物語文章理解におけるシチュエーションモデルインデックスについて

Zwaan, Magliano, Grasser1995)とMiall & Kuiken1999)から―

BBS 2004/05/26 発表者 常深浩平

I.    背景

1-1.シチュエーションモデルとは。

・文章読解時の心的表象についてのモデルである(van Dijk & Kintsch, 1983

Zwaan1999)によれば、“シチュエーションモデルは、テキスト自体の心的表象(textbase:テキストベース)というよりはテキストの中に記述された物や事(affairs)の状態の心的表象”であり、

・読み手は、テキストベースに自分の長期記憶からの情報を統合してシチュエーションモデルを構築する(Kintsch, 1998

1-2.シチュエーションモデルの性質

・シチュエーションモデルは文章読解の心内表象であるため、文章に描かれる登場人物や物体、空間、時間、意図など、複数の表象から構築されていることが多くの先行研究によって示されてきた。これをシチュエーションモデルのインデックスと呼ぶ。

・次に紹介するZwaan, Magliano, Grasser1995)は、初めて複数のインデックスを同時に扱い、読み手が文章を読解する際に複数のインデックスを同時に扱っていることを実証的に示したものであり、これは近年の研究に大きな影響を与えている。

・また、その次に紹介するMiall & Kuiken1999)は、Zwaan, Magliano, Grasser1995)の実験の一部を再分析しながら、文章読解一般と文学読解の過程の差異について言及したものであり、シチュエーションモデルのインデックスを考える上で興味深い。

 

II.Zwaan, Magliano, Grasser1995

2-0.はじめに

・本論文は、1995年とやや古いものであるが、Web of Scienceの引用状況によれば、現在までに66件の論文に引用されており、その中で最新のものは2004年の3月のものである。

・これは、本論文がシチュエーションモデル研究における主要なインデックスを実証的に示したこと、及びその分析方法が現在まで大きな影響をもっているからである。

2-1.問題

・文章を理解するためには、一貫したシチュエーションモデルの構築が必要である。

・一貫したシチュエーションモデル構築には、複数のインデックスが影響を与えることが分かっているが、先行研究では、『出来事の時間的順序について』、『状況の空間的配置について』、『出来事の因果的関係について』等、シチュエーションモデルの任意の一面ずつにしか焦点を当てていない。

・結果的に、読者が時間的、空間的、因果的な連続性に同時に注目しているかどうかは分かっていない。

 

2-2.目的

・文章読解時に読者がどのように複数のインデックスに注意を向けているのかを明らかにする。

 

2-3.実験のロジック

・一貫したシチュエーションモデルの構築にはインデックスの連続性が影響を与えている

・そこで逆にその連続性が途切れるときには、それまでの諸連続性によって構築されていたシチュエーションモデルに変更を加える必要が生まれ、その処理に時間を要すため、その非連続性を有す文の読解時間は長くなるはずであると推測される。

・したがって、読解時間の遅延が、どの非連続性によってどの程度説明されるのかを調べれば、読者がどの連続性に同時に注目してシチュエーションモデルを構築しているかの指標になる。

・そのため、事前に材料である短編物語の各文に対して、その文が時間的に非連続かどうか、空間的に非連続かどうか、因果的に非連続かどうかを評定した。

 

2-4実験1

2-4-1.方法

・被験者:メンフィス大学の心理学専攻の学生28

なお、この28名は予備調査で物語理解にある程度慣れていると判断された者である。

 

・材料:以下の公刊されている3000語程度の短編物語を二編使用した。

The Demon Lover,by Elisabeth Bowen(1981)

A Very Old Man With Enormous Wings,

by Gabriel Carcia Marquez(1972)

 分析は“The Demon Lover”の145文、“A Very Old Man With Enormous Wings”の147文に基づいている。

 

・条件群

     通常条件:普段通りに楽しみで短編を読むときのように物語を読むように教示

     記憶条件群:物語中に起こったことを詳しく鮮やかに説明できるように、文章を記憶しながら読むように教示

 

・装置

物語は一文ずつコンピューター画面上に呈示され、被験者がスペースキーを押す毎に、提示されていた文が消え、次の文が呈示された。このとき文の呈示からスペースキーを押すまでの間の時間を読解時間(RTとして計測した。

