Sundermeier, Brian A.; van den Broek, Paul; Zwaan, Rolf A. 2005 Causal coherence and the availability of locations and objects during narrative comprehension

Memory & Cognition, Volume 33, Number 3, 462-470(9)

要約

この研究の狙いは、物語に出てくる物の位置が物語の因果関係において重要性を持つかどうかによって、物語を読み進めていく中である時点において符号化された物の位置の情報を、読者が異なる時点において利用できるかどうかを検証することである。5つの実験において参加者は、物とその位置の関係がcritical文(その物語の結末を決定する重要な文)に対して因果的説明を与える物語と与えない物語の両方を読んだ。ターゲットとなる物とその位置を表す単語は、決定的結末が起こる直前か直後のどちらかに示された。ターゲットとなる単語に対する認知反応時間の結果は、その単語が因果関係上、重要性を持ったcritical結末の直後においてのみ位置と物の記憶が再活性化されたことを示した。実験結果は、物語の内容の因果構造が空間情報の利用可能性に影響を与え得ることと、少なくとも何らかの空間的関係が読んでいる際に符号化され、一貫性を構築する必要性が生じた時にその記憶が利用可能となることを示した。

 

■ キーワード

メンタルモデル(Mental model);人が外的状況(知覚したもの、文・発話など)から変換した内的モデル、心的表象。物語を読む際には、読んだテキストに即した心的表象、つまりメンタルモデルが作り上げられる。結束性・一貫性の高い表象を作り上げることが物語理解につながる。

 

■ 物語読解において構成する2種類のモデル

1.テキストベース;テキストの内容に即して作られた表象。テキストの意味や論理構造による。

2.状況モデル(Situation model);テキストに記述された内容と読者がもともと持つ知識から構築される状況に関するメンタルモデル(van Dijk & Kintsch,1983)

状況モデルの構成要素[1] 

@      空間・時間の枠組み

A      実体(人、物など)

B      実体の属性(色、形、感情など)

C      関係を示す情報(因果関係、所属関係、親族関係など)

 これらの構成要素間にも意味ある関係を認識できることが物語理解につながる。

 

■ 物語理解における状況モデルとワーキングメモリの働き[2]                   

テキストが描写する状況から内的に状況モデルを作ることによって物語理解や因果関係の予期的推論(predictive inference)が可能となる。ワーキングメモリは、状況モデルの保持・精緻化を行う。

e.g.・「三匹の亀が丸太の上に座っていて、魚が亀たちの下を泳いだ。」

→魚は丸太の下を泳いだと推論する(空間的関係の推論)

・「歯医者に行って親不知を抜く。その晩、頬が腫れる。」

→親不知を抜いたことが原因で頬が腫れたと推論する(因果関係の推論)

      このように、物語理解においては、単に受動的に一文一文の情報を受け取っているのではなく、文と文の関係を推論している。

      ワーキングメモリの構成要素の利用可能性は、テキストの中でその構成要素がどう機能するかに応じて変わる(Kintsch,1988;Myers, O’Brien, Albrecht, &Mason,1994; van den Broek, Young, Tzeng, &Linderholm, 1999

e.g. ある物の位置が主要人物に近いほど、その位置情報はワーキングメモリ内でより活性化したものとして保持される(Glenberg et al., 1987)

 

      しかし先行研究では、物語を読む前に、出てくる物の位置を覚えるようにという特別な教示がなければ参加者は詳細な空間情報を保持しないという実験結果もあれば(Albrecht & O’Brein , 1995 ほか)、特別な教示がなくても保持し続けるという実験結果もある(Bower , Black ,& Turner ,1997ほか)

→実際に読んでいる最中に、空間的情報が符号化・保持(つまり状況モデルが構築・保持)されていたかどうかが分からない。

 

