認知心理学概論Ⅱ 10/26日分話題提供   教育2回 唐木田 彦太

 

「論理的な思考は難しい…」

我々の思考は、たとえ論理性が重要とされるような場面においてでも案外論理的思考を行ってはいません。さまざまなバイアスを持ち、類推を多用し、判断をしたり、問題を解決しています。むしろ逆にそのバイアスや類推をおおいに活用しているのが人間の思考様式の特徴でもあり、人間らしいところなのかもしれません。そのような人間の思考についての深い話につながる例として適切かはわかりませんが、僕が経験したある問題を話題提供にします。けっこう有名なものなので知っている人も多いかもしれません。

Question
 一方の面に数字が書かれ、もう一方の面にはアルファベットが書かれているカードが下のように並べられています。 次の仮説が正しいことを証明するためにめくらなくてはいけない2枚のカードはどれでしょうか。

カードの片面に母音が書かれていたら
その裏には偶数が書かれてある

Johnson-Laird and Wason(1970)[Sdorow(1998)]を改題

 

多くの人は「E4」と思ったのではないでしょうか?僕もとある授業でこの課題を行ったときそう答えました。しかし正解は「E7」です。論理学においては、「PならばQである」という命題を証明する際には、その対偶である「QでなければPでない」ということを確かめればよいので、「E7」が正解です(Eをめくるのは仮説があっているか確認する必要がこの場合はあるため)。この種の問題は“4枚カードの問題”といって、正解を出すのが非常に難しい問題として有名です。ある実験では、正解者は1割を切ったといいます。ここで面白いと思うのは、我々の思考には、バイアスがかかっていることが多い、言い換えれば思考のクセのようなものが存在する、ということです。この実験結果は、仮説の反証が苦手だということを示しています。つまり、論理学的には仮説の証明にはその反証も必要であると知っていても、実際には仮説に合う事象ばかりを探そうとして、仮説に合わない事象を探そうとしない傾向があるのです。これは、確証バイアスと呼ばれたりしています。この他にも思考のクセはたくさん発見されています。“4枚カードの問題”にしても、すこし問題の題材や文言を変えると、正解率もかなり変わります。例えば

Question
 Aさんは今まで4回、遠出をしました。そのときの目的地と交通手段を書いたカードがあります。 一方の面に目的地が書かれ、もう一方の面には交通手段が書かれています。

岡山から大阪に行くときは
いつも電車で行っていた

 彼はこう言っていますが、これが正しいことを証明するために、必ずめくってみなければならないカードはどれでしょうか。

答え:「大阪」と「車」

Wason and Shapiro(1971)[中島(1994)]を改題

おそらく正解率は上がると思います(もちろん先ほど類似問題を解いた効果もあるでしょう…しかしここでは、材料をより具体的・現実的なものに置き変えると、正答率が飛躍的にアップする主題材料効果によるもの、という説明をさせてください)。そして問題文その他の条件に応じて、違ったバイアスがかかっていたり、違った知識に依存しながら思考していると考えられます(認知心理学5学習と発達6章参照)。必ずしも論理的ではなく、クセを持って思考を行う、そしてそのクセが逆にスムーズに問題を解決することもあります。しかしどうしてそのようなバイアスがかかったり、論理は同じなのに主題材料効果が発生したりするかは、完全には解明されていません。

 

 

参考HP http://www.okayama-u.ac.jp/user/le/psycho/member/hase/education/2000/_0seminar/thinking2/thinking2.html(2004,10月現在)