日本心理学会第68回大会 (関西大学) シンポジウム 第3日 9月14日(火)10:00~12:00 4N教室
批判的思考の心理学的基礎と実践
概 要
批判的思考とは、物事を客観的かつ多面的にとらえ、規準に基づいて判断する論理的、反省的思考である。批判的思考は、近年、論理的思考力や情報リテラシーの必要性の議論とあいまって、学校教育、消費者教育、ビジネス、看護、メディア教育などにおいて注目をされている。その心理学的な課題は、批判的思考のプロセスの解明、それを支える知識・スキル・態度の構造の解明、さらに、その個人差の測定、教育や支援のあり方、機能の解明などである。本シンポジウムでは、異なる3つの視点からの話題提供と実践を報告する。
抱井は、米国における批判的思考概念の歴史的展開を述べた上で、文化心理学・異文化コミュニケーションの視点から、批判的思考の基礎を論じ、多文化社会アメリカの医療現場に関わる実践について述べる。具体的には、西洋思考の伝統を受け継ぐ批判的思考という概念が、米国社会が今日直面する文化的多様性の中でいかに変容しつつあるかを、マイノリティーや女性の認識論研究の知見をもとに議論する。さらに、米国の医療現場において、がん患者が行うメディカル・デシジョン・メーキングや医療情報収集行動の中に批判的思考の実践例を探る。
三宮は、認知心理学における思考に対するメタ認知の観点から批判的思考をとらえ、初等中等教育に向けての教育実践について紹介する。とりわけ、与えられた情報に基づく判断に対するメタ認知的モニタリング、およびその基礎となるメタ認知的知識の問題を中心として、具体的な事例に基づき論じる。判断に対するメタ認知を促進する教材やコースの開発を紹介するとともに、判断に対するメタ認知を阻害する要因についての考察を行う。
廣岡は、社会心理学の視点から批判的思考の社会性やモティベーションの測定について述べ、高等教育における実践について報告する。大学新入時の「批判的思考に対する志向性」、「批判的思考者に対する評価」、「動機づけの質の違い」、「大学観」等の個人差を測定しながら、「批判的思考能力の獲得」に向けた大学教育効果を測定する可能性について探る。
最後に指定討論者の道田が、概念整理と今後の展望を行う。
過去の記録
July 2004