中間発表 Restorative justice

 

 一月九日 中道一政

 

 少年法の改正の問題や話題性の高かった少年犯罪が起きたことにより少年法が私たちの生活において身近なものとなってきたのではないかと思います。改正問題の議論の中で被害者への情報の開示や検察官の関与など、被害者を中心にした法の改正が行われたと思われているかもしれませんが、私はこれには疑問を感じています。検察官は真実を決定するための存在ではなく、事実認定を勝ち取るための存在であるからです。被害者の声の中には警察官や検事も自分たちの主張を取り入れてはいないというものすらあるくらいです。また、被害者の権利を最大限考慮することと冤罪を防ぐということは両立できるのか。少年審判には従来検察官は関与してなかったが、それでも数々の冤罪事件が発生しています。こうしたジレンマを解決する手段としてrestorative justiceというものを調べていきたいと思いました。不十分な点がたくさんあるのは承知の上で発表させていただきたいと思います。たくさんの意見をお待ちしています。

 

 restorative justiceは修復的司法と日本語には訳されており、文字通り犯罪者と被害者、あるいは社会との関係を修復するという事が前提となっています。restorative justiceの研究は近年盛んになっており、昨年十月の犯罪者会学会でも取り上げられています。先行研究の有名なものにはニュージーランドにおけるfamily group conferenceやアメリカのteen courtについてのものがあります。

 restorative justice の最大の特徴は、犯罪者に対して国家権力の強制による刑罰(traditional punitive state justice)を下すのではなく、犯罪者と被害者の二者間の対話、あるいは家族や地域のさまざまな関係者を含めて行われる会議の中で犯罪者に対する処遇が決定されます。その処遇も罰金刑や自由刑ではなく、被害者に対する誠実な謝罪、あるいは犯罪者に対する社会的な支援をするという事が行われています。

 restorative justiceの理念には未だに分裂があるようです。犯罪の被害や加害に関わった全ての人々が参加するべきであるとする説や、加害者と被害者の二者間の対話でいいとする説の二つが主なものである。これは単に形式的な是非を問うているだけではなく、扱われる事件と形式との関係を考えているものである。またこのような形式の違いを乗り越えてrestorative justiceには以下のような六つの原則があるとされている。

 1 Foster awareness

 2 Avoid scolding or lecturing

 3 Involve offenders actively

 4 Accept ambiguity

 5 Separate deed from the doer

 6 See every instance of wrong-doing and conflict as an opportunity for learning

  ではrestorative justiceはどれほどの効果を上げているのかについてですが、シンガポールでは、再犯率は2%となっています。正式な刑事手続きを経て処遇された場合の再犯率は30%となっています(1996)。また、同程度の暴行を犯した青年を対象に調査したものの中でも成功が報告されています(38%の差がある)

  ここまではrestorative justiceについて肯定的に見てきましたが、刑事裁判は果たして否定的な面ばかりでしょうか。刑事裁判の中では罪刑法定主義「法律無ければ刑罰無し、犯罪無ければ刑罰無し、法定の刑罰無ければ犯罪無し」という原則が取られている。この原則について私は刑罰権の乱用を防ぐ為に生まれたものであるという見解を持っています。restorative justice の最大の落とし穴は罪刑法定主義が取られる事はないという所にあります。即ち犯した犯罪に対する処遇の厳しさの上限は決まっていないという事です。日本の少年審判も、罪刑法定主義が適用される事はありません。家庭裁判所調査官の講演の中では、少年の将来の更正のことを考えた上でもっともふさわしい処分を選択するのだということがいわれていました。

 被害者の参加を重視したrestorative justiceにおいて、冤罪を作り出さないような構造はどのようにして生み出していけばよいのか、またそれを日本の審判の中にどう応用していくべきなのかということへの考察を中心にレポートをつくりたいと考えています。

           参考文献

冤罪について考える

     『冤罪はこうしてつくられる』 小田中聰樹 講談社

   『自白の心理学』        浜田寿美男  岩波書店

    『記憶・物語』        岡真理      岩波書店

刑事法関連  

     『罪と罰のクロスロード』   村井敏邦   大蔵省印刷局

少年法関連

   『ティーンコート』      山口直也  現代人文社

   『少年犯罪と被害者の人権』 少年犯罪被害者支援弁護士ネットワーク 明石書店

   『少年「犯罪」被害者と情報開示』 新倉修   現代人文社

   『「改正」少年法を批判する』 団籐重光ほか 日本評論社

   『少年法研究』1        斉藤豊治    成文堂     

   『少年法判例百選』       田宮裕編   有斐閣

   『犯罪社会学研究』20     日本犯罪社会学会編