■ 物語理解における因果関係の重要な機能

      物語の因果関係に関連した出来事は関連しない出来事よりもより重要に扱われる。Trabasso&van den Broek,1985

      読者は因果関係をつかむためにはワーキングメモリを越えて必要な情報を検索する。(Graesser et al.,1994

⇒物語理解において因果関係を示す情報は欠くことができないことを考えると、空間的・位置情報が物語の因果関係に関連してくる場合、それらの情報は読解中に符号化・アップデートされるのではないか。

 

■ 仮説

物語理解における因果関係の重要な機能を考慮すると、物の位置情報が、物語の因果関係を説明する上で重要な役割を果たす際、その情報の利用可能性(ワーキングメモリ内で状況モデルが保持され、必要時に再活性化される可能性)は高まる。

・仮説を検証するための三方向からのアプローチ(Magliano and Graesser,1991

@      決定的出来事が起こった時に一貫性が欠けており、因果関係からの推測を必要とするようなテクストを作成(causal network theoriesの使用)

A      読んでいる際に考えていることを声に出してもらうという実証可能な検証方法の使用

B      物語に出てくる物とその位置に関する情報が実際に符号化・再活性化されているかどうかを参加者から直接調べるために反応時間を測定

 

*空間的情報(spatial)は、位置(location)と物(object)を含む

EXPERIMENT

 

      実験1 読者は常に他の時と同じような予想、背景知識、精神的注意深さをもってテキストを読むわけではない。それゆえ、理想的な状況のもとで、読者が何ができ、何を理解できるのかを発見することは有益である。

      目的:それぞれ他の文章と関係付けられた文章を、読み、考える時間を無制限に与えられたとき、読者がどの程度、空間的・位置的情報を活性化させるかを測る。

      発話思考を使って、参加者は短い物語を読み、各文を読み終えたとき発語思考するよう教示された。

仮説

      もし、一貫性の破綻(coherence break)中に、読者が空間情報を符号化し、その後で活性化していれば、物とその位置が因果的にその結末と関係している物語の結末の文を読んだ時に、そうでない物語の結末を読んだ時より、特定の物によく言及すると予想できる。

 

      方法

Ø         被検者

      ミネソタ大学の18人の心理学の授業を受けている学生。全学生は第一言語としてアメリカ英語を話し、正常な、あるいは正常に矯正された視力を持つ。

Ø         材料

      日常生活の出来事を生き生きと描写している推論的(暗示的)状況からなる12の短い物語を作成。

      全物語は

@      登場人物や場面設定、筋書きなど物語の一般的背景

A      物、前置詞や位置を含むcritical空間的情報

B      最低3文の、空間情報に無関係なフィラー素材

C      予測しえない結果を述べるcritical文章

D      物語の流れにとって必要なときは、物語の続き

5つの部分からなる。物語の長さの平均は、16.5文。文章の複雑さはもっぱら主節に1つの動詞に制限。従属節は5語以下の前置詞句あるいは副詞句。

      2バージョンの文・・物語の結末が空間情報(物、前置詞、位置)との因果関係の有り/無し

      この2バージョンの違いは最小限に抑えられた

      物語は、物だけあるいは位置だけでは結末を導くのに因果的に十分ではないように構成

      テキストは実際に結末に至る前に結末について推論するのを避けるように、またcritical文章をフィラーによって結末の文章から離すように作成された

Ø         デザイン

      12の実験的文章をランダムに6つずつ2セットに分け、参加者はランダムにどちらかのセットに割り当てられた。

      それぞれの6つの物語の内訳は、半分の参加者は3つの因果関係のバージョン、3つの統制バージョンで、残りの半数の参加者はその反対。→一人6文読む。

      提示段階の物語の順番は参加者ごとにランダムに決定された。

 

Ø         手続き

      単独法で実験

      ラインのないインデックスカードで一文ずつ物語を読み、それぞれの文章について考えたことを言葉で表現

      練習の物語は6つの実験的物語の前に実施した。

      10秒以上の沈黙があった時に、発話の促しが行われた。

      参加者の発話は実験の間中、録音された。全実験はおよそ30分から45分であった。

 

