第14回大学教育研究フォーラム 京都大学(吉田南1号館)            

2008.3.27,13:30~16:00

 

学習者間インタラクションを通した批判的思考力と高次リテラシーの育成

 

企画者:       

楠見 孝   (京都大学教育学研究科)

話題提供者:  

楠見 孝  (京都大学教育学研究科)

鈴木宏昭 (青山学院大学文学部)

岩男卓実 (関東学院大学教職課程)

富田英司 (九州大学人間環境学研究院)

司会者:       

道田泰司 (琉球大学教育学部)

  

  企画の趣旨                         

 

  楠見 孝

 

本ラウンドテーブルでは,学習者間インタラクションを通した批判的思考力と高次リテラシーの育成について,その認知的基盤と測定手法について検討を行う.

OECDでは,大学の学習成果評価のための試行調査において,高等教育において育成すべき能力として「批判的思考力」を調査対象にすることを検討している.また,PISAの義務教育修了段階の学力調査では,読解・科学・数学リテラシーが測定されているが,これらは,実生活での知識の応用のためのコミュニケーション能力であって,証拠に基づいて判断する批判的思考力が重視されている.高等教育においては,これらのリテラシーに基づいて,高次の批判的思考スキルと専門的知識に基づく読解能力・コミュニケーション能力である高次リテラシーをいかに育成するのかが重要な課題である.その育成には,学習者間のインタラクションにより,コミュニケーションスキルの構成要素である能動的傾聴や議論のスキルを高め,省察を深め,批判的思考力を高めることが重要であると考える.そこで,4名の話題提供者が教育実践や効果測定について紹介し,全員で討論をおこない,今後の課題について検討する.

 

 

協同学習による批判的思考力と心理学リテラシーの育成        

 

楠見 孝

 

心理学基礎教育の目的は,心理学における知識とスキルの基礎を身につけ,それを実生活の問題解決やコミュニケーションに活用する能力,すなわち心理学リテラシーを育成すること,さらに,それを支える批判的思考力を育成することにあると考える.そこで,これらを育成するために,2年生の心理学基礎演習において,Jigsaw法とグループ討論を中心とした授業実践,専門英語の時間に,社会構成主義に基づくコースマネジメントシステムmoodleと仮想空間コミュニケーションシステム3D-IESを用いた授業j実践をおこなった.本発表では、その実践および事前-事後の知識・スキル・態度の変化,討論の過程,ワークシートの分析に基づく効果測定について紹介する.

 

 

市民リテラシーのためのライティング育成環境             

 

鈴木宏昭

 

  ネットワークの普及により,今までごく限られた人にのみ与えられていた,不特定多数の人への発信の権利が多くの人に与えられるようになってきた.ここでの発見は2つある.一つはいわゆるアマチュアと呼ばれてきた人たちが蓄積してきた膨大な知識の体系である.もう一つはネットワークを用いた言論の無秩序さと暴力の横行である.こうした現状を前にして行うべきことは,ネットワーク社会における言論の理念と技術を学生たちに伝えることであると考える.

 我々のチームは青山学院大学総合研究所「大学における基本アカデミックスキルの育成プログラムの開発」というプロジェクトの中で,レポートライティングの概念とスキルを修得させるプログラムの開発を進めてきた.ここで特に重視したのは対面およびネットワーク(Blog)を介した他者との相互作用である.

 この実践を通して,他者との相互作用により論証の質が上がることが示されたのは当然として,よりよい相互作用を促すためには参加者の解釈の多様性,および役割交替が重要であることもわかってきた.発表においては,これらの知見を詳しく報告するとともに,ネットワーク時代における健全な言論へとつなげるための方策を示したい.

 

 

議論を通じた批判的思考力と論理的文章表現力の育成:大学導入教育における文章構成法教示の実践例            

 

岩男卓実

 

少子化による大学全入時代の到来やゆとり教育による学力低下などにより,大学におけるリメディアル教育の重要性が増している.リメディアル教育には様々な目的があるが,本研究では,文章における論理的表現力の改善に焦点を当てた.文科系の大学にとっては,書きのスキルは読みのスキルと並んで最も基本的なものだからである.様々なレベルの論理的文章表現力が存在するが,自分の主張を支持する論拠のみについて論じるのではなく,自分の主張には不利になるような論拠についても論じた上で,文章を構成してゆく力に着目した.他者を説得するには,相手からの反論をきちんと踏まえた上でそれに再反論することが必要になるからである.ところが,多くの研究が,"My-side bias"の存在を示している."My-side bias"とは,自分の主張を支持する論拠のみ論じ,不利な論拠については無視してしまう傾向である."My-side bias"を除去し,論理的に文章を構成できるようになるためには,単に文章構成法の教示だけでは不十分で,批判的思考力そのものを養成することも必要になる.本発表では,こうした問題意識の下で行った実践的研究を紹介する.

 

 

議論の質を測る                           

 

富田英司
 

この数年間,議論スキルを育成する教育ニーズはさらに高まってきており,大学の内外で関連のセミナーやカリキュラムを目にすることが多くなった.しかし,教育効果を確かめるための測定については未だ確立されていないのが現状であり,今後はカリキュラム開発と並行しての議論スキル測定手法の開発が重要課題であると考えられる.本発表では,書き起こしや録音データを使って議論の質を測定する手法と評価の観点について特に検討したいと考えている.

具体的には発表者が現在開発を進めている発話間引用ネットワーク分析(IQNA: Inter -utterance Quotation Network Analysis)を用いた研究事例を紹介する.IQNAは現在のところ(1)個人内対話,(2)個人間対話,(3)グループ内対話,(4)グループ間対話,の4つの領域を対象とする下位分析手法から成り立っており,議論力を様々な観点から分析することが可能である.発表ではこれらの手法が,議論力や思考力の獲得や教育にどのように活用できるか,これまでの事例に基づいて提案する.

 

 

参考:これまでの関連シンポジウム

ワークショップ[批判的思考の認知的基礎と実践](終了) (2004.2)

シンポジウム[批判的思考の心理学的基礎と実践] 日本心理学会第68回大会 (2004.9)

批判的思考の認知的基礎と教育実践 第1回研究会   第2回研究会     第3回研究会  第4回研究会

 

2008.2.15