認知心理学概論Ⅱ・火3・楠見 10月12日 学習 話題提供
担当: 総人3回 折井公彦
1.適応的視点からみた学習
進化生物学、社会生物学、生態心理学などでは、高度な学習能力のある種として、人間を位置づけている。人間のその学習能力は、生物学的な種として、繁栄に役立てるため、または環境に適応するため、進化する必要があったと考えられている。
学習能力の進化的な発達は、従来、だいだい次の様に説明されてきた。
・ 更新世辺りは、環境の移り変わりが非常に激しい→自然淘汰の圧力が大きい(この時代の環境は進化的適応環境(ESS)と呼ばれる)。
・ その時代では、遺伝子により伝達される情報だけでは適応的に不十分。(前の世代の環境と当該の世代の環境が移り変わっているから)
・ 生存できる種は、激しい環境に耐えられる頑健な身体機能を持つか、変化のない特異な環境に特化するか、環境に対する柔軟性を身につけるもの(人間)
・ 人間は、外部世界を、遺伝的ではなく、経験的な知識を身につける性質、そしてそれを同世代で伝え合い、学びあう性質を進化させることで、変化を克服
・ 結果的に高度な学習能力を持っている
また、近年、従来の知見に対する次のような注釈も、さかんに主張されている
・ 程度差こそあれ、すべての有機体は学習する。(ただ、それぞれの種の生態は異なっているので、必要とする知識やその学習法は違う。)
・ 単純に、環境に順応するのではなくて、能動的に環境を修正ないし創造する。(外部世界の反映・概念としての知識だけを学習するわけではない。)
・ 特に人間は文化を構成する点で他の種と異なる。文化は、遺伝子や生態環境とは別の、世代間で伝わる知識の遺産。
2.適応としての意味を超えた学習
すでに人間は、自己利益追求的(適応的)な目的を持つのではなく、正しさそのものを目的として学習する性質(例えば、知的好奇心)を持つ傾向にある。知的好奇心が結果的に種に貢献する側面があるとしても、自己利益と真理の2者択一による葛藤が、人間の心理で重要な意義を持つとしたら、学習される知識の新たな価値が見出せそうだ。
関連して、学習によって自己目的や利得構造、主義や嗜好が変化することがある。この領域での快-不快や適応などは、学習の目的であるだけでなく、学習によって更新されてしまう。
このことからして、適応的視点から学習をみることには(心理学的分野においては)限られた範囲でしか通用しないものであり、学習は、人間の心理の多元的な構成・意味を踏まえて、考えるべきであるといえる。
参考文献:稲垣、波多野「人はいかに学ぶか 日常的認知の世界」中公新書
エドワード・S・リード「アフォーダンスの心理学 生態心理学への道」新曜社