アジア諸国における生徒の個性に応じた教育に関する研究:日本・インド・中国・タイを事例として
研究代表者:小原優貴
研究メンバー:李霞・馬場智子
研究協力者:黄儒芬
研究概要
研究目的
近年、アジア諸国の教育改革では、国内の多様性を尊重する目的から、学習者の個性を重視しようという動きが見られる。本研究では、こうした背景をふまえ、学習者の「個性」がアジア諸国においてどのように捉えられ、それが教育にどのように反映されているのか、西欧諸国における個性教育との比較を通して明らかにすることを目的とした。
研究方法・研究成果
本研究では、研究分担者らの研究対象国である日本、インド、中国、タイ、台湾に加え、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアにおける個性教育の取り組みの概要(個性教育の定義、個性教育の歴史的変遷)、問題点、成果などを明らかにした。そして、これらの成果を持ち寄り、「個別化・個性化教育のためのモデル」(加藤・河合、2002)および「『個性化』言説の類型」(森田、1995)を用いて、各国における個性教育のあり方を分類した。その結果、教育は国民国家形成に関わる公的事業であるため、各国とも基本的には「学習の規範化」を目指すことが分かった。
こうした前提をふまえ、アジア諸国とその他の国々の個性教育の共通点・相違点について検討した結果、アジア諸国の個性教育では、西欧諸国と比較し、全体として、集団としての個性を尊重する傾向にあるが、グローバル化(≒西欧化)や近代化を背景に、個人主義的思想にもとづく「学習の自由化」や学力や学習スタイルの差に応じた「学習の個別化」が進められる傾向にあることが分かった。ただし、より詳細にみると、中国については、全体性・普遍性を強調する「学習の規範化」が比較的重視される傾向にある一方、多民族・多宗教であるインドとタイでは、「文化の個性化」に重点が置かれている。加えて、インドと中国では、国内の地域間格差や階層間格差を背景に、グローバル化(≒西欧化)や近代化が進む以前から「学習の個別化」が展開されてきた。また、日本と台湾は、比較的早くから産業化が進み、人的資源の効率的な選別・配分を目的とする「学習の個別化」を経て、本格的な「学習の自由化」が取り組まれるようになった点で類似している。以上のように、一見、同じ足並みで個性に応じた教育が目指されているようにみえるアジア諸国の傾向は、それぞれの歴史的・社会的・文化的背景の差異に応じて、さまざまなベクトルで展開されていることが、分析の結果、明らかとなった。
参考資料
加藤幸次・河合剛英(2002)『小学校 個に応じる少人数指導』黎明書房。
森田尚人ほか編(1995)『個性という幻想』世織書房。
