意思決定(Decision making)
 意思決定とは、選択肢(代替案)群から良い選択をおこなうことを目標とする.個人的決定には、生徒の進路選択や教師の教授行動の決定、CAIにおける学習者のモジュールの修了の決定などがあり、集団決定には、クラス討論や生徒会における決定がある。
 (1)意思決定の過程 意思決定は段階にわけることができる。第一は、課題を同定する(例:進路決定)。第二は、情報の収集する(例:上級学校の情報を集める)。第三は、選択肢(代替案)を立案する。ここでは現実的な選択肢(例:受験する学校)を網羅することが大切である。第四は、選択肢を検討し評価する。これは決定によって起こる結果の確率や効用を評価することである(例:合格可能性と入学できた場合の望ましさ)。第五は、代替案の選択(決定)する。たとえば、期待効用(確率と効用の積)最大化などの規則を用いる。最後は、決定に基づく行動の計画、実行とその評価である。
 (2)意思決定能力を支える知識、スキル、態度
 意思決定を支える知識には、問題に関する領域固有の知識(進路選択ならば、職業や上級学校に関する知識)と、領域普遍な知識(意思決定の方法)がある。一方、スキルは、情報収集や代替案を評価するスキル、批判的思考、推論などのスキルがある。また、態度には、(感情や主観によらず冷静な判断をする)客観性、(さまざまな選択肢や条件を考慮する)開かれた心、(適切な時期に決断し、最後まで実行する)決断力などがある。
 (3)テストに基づく意思決定 テストは、処遇(訓練プログラム、教授材料・方法、心理療法など)を決定するために用いられる。テストは、個人にどの処遇を与えるかという(選択やプレースメントの)決定や、処遇の効果を評価のための情報を提供する。これはCAIにも用いられている。
 (4)意思決定の指導と支援 生徒の意思決定能力の育成を目指すことは、科学教育、進路指導にとどまらず、よき市民としての教育でもある。
 「科学-技術-社会」(STS)教育では、エネルギーや環境問題,生命技術問題などの課題を設定し、情報の収集、代替案の設定と評価などを通して、意思決定能力の育成を目指している。
 そのほか、意思決定の指導としては、ロールプレイ、シミュレーションゲームなどがある。支援ツールとしては、バランスシート、決定マトリックス、決定木などがある。さらに、コンピュータによる意思決定支援システムは、決定問題を構造化やグラフィカル表示によって、目標分析を助ける。また、必要な情報(選択肢や属性情報など)を利用しやすい形で提供し、選択肢を準備したり、効用を評価する。また、確率や効用の計算をおこなうことによって、シミュレーションや反復修正を可能にする。さらに、集団意思決定においては、知識の共有、討論の支援、個人的決定の統合によって、決定の組織化を支援する。これらのシステムは、人の決定における認知的負荷や認知的バイアスを低減し、正確で早い決定を助ける。->批判的思考、問題解決 [楠見孝]教育工学事典(実教出版所収)
文献
小橋康章 1988 決定を支援する(認知科学選書18) 東京大学出版会