Truthfulness and Relevance
in Telling the
Time
Van der Henst, Carles, &
Sperber 2004
Mind & Language, 17,
457-466.
日本学術振興会特別研究員PD
林 創
Introduction
p 話し手は,聞き手に「正確な情報」を提供しようとする
p このことは「真実(truthfulness)」を言うことと同義ではない
p 発話によって提供される情報は,発話された文が言語的に符号化された意味とは,明確に区別されねばならない
誇張法(Hyperbole)の例
p 「チョコレートはみんなが好きなものだよ」
n 聞き手は,偽の結論(「チョコレートが嫌いな人はひとりも存在しない」 )を無視し,文脈から顕著になる真の結論(「相手の味覚がわからなくても,チョコレートは贈り物として適切だ」
)を受け入れる
n 厳密に正しい発話(「ほとんどすべての人々がチョコレートは好きだ」 )ほど労力を必要としない
n 「労力が少ないほど,関連性は大きくなる」ので,誇張法の方がより関連性が大きくなることがある
言えること
p 話し手の発話が不正確である方が,聞き手は「厳密に正しい結論」をより簡潔に導けることがありえる
⇒ 「概数化する」答えの方がより良い場合がある
n 同じ認知的利益(cognitive benefit )を得るのに,より少ない処理労力ですむ
⇒ 「時刻」を使った課題で実験
実 験 1
一般的な傾向
p 人は,他の行為同様,発話においても自分の労力を最小限にしようとする
n アナログの腕時計をはめている人は,答えを概数化することがより容易であるだろう
n デジタル時計をはめている人は,そのまま時刻を読む方が容易であるだろう
対立仮説
p もし,話し手が自分自身の労力を最小限にしようとするのであれば,アナログ時計着用者のみ概数化するだろう
p もし,話し手が聞き手の労力を最小限にしようとするのであれば,デジタル時計着用者も概数化するだろう
方 法
p 被験者
n パリのある科学大学の男性の学生92人
n アナログ52人,デジタル40人
アナログとデジタルの着用率を同等にするため(フランスでは,デジタル時計の人気がないが,例外的に科学大学の男の学生は着用者が多い)
p 公共の場(大学の入り口)で,ランダムな時刻に,ターゲットに近づいて,以下を尋ねた
p 「こんにちは,今,何時ですか?」
n “Hello! Do you have the time
please?”
n “Est-ce que vous avez l’heure s’il
vous plaît?”
p 「得られた反応」だけを分析対象とした
n 実験者は,正確な時刻を知らなかった
n 被験者の時計が示していた時刻を見なかった
p 得られた反応を,「5 分の倍数」となる理論的な分布と比較した
n 被験者の時計が示していた時刻から,どれくらい概数化されたかを推定したわけではない
p 「分単位の時刻」を無作為抽出すると,20%が5分の倍数になり,80%がそれ以外になる
p すべての実験で反応を2 つのタイプに分けた
n “5x responses” (概数化したものと,たまたま5 分の倍数を示していたもの)
n “not-5x
responses” (概数化されていないもの)
p 概数化した答えがなければ,5xが20%,not-5xが80%となるはずだが,たまたま時計が5xの時刻を示していて,それを読み上げた人が20%いるはず
p より正確にするために「概数化した人の割合」を算出
Percentage of rounders
= (percentage of 5x responses – 20) / 80
n 5xが20% ⇒ 概数化した人の割合0%
n 5xが100% ⇒ 概数化した人の割合100%
結果: 概算化した人の割合 (実験1)
考 察
p 話し手が聞き手の労力を最小限にしようとするのであれば,デジタル時計着用者も概数化する
実 験 2
仮 説
p もし,話し手が聞き手の「関連性」を考慮するのであれば,「(聞き手の)要求」が異なれば,「(話し手の)概数化する割合」に変化があるだろう
p 新しい要求: 「時計の時刻を合わせる」
n 誰かが時計の時刻を正確に合わせようとするときは,概数化した答えより,1 分単位で正確な答えをする方が,関連性が大きいはずである
方 法
p 被験者
n フランスのあるショッピングセンターで尋ねた91 人
n 全員,アナログ時計着用
n 実験群45 人,統制群46 人
p 実験群
n 実験者が自分の腕時計を目立つように示して,時刻を正確に合わせたいので,教えてくれて頼む。
n 「こんにちは,私の腕時計の時刻が狂っているようです。時間を教えてくれませんか?」
p 統制群
n 「時間を教えてくれませんか?」とだけ言う
結果: 概算化した人の割合 (実験2)
考 察
p 実験群の51%が正確な時間を示した
p 統制群との45%の差があった
n 話し手には,情報を「聞き手にとって関連性があるようにしようとする」傾向がある
n 関連性のある情報として正確さが必要であるか否かによって,概数化したりしなかったりする
実 験 3
p 「A. 質問した時刻」と「B. 約束(appointment)の時刻」の「間隔(interval)」を変数とする
p A.とB.の間隔が短いほど,関連性の観点からより正確な返答がなされるであろう
n 時刻を尋ねられると,約束までの「残り時間」を計算するが,その間隔が短ければ,1 分の重みが変わってくるはず
(例) 「3:30から約束がある」
p 現在,3:08であれば,「3:10です」という方が,最適な関連性をもつ
n 正確な時刻から2分ずれても問題がないばかりか,話し手の処理が容易になる
p もし,3:28であれば,「3:30です」ではなくて,正確な時刻を言う方が関連性に寄与する
n 約束の場所に着くのに,この2 分が重要になる可能性がある
方 法
p 被験者
n アナログ時計着用者142人
p パリのルクセンブルクガーデンを歩いていた被験者に「こんにちは,今何時ですか?(ある時刻)に約束があるんです」と尋ねた
p 2 群にわけた
n Earlier group (約束の時刻の30 ~16 分前を答えた)
n Later group (約束の時刻の14 ~0 分前を答えた)
結果: 概算化した人の割合 (実験3)
考 察
p 話し手は,余分な労力を払っても,答えの正確さを調整する傾向がある
結 論
p ある人にとって「何が関連性のあることか」を決めるには,その人の心的状態を読み取る必要がある
n 「心の理論」,読心能力
p 本研究は,こうした読心能力や聞き手の視点への注意が,見知らぬ人どうしの「日常的で単純なコミュニケーション」においても機能していることを示す
p 話し手は,「何が聞き手にとって関連性のある(重要で,処理の容易な)情報か」を推論する傾向がある
p 有能な話し手は,自分の発話の正確さのレベルを,最適な関連性をもたらすように,自発的に調整する