2篇の物語を読み終わると被験者は画面上の教示に従って、各物語についての要約を書いた。

この要約は被験者が物語を理解したかどうかの指標としてのみ用いられ、分析対象にはしなかった。

 

2-4-2.結果⇒考察

・重回帰分析

3つの仮説的変数(時間的非連続性、空間的非連続性、因果的非連続性)

5つの補助変数(音節数、文の場所、内容の新出、内容の重複、文の種類

によってどの程度、RTが説明できるのかを調べた

 

Graphic

 

・補助変数は2条件間で一貫した傾向を見せた

・通常条件群では時間的非連続性と因果的非連続性が有意に読解時間を増加させていた

普通に文章を読んでいるときには、時間的な連続性と因果的な連続性に注目している。

・記憶条件群では時間的非連続性と空間的非連続性が有意に読解時間を増加させていたが、

通常条件ほど顕著なものではなった。

記憶するために文章を読んでいるときは、時間的な連続性と空間的な連続性に注目しているが、普通に文章を読んでいるときに比べてその注目は弱い。

・記憶条件群では因果的非連続性に有意な読解時間増加効果がみられなかった。

記憶条件の教示によって被験者のシチュエーションモデル構築がある程度阻害されたと考えられる。

・⇒以上より、通常条件群では被験者は時間的及び因果的な連続性に特に注目しており、記憶条件群では教示が被験者のシチュエーションモデル構築を阻害していたことが示唆された。

 

2-5実験2(一部)

2-5-1.目的

・実験1の限定性:“被験者の抽出方法”および“材料”の改善のために、より一般的な被験者、別の材料を用いて実験1を検証する

2-5-2.結果⇒考察

・実験1を指示する結果が得られた⇒一般性が高まった。

 

2-6総合的考察

・通常、読者は状況を思い浮かべるために複数の連続性に注目しており、特に時間的連続性と因果的連続性に注目している。

・実験的に何らかの操作をされていない、普通の物語では、状況の連続性は相関しておらず、そのそれぞれの連続性に対する読解時間は交互作用を持たない傾向にある。

・教示の違いが、シチュエーションモデル構築過程に異なった影響を与えることが示唆された。

 

III.        Miall & Kuiken1999)への橋渡し

Zwaanらはシチュエーションモデル研究においてイベントインデックスモデルを提唱した(ex. Zwaan & Radvansky, 1998

Zwaan & Radvansky(1998)によれば、シチュエーションモデルのインデックスには空間、時間、因果、意図、主人公などがあるという。

・現在、これらのインデックスに基づいて広く研究が行われている。

・また、材料文にも様々な文章が使われるようになったが、その中には物語文章(narrative text)を用いた研究も数多い。

・しかし、例えば、素朴に想定されそうなインデックスとしての“感情”の関与は、Zwaanらのインデックスには挙げられていない。

・このように現在のシチュエーションモデルにおいて考慮されていない潜在的なインデックスはどの程度存在するのだろうか

・その中に読解時間に大きく影響を与えるものは存在しないのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IV.          Miall & Kuiken1999

 

3-0.はじめに

・本論文は、全体的に見て実験的手法を手掛かりにした文学論であり、実験手続きやデータについて信頼性や妥当性にかける部分も多い。

・しかし、本論文は上記のZwaan, R. A., Magliano, J. A., Graesser, A. C.(1995)らの想定していない要素の関与について意義ある示唆を持っていると考えられる。

・また、以下で“文学(literary)”や“文学性(literariness)”という用語が使われているが、これは説明文や論説文などの文章との区別のために用いられているものであり、本論文内では少なくとも詩と物語を指して文学と呼んでいる。

 

3-1.要約

・文学性(literariness):文学とはいったい何か、について近年、文学と他の文章とを区別するような文学独自の性質は存在しないと文学者が論じている。

・同様に、認知心理学においても文学(literary)の読解過程を一般的な談話過程(Discourse process≒シチュエーションモデルを想定)に包含する動きがある。

・しかし、文学読解の実証的な研究から、上記の一般的な談話過程の枠組みには収まらない文学性の存在が示唆されている⇒文学の読解過程は既存のシチュエーションモデルからでは説明しきれない部分がある

・テキストの前景化foregrounding、異化defamiliarization、個人的な意味の調整という3つの要素から、その文学性が示唆される

 