      結果

      全検定においてα=.05。参加者とアイテムによる効果を分析した。

      critical箇所(結末)で物が言及された割合の平均は、参加者(t1(17)=11.12, p<.01)・アイテム(t2(11)=3.75, P=.0015)のどちらで見ても 因果関係(M=.47, SD=.135)>統制(M=.09, SD=.055)

      統制群ではごく少数の参加者が言及し、因果群ではより多くの参加者が言及したことにより、テキストの操作を支持した。さらに読者が、十分な時間と供給源が与えてあれば、もの情報が物語の結末との空間的関係の効果によって因果的に関連がある時に限りもの情報を再活性化することを示唆した。

 

      実験2 

      目的

Ø         読者は自発的な読解中に位置情報を符号化するのかどうか

Ø         空間的情報がテキストに因果的に関連する時に、それについて推論がおこるかどうか

 

      実験2A

      物の空間的位置を表すプローブ語(プローブ:probe word)を、critical文あるいは結末の文の直後の、位置に関する推論が実験(experimental)条件の結末に因果的説明を与えるであろう時点、に参加者に提示 

仮説

      もし、読者がsurprising event についての因果的説明で位置情報を使っていれば、そしてもし位置情報が結末を作るときに利用できれば、参加者のプローブ単語への反応時間は、統制バージョンより因果的関係バージョンのほうが、より早くなりまた(あるいは)より正確になる。

      もし読者が位置について推論を行わなければ、あるいは位置情報を利用しなければ、2つの条件の間にプローブ語に対する反応時間と正答率に有意な差は見られないだろう。

 

      方法

Ø         参加者

      37人のミネソタ大学の心理学の授業をとっている学部生。実験1と同様の基準で選ばれている。

Ø         材料

      実験1と同様。

      位置の単語がターゲットとして提示。

      12の実験的物語にくわえて、それらと長さと形が似たフィラーの物語を構成し、それにはテキストでは出てこないターゲット語が組み合わされた。

Ø         デザイン

      それぞれの参加者が12の実験的物語と12のフィラー物語を読んだ。

      それぞれの参加者は、一つの物語に対して因果関係バージョンか統制バージョンのどちらか一方でしか見なかった。そのため、物語をランダムに6つの因果関係バージョンと6つの無関係のバージョンの2セットに割り当てた。

      両方のリストの物語は、参加者間でカウンターバランスされ、物語の順序はそれぞれの参加者に対してランダムに決定された。

Ø         機器

      刺激の提示とデータの収集はIBMのパソコンのMicro Experimental Laboratory Version 2.0によって統制された。

      テキストの提示は自己ペースで、反応は4つのボタンの反応ボックスで1msec以内の正確さで行われた。

Ø         手続き

      教示:

l          参加者はテキスト理解に関する実験に参加している。

l          参加者は自身の普通の読書スピードでそれぞれのテキストを読むように、そしてそれぞれのテキスト読解は2つの課題、再認課題と理解課題に関わる

      練習試行・・・疑問点はその場で明らかにされもう1題の練習試行を行った。

      左手の人差し指を反応ボックスの一番左のボタンに、右手の人差し指と中指を右よりの2つのボタンに置いた。

      それぞれの物語は一度に1節ずつスクリーンの中央に提示

      参加者は左人差し指でボタンを押すことで物語を進める

      実験的物語のcritical文章を読んだ直後に、参加者はターゲット語のすばやい再認を行う

l          5つのアスタリスクの列(*****)が500msecスクリーン中央に提示され、すぐに単語に置き換わった。その単語が以前テキストの中で見たことがあるかを判断。半分の試行では物語の中に出てきた単語で、残り半分の試行では出てきていない単語を使用。この課題が簡単過ぎるようにならないように、フィラー単語の長さと出てくる頻度を調節し、物語に出てくる単語と関連するように構成した。参加者は右人差し指でyesの反応、中指でnoの反応をした。参加者はできるだけ正確に、すばやく反応するように教示された。

l          ボタンを押してから次の課題までの間は(正確さの即座のフィードバック)は1000msec

      ターゲット語に対する反応時間と正確さが記録。

      参加者がそれぞれの物語を読み終わったあと、彼らは表面的な理解や調査用課題への戦略的反応を避けるためにyes/noの質問を提示された。(例→Appendix

      フィードバックはターゲット語のときと同様に行われた。(質問例はAppendixに)参加者は24の物語を読み(6つの実験、6つの統制、12のフィラー)、平均35分で実験を終了した。

