2001年6月15日 ブラウンバックセミナー

担当:岩谷洋史

(レジュメ)

Expert and novice differences in cognition and activity: A practical work activity

Edith A. Laufer and Joseph Glick

 

序〔Introduction〕

 

・論理/合理主義思考モデル→人々が日常生活や仕事で直面する、もっと平凡なタスクにあてはめられるのか?何が現実世界の活動での問題解決を構成するのか?

・ここでの研究→日常的な仕事タスクでの熟達者/初心者の相違の調査に活動理論を応用

 

■論理/合理主義の思考方法〔Logical/rationalist model of thinking〕

 

・熟達者と初心者のパフォーマンスは、ある有意味なやり方で異なる(Glaser, 1986)。

・問題解決理論→主な関心の的は、世界における認知的優越モデル。いかにして、どこで知識が獲得されるのかという問題点を考慮しないし、社会的かつ動機的アスペクトの意義に向いていない。このため、論理/合理主義的思考モデルを自然な、あるいは仕事環境で日常的活動の研究に拡大することが、とりわけ問題をはらむこととなってきた(Lave, 1988)。

 

■仕事への活動アプローチ〔Activity approach to work〕

 

・活動理論→まず活動領域内の活動構造に注意。合理性、個人的感覚の要素を含。

(例)仕事タスクか、目標指向的諸行為〔goal-directed actions〕の調査。バーテン(Beach, 1985)、家事掃除(Engestrom and Engestrom, 1985)、乳製品アセンブリ(Scribner, 1984a,b)、ナヴィゲーション(Hutchins, 1994)やかじ屋(Keller and Keller)などなど。

Scribnerの調査→論理/合理主義的伝統からの離脱。熟達者のパフォーマンスには、柔軟性があり、“解決法のモードは経験と知識とともに変化した。”初心者/熟達者のシフトが一般的なものの熟達から具体的なものへ。

LewinとRupp(1928)→機械、働く人、そして、それらの特定のインタラクションを、自然な環境内の具体的な仕事活動におけるダイナミックな単位として見なした。紡績機械を使う織物労働者の実時間の相互作用を調査。

初心者→諸機械をうまく使えないが、それは、彼らが諸行為を適切に組織化することに欠如。

熟達者→行為を組織化する。

“ゆったりと過ごすもっと自由な時間をもてたし、そんなに奮闘する必要がない良好な仕事状況にいた。”

 LewinとRuppは、また、働く人の“個人的目標〔personal goals〕”がどのように仕事活動に影響を及ぼすのかにも注目。

LewinとRuppの研究での熟練者と初心者との相違

           熟練者は、知識の組織化の点で、実に、より熟達しているのである。

           熟練者と初心者は、その知識が“何”についてのものなのか、において違いがあるという事実である。

 

⇒活動―行為―志向性のスキーマを用いることで、古典的な合理主義的研究モデルから離脱していることを示している。調べる方法として、それは、分子的なものとモル的なものとの関係へと、分析対象としての動機づけや社会的インタラクションを含む分析単位を移す。

 

■研究目的〔Research aims〕

 

理論として、方法論として活動アプローチを用いることにおいて、私たちのねらいは、このフレームワークの影響を考察することである。(a)自然な環境〔settings〕での仕事活動を調べることに向けて、そして、(b)知識や動機づけの構造を含む仕事活動における初心者/熟達者シフトの本性を調べることにおいて。

 

■活動とその環境〔Activity and its setting〕(図1を参照)

 

方法〔Method〕

 

四相のマルチメソッド・アプローチを利用された(see Scribner, 1984b, 1986)。

           オフィスで働く人全員と上層と下層のマネージメントのインタヴューと観察に基づくエスノグラフィックな情報

           仕事活動をモデル化するために考案された擬似自然主義的タスク

           いかに、働く人たちが、精密部品の知識を組織化するのかをもっと形式的に調べる経験的タスクでなった(see Laufer, 1990a, 1990b)。

           一時間の効果測定試験インタヴュー。

 

■エスノグラフィー的情報〔Ethnographic information〕

 

           進行中の活動の形式的な自然主義的観察、録音インタヴュー、雇用者との毎週の“ざっくばらんな話し合い”。

           ほとんどの働く人は、長い間机につかず、事務所は、恒常的インタラクションの中心。

 