3-2.文学読解とは何か

・談話過程(Discourse process)の一種(Hobbs, 1990

 ⇒シチュエーションモデルで説明可能なはず

・“特定の思想を誘発するための修辞的なデバイス”(Eagleton, 1983

 ⇒存在する思想に依存して、どんなものも文学になり得、文学ならざり得る。

・これらは双方とも、すべての文章の持つ機能に依拠しており、文学に特異的な性質を明らかにしていない。

 

3-3.目的

・本論文では、上記の見解に挑み、文学性の再定義を試みる

・結論から言えば、文学性はテキストの性質のみから決まるのではなく、ある特定の種の読解の産物として定義でき、

・その読解は、文学テキストに対する反応のうちの3つの要素によって定義されるのである。

 

 

3-4Sikara, Kuiken, & Miall1998

・被験者:30

・手続き:詩を読んでもらい、感動的(striking)だと思った節について感想を聞く。

・以下の詩"The Nightingale"の冒頭の一節

"No cloud, no relique of the sunken day / Distinguishes the West..."

 

・なぜこの一説が感動的だったかについての或る被験者の感想:

  Because of the way that he says a 'sunken day' and there is 'no relique'; so there's nothing there. I like it because it's unusual to see the days sunken, instead of the sun. I think that's what gives it it's sense of desolation. I just picture this huge, huge expanse of sky with really nothing else on the horizon. There's also kind of a sense of timelessness; because relics are something that are old and sunken, it sounds like a sunken ship, something that's been there for hundreds of years and nobody knows about it, but it's something that's happening right now and it's kind of before dark but after day. It's just kind of a nothing time, well not a nothing time but a time that can't be described, that can't be categorized.

 

この感想の中に文学性に関わる3つの要素がある。

     表現(単語、文体など)

読み手がまず詩の表現(the way)について述べているように、文学性の第一の要素は、文学テキスト独自の表現である。ここでは、隠喩(sunken day)と古風な多義語(relique)が例に挙がっている。

     異化defamiliarizaition

読み手は①の表現に感じ入り、『そのような表現は普通とは違う』と述べている。普通の言い回しであれば、 sunken sun であるが、それが“sunken day”と表現されたことで、読み手の中の夕暮れに関する固定観念が再置換されたのである。文学性の第二の要素はこのような異化の生起である。

     固定観念的な感情の調整や変化

読み手は②の異化の暗示を反映した感想を述べているが、その暗示は色々な感情やイメージが仮の判断も間に合わないうちに呼び起こすものなのではっきりとはしない。

読み手は感想をこう結んでいる『…時間ではなく、記述できない、捉えれない時間である。』。読み手は時間についての新たな意味を見出したのであるが、それは既存の言葉やカテゴリには当てはまらないものであった。文学性の第三の要素は、固定観念的な感情の調整や変化である。※発表者駐:ここでMiallは固定観念的な感情と述べているが、例でいえばそれは時間の意味というエピソード記憶の調整や変化である。少なくとも、この第三の要素は記憶に関わる側面を有すようである。

 

 

・左記の感想は短いながら文学性の三要素を含むという点で得意な例である。

・しかし、この三要素は文学性にとって必要で相互に関わっていると考える。

・要約すれば“①表現が固定観念的な理解への言及を②異化し、③固定観念的な概念や感情の再解釈を誘発するときに、文学性が構築される”のである。

・つまり、文学の特異性とは、心理学的な変化をもたらすことにある。

 

3-5.文学性の安定性

・(省略)文学性は、共時性だけではなく、少なくとも一定の通時性を有す。

 

3-6.文学表現(前景化)によるRTの増加

Miall & Kuiken(1994a)

・被験者に短編物語を読ませ、RTを記録。被験者は各文について感動尺度と感情尺度、不安尺度を評定。

・文学表現(前景化)とRT増加の間に有意な正相関が見られた。

ここで言う前景化は(Mukarovský, 1964/1932)の用語で“通常とは異なる言語表現”を指す

  原文にあたれなかったが、本論文中で筆者が比喩表現や押韻も前景化に含んでいることから、文学表現という訳語が適当か。以後、文学表現(前景化)と表記する。

・また、文学表現(前景化)と感動、感情、不安尺度の間に有意な正相関が見られた。

・⇒読み手は文学表現(前景化)を持つ文章を読むのに長い時間をかけ、そのような文章に感動し感情を向け不安を覚える傾向にある。

・文学表現(前景化)に対する反応も文学独自のものであると考えられる

 

