火曜3限
2001.5.1
教育学研究科D1 松田憲
Robert F. Bornstein and Paul R. D’Agostino
Journal of Personality and
Social Psychology
1992, Vol. 63, No. 4, 545-552
単純接触効果:刺激対象への単なる繰り返しの接触が,刺激自体に全く報酬価の無い場合のように強化子の無い状況であっても,その対象に対する好感度を高める効果(Zajonc, 1968)
○単純接触効果は再生・再認が不可能な状況でも得られる.
→刺激の知覚は単純接触効果の生成に必ずしも必要でない.
○メタ分析の結果,明らかに刺激を再認できる場合よりも再認率がチャンスレベルであるほうがより強い接触効果が得られることが示された(Bornstein, 1989a).
○後のメタ分析では更に,再認の正確さと単純接触効果の強度には負の相関があることが示された(Bornstein, 1989b).
→これらのメタ分析から得られた知見は,これまでのところ実験室実験によって検証されてはいない.
○この問題は以下の2つの理由から重要であるといえる.
1)現在までの単純接触効果のモデルでは,この問題を説明することは出来ない.
→意識の介在しない場合のほうがより強い効果が得られることが確かめられた場合,これまでのモデルを修正するか,新しいモデルを構築する必要がある.
2)サブリミナル現象にも言及できる.
目的
・本研究では,閾上(500ms)・閾下(5ms)による単純接触効果の強度を比較する.
・有意味-無意味図形,接触頻度(0,1,5,10,20)の効果をはかる.
結果の予測
・5ms呈示条件のほうが500msに比べて接触頻度に伴う好意度上昇率が高い.
・500ms呈示条件のほうが5msに比べて再認成績がよく,且つ接触頻度に伴う再認成績の上昇率が高い.
・5ms呈示条件では接触頻度による再認成績の変化は見られない.
実験1
方法
被験者
・本実験‥‥大学生120名(男性49名,女性71名).
・識別課題‥‥大学生20名(男性10名,女性10名).
要因計画
2(刺激タイプ:多角形,写真)×2(呈示時間:5ms,500ms)×5(呈示頻度:0回,1回,5回,10回,20回)の混合計画.刺激タイプと呈示時間が被験者間,呈示頻度が被験者内.
刺激
・多角形と写真25枚ずつ.
・多角形‥‥9~10角形で,ほぼ同等の複雑さと大きさ.
・写真‥無地の背景に女性の顔を写した白黒写真.大学の卒業アルバムより.
装置
3チャンネルタキストスコープ
手続き
○刺激呈示
・2秒間隔で連続呈示.
・呈示時間は5msないし500ms
・各刺激の呈示後に100msでマスク刺激を挿入.
・多角形と写真25枚ずつを5枚5組に分け,それぞれ0,1,5,10,20回呈示.
○刺激評定
・9件法による選好判断及び2件法による再認判断.
・写真刺激は小冊子にて呈示.1ページにつき写真1枚.
識別課題
・5ms呈示の,閾下呈示としての妥当性を検証.
・刺激と白紙のカードを弁別.
結果
選好判断(Fig.1)
・呈示時間の主効果が有意 5ms>500ms
・刺激タイプの主効果が有意 写真>多角形
・呈示頻度の主効果が有意 高頻度>>低頻度
・呈示時間と呈示頻度の交互作用が有意
→5ms呈示条件では500msに比べて呈示頻度に伴う好意度上昇率が高い.
→5ms呈示条件は500msに比べて接触効果が強い.
・5ms呈示条件における呈示頻度の効果
‥‥写真・多角形,ともに有意.
・500ms呈示条件における呈示頻度の効果
‥‥写真・多角形,ともに有意ではなかった.
再認判断(Fig.2)
・全ての主効果が有意.交互作用は有意傾向.
・写真刺激
500ms呈示条件では呈示頻度の上昇に応じて再認率が上昇するものの,5ms呈示条件では上昇せず.
→被験者は呈示された写真と初出の写真の区別がついていない.
・多角形刺激
5msおよび500msのいずれの呈示条件においても再認率の上昇は見られなかった.
識別課題
・写真及び多角形の両条件において,正しく識別出来た確率はチャンスレベルであった.
考察
・写真,多角形のいずれにおいても,閾下呈示された刺激は,明確な再認意識のある場合に比べてより強い単純接触効果が見られる.
・500ms呈示条件において,写真刺激では呈示頻度に伴って再認率が上昇したが,多角形刺激では上昇しなかった.
→多角形刺激は互いに似通っており,識別が困難である.そのために全体的に親近性が高くなる.
・500msで呈示された写真,多角形刺激に単純接触効果が見られなかった.
→同質の連続呈示したことによる?