■電話販売〔Telephone selling〕

(a)買い手からオーダーを得ること。

(b)注文に応じるためにインベントリーをチェックすること。

(c)もし在庫がなかったら、他製造元から製品を買うこと。

(d)アイテムの値段を決めること。

 

■製品のオーダーに応じること〔Filling product orders〕

理想的には、

           販売員が慎重に顧客に質問→必要とされる情報全体を記録。

           契約→部品製造業者から利用できる製品、そのアイテムの製造、被覆、第二プロセスなどなどに要る時間のようなファクターの組み合わせにもとづく。

           物の勘定書→タイプに分割され、詳細目録から引かれるか、部品製造業者から注文される。

 

■参加者〔Participants〕

マネージメントと電話販売員。電話販売員は、販売量、賃金収入など二つの範囲に熟練に応じて選ばれ、ランク付けされた。これらは、経験年数に相関していた。その基準で、重複を避けるために、24人の販売員を選択。経験年数3年以下の新参者、経験年数7年以上の古参者。

 

■オーダー処理:擬似自然主義タスク〔Order processing: A quasinaturalistic task〕

・仮説的なオーダー。参加者は “考えていることを口にし”、プロセスの各段階を説明。他の従業員や主任の助言を求めたり、詳細目録、参照資料、カタログ、計算機、鉛筆、紙を使ったりすることが可能。→カセットレコーダを用いて録音し、後でトランスクリプト。観察は、プロトコルデータへ。

・オーダーは、5つの特殊な精密部品でなっている。

・一つのコード化システムの考案

 “ステップ”→当該のアイテムのある物理的アスペクトに直接関わる、自己生成的な問題か、一つの包合的な外的手段のどちらか。(注)現実の価格算定はステップとして考慮外。

“部品の直径はどのくらい?”という質問→ナンバー1

参加者がカタログにある寸法を調べようとする→ナンバー2

 

次のものに数字が割当てられた。

(a)参加者がもつ知識から生じる質問による言表化〔verbalization〕。

(b)外部のリソースを含む外部行動的行為、詳細目録のファイル、カタログのチェック。

(c)他の人物の助けを求めるようなコミュニケーション行為。

 

結果〔Results〕

 

■質問提示とステップの分析〔Question-asking and analysis of steps〕

 

・初心者→最初の3ステップの63%は、外的ステップ。それらのうち、25%は、他の働いている人。問題解決プロセスのかなり始めから外的リソースや他の人々の手助けを必要。

・熟達者→10%のステップでもって、オフィスの物質的対象を利用。

 熟達者が質問したのは、必要な顧客への質問数の半分以下であるという事実。

 

■誘因質問〔Trigger questions〕

 

・熟達者の最良とは言えないパフォーマンス

熟練者は、値段を決める際に、とりわけ関わりのある質問―“引き金”質問―をする。価格に影響する質問が、生産コストに係わる次元に焦点を当てる。

・初心者

アイテムに値段をつけるために、すべての次元を知らなければならないと考えた(論理/合理主義の線的モデルに近い)。

 

■質問と目標〔Questions and goals〕

 

・熟達者の目標

熟達者が誘因質問をする際、質問提示〔question-asking〕タスクに価格についての別のシステムを置く。“このアイテムがどのくらいかかるのかを決めればいいのかわかるのに、どんな次元が必要なのか。”熟練者は、行為の目標を変え、会社の多次元的な書かれていない規則に関心を向けた。

 

⇒熟練者と初心者が異なったタスクを行ってきたこともありうる。さらに、タスクのデザインがさらなる情報の需要を切り詰めてきたかもしれない。これらの販売員は、値段を決め、オーダーをとった後、顧客に諸質問をする。

 

⇒熟達者がオーダーを得て、応じるのにあたって、スタンダードな情報全部を獲得することなく、価格を推定する冒険をする。さらに、しばしば、最初、値段をつけようとし、次にアイテムの寸法〔dimension〕に関連する質問。“ワーキング・バックワード”の方法を利用。

 

■値段をつけること、価格を推定すること、そしてワーキング・バックワード〔Pricing, guesstimating price, and working backwards〕

 

・熟達者と初心者の方法

熟達者→ワーキング・バックワードの方法。熟達者は、価格決定を始めることによって、質問提示と価格決定の相を一つのタスクとして理解する。

初心者→ワーク・フォーワード。初心者は、熟達者よりも価格を推定することをはじめそうにない。2つのタスクとして質問提示〔question-asking〕と価格決定タスクの相を理解しているか、限られた知識のため推定する気にならないのか。