3-7.文学表現(前景化)の安定性

(省略)文学表現(前景化)の効果も一定の通時性を有す。(1900年と1991年の詩を比較)

 

3-8.物語状況を越えて

・談話過程(Discourse process)理論の技術的な発展にも関わらず、文学性はその説明力を越えたところにある過程に関わっている

・近年、シチュエーションモデル研究の発展に伴い、Zwaan & Radvansky1998)は、物語文章におけるシチュエーションモデルの理解は、物語文章の理解と同等であると考えているようである。

・しかし、この見解はそこまで明確では無いということをこれから示す

・シチュエーションモデル構築研究は文学性の読解過程への大きな関与を考慮し損ねているのである

 

3-9Zwaan, Magliano, Grasser1995)の再分析

・シチュエーションモデルは文章一般を理解するために必要な認知過程を示しているが、文学物語を理解するために必要な認知過程までは網羅できていないと仮定

 

・左記を示すために、Zwaan, Magliano, Grasser1995)で用いられた材料である“The Demon Lover”の文学表現(前景化)を音韻的・意味的な水準で一文毎に符号化した。

  例.“She stopped dead and stared at the hall table" という一文では

"st"の音の反復

"stopped dead""hall table"近接RTを遅延させる)

暗示的な表現"dead," (不吉な印象を高める)

Miall & Kuiken(1994a)では、この文学表現がRTの説明変数として高い数値をとっている。

Zwaan, Magliano, Grasser1995)の重回帰分析の結果分かった予測変数に上記の数値を加え、読解時間の平均値との相関を分析した。

・以下に結果を示す。

df = 147                       Simple          Partial
------------------------------------------------------------------------
Segment                        -.15           -0.21**
Syllables                      0.94****        0.84****
New Arguments                  0.72****        0.30****
Argument overlap               0.11           -0.07
Time                           0.14             0.16*
Space                         0.13             0.08
Cause                         0.24***         0.06 
Perspective                   0.21**         -0.01
Foregrounding                 0.72****        0.26****
------------------------------------------------------------------------
*p < .05 **p < .025 ***p < .01 ****p < .005 (one-tailed)

・文学表現(前景化)は“内容の新出”と同等の、そして他の予測変数よりも大きな予測率を示した。

・音節数を統制した変相関において文学表現(前景化)と内容の新出は独立してRTに影響を与えていた。

 

3-10Trabasso & Magliano(1996)

・今回は省略させて頂きます

 

3-113-10のまとめ

Zwaan, Magliano, Grasser1995の再検討によって文学表現前景化RTの有力な説明変数であることが示唆された

・このようなRTの遅延の間に、感情が決定的な役割=解釈の媒介、意味探求の案内役を演じているのである

・そのような役割を演じるものとして、感情は既存のスキーマを再構成し、読み手に新たな洞察を与える過程の発端となる。

3-12個人的意味の変容

・シチュエーションモデルの要素と、それを支える推論はすべての読み手に共通して必要とされる読解の基本的な要素を示している。

・対照的に、文学表現(前景化)は文学テキスト読解の個人差へのアプローチに重要な示唆を与えた

・感情が、読み手の自己概念に関わることがあきらかになり、

・感情が、異化に続く新たな解釈内容をもたらす経験や記憶と同等の“自己に関わる特定の出来事”へとつながる道を与えてくれることが明らかになった。

 

3-13.固定観念的な感情の調整や変化:文学性第三の要素

・固定観念的な感情の調整や変化は読み手個人に関わるものである。

・文学は「私とは何か」という問いを個人の中に生み出す

・再びSikara, Kuiken, & Miall1998)より

 

・詩“Mariner”の後半の一部分

 

Like one, that on a lonesome road

Doth walk in fear and dread,

And having once turned round walks on,

And turns no more his head;

Because he knows, a frightful fiend

Doth close behind him tread.

(Mariner, ll. 446-451)

 

・これに対する或る被験者の感想

 

 I'm just going to share the emotion of being alone, in the dark, with this threat. Knowing that there's nothing you can do about it, keeping on walking and pretending it's not happening, just because there's no other way to cope with it, you can't run from it....I also sense there's no point in fighting this because, like it's a guilt thing, he's the one that's responsible for what's happened, he's the reason that this thing is following him, so there is no point in trying to get away from it because, it's your fate. It's just a bit of a reminder that everybody dies. Whatever's following him is going to get him. You don't know how long it's going to go and you don't know when it's going to get him, but you know that eventually that it will.

