研究科は、研究・教育・人材輩出を一貫させた新しい組織の下で、教育学研究と次世代の教育をリードするイノベイティブな人材養成に取り組んでいます。