 

・熟達者の方法に関するインタヴュー(翻訳文参照)

・なぜ初心者の誰も、熟達者が答えるように値段を検討しないのかの理由(翻訳文参照)

 

⇒顧客や売り手を知ることで価格を推定(ワーキング・バックワードのもう一つの形)。テクニカルな知識の獲得とともに、電話販売員は、“商売の才”を自由に発達させたり、実行させたり、すなわち、顧客や部品製造業者ともっとリラックスして交渉するようになることが示される。

 

■知識と価格を決めるときの外部情報〔Knowledge and outside information in pricing〕

 

           外部情報利用おいる相違(表1を参照)。

①もっぱら“外部情報”―オフィスにあるファイル、本、カタログや、売り手や会社内で働く人たちからのどんな情報も―を利用した参加者。

②“ある部分、外部情報、別の部分、パーソナルな知識”を利用した参加者。

③完全にアイテムの価格を推定し、“内的知識”のカテゴリーによった参加者。

 

ZinchenkoとGordonからの引用(翻訳文参照)

 

・熟達者と初心者の相違

熟達者→内的知識の優位を利用する。

初心者→主に外的情報を利用する。

 

⇒熟達者と初心者は目標に至るのに、異なるが機能的に同質の手段を用いていることが示唆される。

・さらなる相違

熟達者→さらにしばしば、初心者よりも、値段をつけた。熟練者はフレキシブルで、利便性、消費者のタイプ、量などなどのようなファクターに基づいていくつかの値段をつけた。

初心者→タスクが一つの正当な答えを求めていると考えた(表2を参照)。大部分の品目を普通より安く値をつけるが、それは、アイテムがスタンダードであると考えたり、あるいは、顧客を失ってしまう危険があると恐れたりするから

・熟達者によるワーキング・バックワードの説明(翻訳文を参照)

 

⇒この研究で、結果から、初心者によって確立される表象は、一つの価格を要求する会社の規範に導かれた。対して熟達者は、一つのオーダーに終わるだろうと考えるその一つの価格に係わる、いろいろな価格を推量した。このことにより、オーダー処理が、初心者にとっては、良構造の問題であるかもしれないが、しばしば熟達者にとっては、明確でない問題であるかもしれないことが示される。熟達者は定式化〔formulation〕とスタンダードの価格の点で良構造の問題をとり、それらを悪構造の問題へ変形した。しかしながら、活動のパースペクティヴからだと、問題点は、さらに複雑である。

 

活動アプローチ〔An activity approach〕

 

活動かタスク、すなわち販売オーダーに応じることの具体的なタイプに従事する全人格のレヴェルでの分析単位がこの研究の対象である。

 

■目的活動の第一レヴェル:初心者から熟達者までの目標動機の再組織化〔The first level of object activity:Reorganaization of goal motives from novice to expert〕

 

・目標の動機

目標の動機は、意識的な動機として定義されるが、熟達者を初心者から区別するのに中心的な役割を担っていることが示唆される。

Leontiev(1979, 1981a)→動機付けは、個人〔person〕の内側からでてくるのではなく、社会的に構築された活動に参加することを通して、そのなかで起こる。

 

初心者→個人的な目標の動機と初心者の会社のアジェンダは、一つの対象に集中。会社にとってもっとも良いことをする。なによりも会社のスタンダードに応じて、オーダーを処理することだった。個人的感覚や(会社)組織的な意味は、ひとつ。

熟達者→仕事をしている間、熟達者の仕事活動は変化し、しばしば相反する対象へもっと直接に向くようになった。オーダー・バウンド・スキル(すなわち、経営上のタスクとしばしば関わる決定と責務)へと上がる仕事活動のこのシフトは、熟達者のなかで、ある企業状態に達する非現実的理解か幻想を強化。

 

・初心者と熟達者のインタヴュー(翻訳文を参照)

 

⇒社会的意味や個人的感覚は多くの熟達者にとって分離するようになった。言い換えれば、熟達者は、個人的要求と会社の要求との矛盾した要求のなかに捉えられた。彼らはいくつかの目的をもち、“現実と同時にいろいろな関係”(Leontiev, 1979, p. 73)をもっている。

 

・図式的なモデル(図3を参照)