 

 

 

 

・①まず孤独の感情を模索した後、②読み手は主人公の視点に立ち、そして③読み手自身を含んだかのような重要な一般化を行う

・このように、①まず個人的に関係のある感情に気付き、②詩に意味を持たせるためにその感情を用い、主人公の立場の発見のために用い、③最後に主人公の状況が読み手に収束する。

・例でいえば、感想に交換可能な“he”と“you”が現れ、“everbody dies”と続く

・これはおそらく、深遠な洞察というよりは、読み手にとって詩を個人的なものに変え、詩を通して特定のテーマを追うことができるように変える行為だっただろう

 

3-14結語

・文学性の第一(表現)、第二(異化)の要素は文学性にとって必要条件ではあるが十分ではなく

・読み手の感情を通して構築される第三の要素(感情の調整や変化)が要される

・第三の要素についてはまだ検討が不十分であるが、今後の研究から明らかになるだろう

・この第三の要素こそ、人間の文化的進化における永続的な力を文学に対する反応に与えるものに他ならない。

 

3-15発表者所感

・何を文学とするかという問題については、今回省察しないが、その文学性の内容については、認知心理学的なアプローチ(Zwaan et. al.)の発展に寄与する可能性がある。

・具体的には、シチュエーションモデル研究において現在実験対象となっている主要なインデックス以外に同等のRTの予測率を示す可能性のあるインデックスの存在が示唆されている。

・しかし、Miallの主張は、文学表現の符号化基準や実験計画・分析手法など認知心理学的な妥当性・信頼性に足るとは言い難く、現段階では新たなインデックスを提唱出来たとは言えない

まずはMiallらの主張するような文学性が物語文章のRTに本当に影響を与え得るのかどうかがより実証的に検証されるべきである

 

V.  考察

Miallの論文中では文学テキスト読解過程の心的表象としては不十分とされたシチュエーションモデルだが、Zwaan & Radvansky(1998)によれば、シチュエーションモデルは自伝的記憶に似た性質(因果性、時間性、空間性を有す)を持つことが言われており、Miallの言う第三の文学性:自己に関わる固定観念的な感情の変容と相反するものではないと考えられる。

・また、文章読解時の感情についても米田・楠見(2002)など発展的な研究が展開されており、現在求められるものは、Miallの主張するような要素がどこまでシチュエーションモデルに適合していくかを堅実に検討していくことだと考えられる。

・最後に、守屋(1994)による717歳を対象とした絵本読解の国際的な研究によれば、日本人は男女ともに他国(イギリス、韓国、スウェーデン)に比べ情緒的な評価を行った割合が高い。

・豊かなる感情の微妙なる機微を持つ日本語材料における更なるシチュエーションモデル研究が望まれる

 

VI.          引用・参考文献

井上毅・佐藤浩一(編) 日常認知の心理学 北大路書房 2002

Kintsch, W. (1998) Comprehension: A paradigm for cognition. Cambridge, England: Cambridge University Press.

Komeda, Hidetsugu; Kusumi, Takashi. Reader's changing emotions related to the construction of a situation model. [Peer Reviewed Journal] Tohoku Psychologica Folia. Vol 61 2002, 48-54. Tohoku Univ, Japan

Miall, D. S., Kuiken, D.(1999). What is literariness? Three components of literary reading, Discourse Processes, 28 (1999), 121-138.

Miall, D. S., Kuiken, D.(2002). feeling for fiction: becoming what we behold, Poetics, 30, 221-241

守屋慶子(1994) 子どもとファンタジー―絵本による子どもの「自己」の発見― 新曜社

大村彰道(監修)秋田喜代美・久野雅樹(編) 文章理解の心理学 北大路書房 2001

Zwaan, R. A. (1999) シチュエーションモデル: The Mental Leap Into Imagined World. Current Directions In Psychological Science, 8(1),15-18

Zwaan, R. A., Magliano, J. A., Graesser, A. C.(1995). Dimensions of situation model construction in narrative comprehension. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory and Cognition, 21, 386-397