      結果

      参加者の反応時間と正答率を従属変数とする。

      コンピュータプログラムに困難を感じた人のデータは分析から外された。各条件での正答の反応時間が長い、上から2.5%はカットオフされた。ある参加者、あるいはアイテムの75%以上のデータが除外された場合、その参加者、アイテムの全体のデータは除外された。

      1はプローブ語の正答率の平均と反応時間の平均を表している。反応時間は因果関係条件(F1(1,36)=5.33, MSe=29.737, p=.03)のほうが統制条件(F2(1,11)=4.87, MSe=10.709, p=.05)より有意に短い。

      実験的条件と統制条件の間の正答率は有意差なし(両方ともFs<1)

      因果関係条件における理解問題の正答率(M=87%, SD=0.18)は統制条件のそれ(M =84%, SD =0.17; Fs<1)と有意差なし。

 

 

      実験2B:実験2Aでは、位置プローブ語は結末の直後に、統制条件より因果条件のほうがより高く活性化されていた。このことは、空間情報についての推論がなされたことを示唆している。これらの結果は実験1の結果と一致している。

      目的:今までの実験での結果は、推論が起こったからではなく、最初の教示の後で、かつターゲット語の前に、位置情報が活性化された、その程度の違いで起こったという可能性もある。そこで、本実験ではプローブ単語を、結末の文章の直前に提示する

仮説

      もし、実験2Aで、因果関係条件と統制条件がテキストで言及された後で、位置の保持あるいは事前の活性化で異なっていれば、統制条件より因果関係条件において位置プローブ語への反応はより早くなり、また(あるいは)より正確になるはずである。

      対照的に、もし結末に先立って活性化の程度に違いがないならば、物語の統制バージョンと因果関係バージョンの間に、ターゲット単語への反応時間・正確さに有意な差はないはずである。

      方法

Ø         参加者:ミネソタ大学の38人の心理学の授業を受けている学生。他の条件は今までと同じ。

Ø         材料:実験2Aと同じ

Ø         デザインと装置:実験2Aと同じ

Ø         手続き:調査したい語がcritical文章の前に提示される以外は、実験2Aと同じ。

      結果

      1はプローブ語の正答率の平均と反応時間の平均を表している。参加者分析とアイテム分析のどちらにも反応時間と正確さの間に有意な差はない。それゆえ位置情報が結末文に先立って、再活性化や保持する証拠はない

      因果関係条件における理解問題の正答率(M=91, SD=0.14)は統制条件の正答率(M=89%, SD =0.15; ともにFs<1)と統計的に有意な差はない。

      反応時間のパターンの結果は実験2A2Bで異なることを示すために(それぞれターゲットが結末の前・後)、両実験から得られたデータを参加者間要因の実験として一緒に分析した。参加者による分析で因果条件と実験の間に有意な交互作用が見られた(F1 (1,73)=3.82, MSe =16.517, p =.05; F2 (1,22)=2.06, MSe =9.458, p =.17)。このことは、因果的説明の推論が生成された後のみ、位置情報の反応時間は因果関係条件の方が統制条件より短くなることを示唆している。

 

      実験3 実験2A2Bの結果は、因果条件と非因果条件の間の位置の処理の違いを反映している。特に、参加者は結末が位置プローブ語と因果関係があるときに、結末を読んだ後により早く反応している。このことは、位置単語はcritical結末文に因果的説明を与える必要がある時に回復されることを示唆している。おそらくこれは、位置はもともと符号化されていたことを意味する。