 

■表層から複雑な多層社会諸関係への変化〔Transformation from surface to complex multilayered social relations〕

 

・熟達者であること

熟達者全員が、親密関係が熟達者であることで重要な役割を担うことを認める。

・インタヴューからの引用(翻訳文を参照)

 

⇒働く人の社会的特性における主な熟達者/初心者の相違が、彼らの関係(交渉)のパターンに集中した。

 

初心者→顧客とモノローグのような、表面的な、親密な関係をもつように努めた。

熟達者→熟達者の反応は、仕事世界で多くの様々な、同時の諸関係レヴェルをもつ。一般的により深く、もっとダイアローグ的に、ダイナミックな関係を顧客や部品製造業者と展開。しばしば感覚的な構成要素がある。

 

3層の初心者/熟達者シフト(表3を参照)

初心者は“事務の販売”、熟達者は、“電話販売”に参加。

 

■行為や操作レヴェルでの熟達者/初心者の相違〔Expert/novice differences on the level of actions and operations〕

 

・初心者/熟達者のシフト(表3)

熟達者によるさらなるオーダー・バウンド・スキルへの動きと、初心者と比べて、活動構造でより低い次のレヴェルへ同時に質的シフト。例えば、内部や外部の手段、すなわち、仲介フォーム、そして、それらの変転が調べられるとき、それらは、初心者/熟達者のシフトを示している。

 

初心者→外部手段を用いる。アイテムを定めるのを助けてくれるように他の共に働く人に尋ねるように。目標はアイテムの特徴を明確にすることであり、これはどのようにそのアイテムの値段がつけられるのかを構造化した。

熟達者→初心者の外部行為を内部操作、すなわち、自己生成的質問へ変えた。目標は、価格を推定すること。価格は、質問提示〔question-asking〕を構造化。タスクの質問提示の構成要素に、商売実践のある局面を重ねた。

 

⇒価格は、全体的商売実践によって構造化。質問提示〔Question asking〕、社会諸関係、動機づけ、目標すべてが関与。意味や感覚でさえ、熟達者の場合、価格へ凝結した。

 

熟達者→その産業の企業文化の一部になって、その文化を反映。多くの選択的方法をもっていたので、危険を犯すだけの余裕がある

初心者→目標は質問すべてをすること。危険を犯せない。行為は、目標によって制約。

 

■電話販売における問題解決は何か〔What is problem solving in telephone sales?〕

 

・何が問題や問題解決状況を構成するのか?

唯一の正当価格を与える目標をもつということは、初心者にとって一つの解決法を構成するが、常に、熟練者にとっては、そういうわけではない。

 

⇒多くの熟達者にとって、多数の現実において、多数の目標がある。顧客や状況のタイプに応じての価格決定は、動機付けや価値の諸アスペクトを反映。熟練者と初心者が異なったタスクを実行するという事実。言いかえれば、社会的、物質的構成要素の割合は、初心者から熟練者まで変化。

 

初心者→オフィスやそのなかの人々の社会文化的構造が、オーダー応対活動に主要なリソースをもたらした。

熟達者→オーダー入手は多レヴェルで、多目的の現象であり、初心者とは、量、質とも相違する行為や操作を相互発生させる。オフィス環境の範囲を越えて、リソースの全体的社会ネットワークを包摂。

 

結論:熟達性と初心者性としての熟達者と初心者〔Conclusion:Redefining expert and novice as expertness and noviceness〕

 

・工業精密部品の知識→専門知識の唯一の尺度ではない。より大きなデータベースが、専門知識の発達を促進。

 (例)事務的仕事人としての初心者、テクニカルな局面とスタンダードな手続きが学ばれる。その後、タスクの他アスペクトすべてを思うままに統合する。

・熟達者/初心者の相違の概念→商売の才の利用と呼ばれうるものにおけるバリエーションに焦点。

 

⇒熟達者性と初心者性は、熟達者、あるいは初心者である個人から分離されえない。

 

・熟達者であること→特定の仕事活動に参加し、それを変形。自分自身が変形されるプロセスに参加。

電話販売の仕事→初心者と熟達者は活動が異なる。主体、客体の相違。つまり、ある活動システムから別の活動システムへの大きなシフト。

・新しい仕事需要の創出→知識の組織化、個人的諸関係、ここで論じた交渉は変化。

・これら熟達者はどこへ行くのか?