実験2での変更点
・多角形に替えて,より識別が容易であるWelsh図形を用いる.
・異質な連続呈示を行うことで,被験者の退屈感を軽減する.
実験2
方法
被験者
・本実験‥‥大学生120名(男性52名,女性68名).
・識別課題‥‥大学生20名(男性10名,女性10名).
要因計画
2(刺激タイプ:Welsh図形,写真)×2(呈示時間:5ms,500ms)×5(呈示頻度:0回,1回,5回,10回,20回).
刺激と装置
多角形のかわりにWelsh図形を用いる以外は実験1と同様.
手続き
学習時に異質な連続呈示を行う以外は実験1と同様.
識別課題
多角形のかわりにWelsh図形を用いる以外は実験1と同様.
結果
選好判断(Fig.3)
・呈示頻度の主効果が有意 高頻度>>低頻度
・呈示時間と呈示頻度の交互作用が有意
→5ms ・500msの両呈示条件において呈示頻度の上昇に伴って選好評定値が上昇するが, 5ms呈示条件の方が500msに比べて上昇率がより高い.
再認判断(Fig.4)
・呈示頻度の主効果が有意 高頻度>>低頻度
・呈示時間の主効果が有意 500ms>5ms
・呈示時間と呈示頻度の交互作用が有意
→500ms呈示条件では呈示頻度に伴って再認率が上昇するが,5ms条件ではこのような上昇は見られない.
識別課題
・実験1の場合と同様に,写真及びWelsh図形の両条件において,被験者が白紙と刺激とを正しく識別出来た確率はチャンスレベルであった.
考察
・より識別可能なWelsh図形を用いたことで,閾上呈示条件で刺激接触に伴う再認率の上昇が検出された.
・同質の刺激系列に替わって異質な刺激呈示系列を用いることで閾上でも単純接触効果が見られた.
総合考察
○500ms呈示条件に比べて5ms条件のほうがより強い単純接触効果が得られたのは,500msという呈示時間による被験者の退屈感が影響している.
→二要因学習-飽和モデルによると,刺激への過剰単純接触は退屈感を引き起こし,その結果接触頻度-好意度曲線を下降させる.
Ex)・より複雑な刺激のほうがより強い単純接触効果が得られる(Saegert &
Jellison, 1970).
・同質の刺激を連続呈示するより異成分を混ぜたほうがよい(Harrison &
Crandall,1972).
・全ての先行研究のメタ分析を行った結果,呈示時間と効果の強さとは負の関係にあった(Bornstein, 1989).
・退屈感の介在によって本実験の結果を解釈するには2つの疑問点がある.
1)500ms呈示条件おける20回呈示刺激でも,総呈示時間は10sほどである.
2)500ms呈示条件で,もし退屈感が接触効果を弱めたとしても,接触頻度-好意度曲線は逆U字を描くはずである.
○もう1つの説明:刺激への気付きが接触効果を抑制する.
知覚的流暢性の誤帰属説:刺激への単純接触によって刺激に対する知覚情報処理レベルでの処理効率が高まり,ある種の促進効果が見られる.それによって生じた刺激への親近性の高まりが刺激自体の好ましさに誤帰属されるために好意度の上昇が見られる(Jacoby &
Kelley, 1987).
→再認可能な状況では以前に呈示された刺激に対する好感度を過去のその刺激への接触経験に帰属させ,その結果として呈示刺激に対する好意的反応傾向を抑制してしまう.
→この効果は閾下呈示のように再認判断が妨げられた状況においてより顕著である.
・知覚的流暢性の誤帰属説での解釈における不明な点
1)被験者が,刺激の親近性が後の選好評定に影響することを気付いているかどうかが明らかにされていない.
2)単純接触効果実験において,再認可能な状況下でなぜ被験者が接触頻度に基づく選好評定を修正しようと動機付けられるのかも明らかでない.
○モデルの検証
結果の予測
・知覚的流暢性の誤帰属モデル
‥‥接触-再認の影響の強い被験者は逆に接触-選好効果は比較的弱いであろう.
・二要因学習-飽和モデル
‥‥高い接触頻度時は接触-選好効果は弱められるが,刺激への接触は再認・選好判断において同様の効果を持つであろう.
合成得点の計算
・合成得点は,一方は選好における接触効果を,他方は再認における接触効果を表現している.
・合成得点は各被験者の選好・再認得点に各接触頻度の重み付けを行う(-2,-1,0,1,2を掛ける)ことで算出.
・接触-再認得点と接触-選好得点を得るために,合成得点を足し合わせる.
・これら二つの合成得点間の相関を計算.
計算結果
・実験1:接触-再認得点と接触-選好得点の相関係数r=-.23*
・実験2:r=-.26*
※知覚的流暢性の誤帰属モデルを支持.