実験3A3Bでは物は回復されるかという問題に焦点をあてた。『物と位置は状況モデルで結びついている』という我々の仮説に基づけば、実験2A2Bの位置で観察されたのと同じパターンが予想される

 

      実験3A

      目的:物と位置はシチュエーションモデルではつながっているものであり、実験2A2Bの位置条件で観察されたものと同じようなパターンがもの条件でも見られるのではないか。物プローブ語を結末文の後に提示した。

仮説

      もし読者が、物情報が結末に因果関係を持つときにのみ、それに関連した推論をするならば、参加者のターゲット単語への反応時間はテキストの統制バージョンより因果関係バージョンのほうが短くなるだろう。

      対照的に、もし読者が物情報を回復しなかったり物情報を符号化しなければ、2つの条件の間に反応時間の差は見られないだろう。

      方法

Ø         参加者:ミネソタ大学の41人の心理学の授業を受けている学生

Ø         材料:実験2A2Bと同じ。

Ø         手続き:実験2A2Bと同じ

      結果

      1はプローブ語の正答率の平均と反応時間の平均を表している。プローブ語への反応時間は因果関係バージョン(F1 (1,40)=11.29, MSe=14.309, p=.002; F2 (1,11)=6.08, MSe=6.876, p=.03)のほうが統制バージョンより有意に短い。

      実験群の正答率と統制群の正答率には有意な差はない(ともにFs<1)

      因果関係条件の理解質問の正答率(M=90%,SD =0.13)と統制条件の正答率(M=91%,SD =0.12; Fs<1 )には統計的な差は見られなかった。

 

      実験3B 実験3Aでは、物プローブ語は結末のに提示された(原文はbeforeになっているが)

 

仮説

      もし、実験Aで因果関係条件と統制条件が、テキストで言及された後で、物の保持あるいは、その事前の活性化に違いがあるならば、統制条件より因果関係条件において物プローブ語の反応はより早くなり、また(あるいは)より正確になるだろう。

      対照的に、もしターゲット語に先立って活性化に違いが無ければ、物語の統制バージョンと因果関係バージョンの間にターゲット単語への反応時間・正確さに有意な差はないだろう。

 

      目的:物プローブ語を結末の前に提示し、結果をみる。

      方法

Ø         参加者:ミネソタ大学の43人の心理学の授業を受けている学生

Ø         材料:実験3Aと同じ

Ø         手続き:実験3Aと同じ。ただし、調査したい単語をcritical文章の前に提示した。

      結果

      1はプローブ語の正答率の平均と反応時間の平均を表している。

      参加者分析とアイテム分析のどちらにも反応時間と正確さの間に有意な差はない。それゆえ物情報が結末の文に先立って再活性化されたり保持される証拠はない

      因果関係条件における理解問題の正答率(M=93, SD=0.12)は統制条件の正答率(M=94%, SD =0.10; ともにFs<1)と統計的に有意な差はない。

      因果条件は実験3A3Bをつなげた分析において実験と交互作用がある(F1 (1,82)=6.31, MSe =14.410, p =.014; F2 (1,22)=2.66, MSe =7.542, p =.12)このことは物情報への反応時間が統制条件より因果関係条件のほうが短いことを示唆しているが、それは因果的推論が生成された後だけである

      さらに、片側のt検定と因果関係条件の反応時間との比較で結末の後に提示された物プローブ語への反応時間は、参加者による分析で結末の直前に提示されたターゲットへの反応時間より有意に短いことが明らかになった(t1=1.73, p=.04)

 

      実験3A3Bの結果は、物が結末に対して因果的説明を与える時に限り、結末の後に物が回復されることを証明している。それゆえ、物での結果は位置で得られた結果と同様で、ともに読んでいる間に符号化され、後の処理に利用される。さらに、位置と物はそれらが因果的に関連しているときに限り、テキストの後の時点で回復される。

