学習場面に認知・記憶研究はいかに貢献できるか?

-理論と実践-

 

                                           企画者    藤田哲也(京都光華女子大学)

                                           司会者    堀内 孝(東海女子大学)

                                           話題提供者  市川伸一(東京大学)

                                                  仲真紀子(東京都立大学)

                                                  楠見 孝(京都大学)

                                           指定討論者  北尾倫彦(京都女子大学)

                                                  高橋雅延(聖心女子大学)

 

教科学習における比喩・類推の効果的利用  楠見 孝(京都大学) 

 

1. 比喩・類推による知識獲得:比喩や類推は,知識の伝達と獲得,さらに利用において重要な役割を果たしている。すなわち,a.学習者が新しい知識と過去の経験や知識を結びつけ,b.それを応用問題や現実世界への転移させることを支えている。

2. 教育場面における比喩・類推の利用:算数・数学学習は,学習者が例題に基づいて,一般的,抽象的な知識を獲得し,それを応用問題解決に転移させることが重要である。とくに高校生においては,例題において自分が間違った解法と正しい解法を比較することが,抽象的知識の獲得や転移を促進し(寺尾・楠見, 1998),学業成績の高い高校生は低い高校生に比べて,自分の誤りからの何が分かったかという「教訓帰納」を引き出していた(寺尾・市川・楠見, 1998)。また,例題を与える際に,プラグマティックレベルでの抽象化を促進する教示を与えることが,例題と応用問題間の適切な類似性認知を高め,問題解決を促進した(栗山・楠見・鈴木, 1998)。

 理科の授業では,学習者のもつ生活的概念を比喩や類推によって導入し,実験をおこない,一般的法則の教授によって,科学的概念の長期的獲得に結びつけることが課題である。栗山・楠見(2000)では,5週間の振り子の授業において,小学5年生が問題解決に用いた手がかりは,2週目では,体験からの類推を用い,3, 4週目では実験結果や黒板による説明を用いるようになった。これは,小学生の知識獲得が,日常経験からの類推をベースにして,実験や黒板での教師の説明を結びつけていることを示している。

  外国語学習では,第一言語(語彙や文法など)から第二言語への正の転移をはかることが重要である。杉村・楠見(2000)では,多義語や慣用句の意味理解を支えている比喩的なイメージスキーマの写像を明らかにし,さらに,そのアニメーション提示が意味理解をどのように促進するかを検討した(杉村・赤堀・楠見,1998)。

3. 教育場面への応用による示唆:第1に,教育場面への応用は,実験室よりも複雑な構造をもつ知識の長期的学習と転移を扱うことになり,理論のリアリティの検証となる.第2に,教育場面に役立つような学習法や教授法の提案を通して,現実世界での実験と貢献が可能になる.