 

 

GENERAL DISCUSSION

5つの実験から

      読解中、因果的一貫性が必要なときは、空間的な情報が再活性化(reactivated)される。

      Ex 2B,3Bから、この再活性化は、文字通り「再」活性化であることが示唆された。

Ø         単なるワーキングメモリの保持ではない。←物(object)も位置(location)も結果文以前には活性化されなかったため。

Ø         さらに、物と位置の再活性化は、初読の間に両者の結合がなんらかのレベルで符号化されたことを意味する。

Ø         この空間的な結合は、物語の残りを読むときに利用可能(accessible)であるが、それは一貫性のために必要な場合にのみ、再活性化される

      もしcritical文以前に空間情報の保持がなされたならば、(critical文の後にプローブが提示されるなら)実験条件におけるターゲットの再活性化がなされたであろう

 

      ――近年の研究より――

Ø         もし、未完のゴールや因果関係を伴った条件としてみなされる場合には、位置と物の関係は(中性な情報より)より利用可能なものとして残されることが示されている。

Ø         そのような保持は、未完のゴールとして観察され、完結したゴールに比べて結果としてこれらのゴールの利用可能性の増大が起こる、 (Lutz & Radvansky,1997)

 

      しかしながら、この可能性はわれわれの研究における空間情報に対してまでは当てはまらない。実験3A3Bにおいて、参加者は結果以前に提示された物(ターゲット)に対して、結果以後に提示された場合と比較して有意に遅く反応した。この結果は『未完のゴールに関係している対象が、critical 結末まで、継続的に記憶に保持(maintenance)され短い反応時間を促進する』、という解釈を支持しない。

      さらに、結果以前にターゲットを探索する実験2B3Bにおいて、統制群と因果的関連の条件で反応時間が異ならなかった。

      これはまた、『空間情報(潜在的な未完のゴール)は、結果の直前に保持されたのではない。』ということを示唆する。そうでなければ、統制群に比べて因果的条件のほうが、探索に対する反応時間がより短くなると予想しただろう。

 

      実験結果の他の解釈の可能性:実験結果は、因果的条件の空間情報への利用可能性が上昇したというより、統制群で空間情報への利用可能性が減少したことを示している。

Ø         たとえば、Lutz & Radvansky,(1997)は、ゴールを重視し、不成功(failed)のゴール情報が、完全なゴールの情報よりも利用可能なものとして残ると述べ、『これは不成功のゴールへの利用可能性の増大と、完全なゴールへの利用可能性の減少のためである』と結論している。

Ø         他の証拠も、『読者は読解中、無関係な情報を抑制する』を示している。(Gernsbacher & Faust,1991など).

Ø         そのため、以下のことはありうる:統制群において、結果文が読者にターゲットの空間情報を考えさせないようにした。なぜなら その空間情報はもはや関係のないもので、その利用可能性は減少しているからである。

 

      しかしながら、統制バージョンの文章において、物と位置の探索の間に、結果の前後でわずかな差異が見られる。

      そのため、抑制のみでこの結果を十分に説明することはできない、なぜなら統制バージョンの文章では、位置と物の情報に利用可能性の減少は無いからである。

      われわれの結果と解釈は既存のテキストコンプリヘンションモデルに一致する。

      たとえば、「読解中、短期記憶に保持されること無く、後の時点において、空間情報は符号化され回復されうる。」という結論は以下の考えに矛盾しない

Ø         長期ワーキングメモリ(Ericsson & Kintsch,1995)

Ø         物語の中で主役に関連した情報に暗黙のうちに焦点を当てること(Garrod & Sanford,1990)

Ø         テキスト表象(representation)と回復(retrieval)resonance theories

 

      事実、読み手が読解中に出会う、テキストの情報のさまざまな側面の中で、空間情報は比較的低いレベルにおいて、(他の情報に比べ)最も符号化されやすい(Zwaan , Langsten & Graesser ,1995)

      空間情報が一貫性に必要なときには再活性化される、ということの発見は、その他の解釈モデルと矛盾しない。たとえば、landscape model

      因果的な関連が以前に読んだ空間情報の再活性化を決定する、という結論により、読者が読解中に空間情報を表象し更新する状況に関する問題に対して、よりよい答えを出すことができる。

      教示(instruction)と読者のゴールが空間情報の利用可能性に影響しうる一方で、テキスト内の空間情報の機能性(functionality)がその利用可能性に影響を与えるということもありうる。

Ø         Functionality 原理によれば、空間の関連性が機能的(functionality)ならば、もっとも読者は空間情報を状況モデルに組み込みやすい。(Radvansky & Copeland ,2000ほか)

 

      これらの比較的初期の発見に一致し、実験結果は以下のことを示唆した。

Ø         明確な教示やゴールがない場合、非精緻化な空間情報は、読解中に、それが機能的な場合(例えばそれが因果的一貫性に役立つなど)にのみ再活性化される。

 

参考文献:

・大村彰道 監修(2001)文章理解の心理学 北大路書房

 

 

改善点

      読み手の推理能力を前もってテスト。

      一文ごと→生態学的妥当性が低い→眼球運動

      論理構造をわかりやすく

      物と位置との関連について(状況モデルの複数の表象の面についての研究)

      マークは帰宅前に持ち物検査                             おわり

付録・文例

空気が冷たく木々に霜が降りる、寒い朝だった。しかし太陽は輝き、光が窓を通してニールセンたちの寝室へと差し込んでいた。その光はマークを照らし、彼の眠りはこの夜明けにより大いに妨げられていたため目を開けざるを得なかった。そして彼は新たな一日を迎えた。そしてマークは階下からのベーコンとトーストの香りをかいだ。彼の隣の空の寝巻きを見て、彼は妻のジューンが朝食の準備としていることに気づいた。食事をしながら少しおしゃべりしているとすぐに、彼はもう仕事に出かけなければならないことに気づいた。仕事場で、群集を避け彼はすばやくオフィスへと滑り込んだ。彼は自分の椅子に誰か座っているのを見て驚いた。ジーナだった。二人は、素晴らしいレストランへ出かけそれから夜を楽しむ、という計画について話した。日が落ちた。レストランでロブスターを食べ終え、ジーナとマークはマクベスを観に行った。彼らは大きな劇場に入り、予約券をカウンターに差し出し、入り口へと向かった。

 

・統制条件【一貫性なし】

ジーナが美しく光る毛皮を脱ぐのを手伝うために、両手を自由にできるようにするため、マークは手袋をズボンのポケットに入れた。ジーナはチケットの控えをハンドバッグへと入れた。

 

・因果条件【一貫性あり】

ジーナが美しく光る毛皮を脱ぐのを手伝うために、両手を自由にできるようにするため、マークはチケットの控えをズボンのポケットに入れた。ジーナは手袋をハンドバッグに入れた。

 

そして、彼らは劇場の中央付近に座った。劇は素晴らしかった。仕事の後の文化的な経験を経る長い一日に疲れ、マークとジーナは、熱烈なキスをし、別れてそれぞれの家路に着いた。翌朝はひどく寒く、どんよりしていた。太陽は彼を起こさなかった。

■→before 挿入

critical文】

かわりに、彼は洗濯場からの妻の声に跳ね起きた。それは、だんだんと近づいてきた。「マーク!!!あなた他の女と会ってるわね!!!!!!!!!!!!!」

■→after 挿入

 

      プローブの例・・・ポケット(位置プローブ)、チケット(物プローブ)

****ポケットに入れっぱなしのチケットを見つけられ、ばれた



[1] http://www.nd.edu/~memory/ G.A.Radvansky, Rolf ZwaanによるSituation model research groupURLから

[2] http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/cogpsy/personal/Kusumi/bbs02/BBS1210.htm

 Brown Bag Seminar文献紹介のページを参考に