Investigating the output monitoring component of event-based prospective memory performance
Memory & Cognition 2002, 30 (2), 302-311
Richard L. Marsh, Jason L. Hicks, Thomas W. Hancock, & Kirk Munsayac
要約
本研究における目的は,アウトプットモニタリングの視点から事象ベースの展望的記憶について検証することであった.アウトプットモニタリングとは過去の行動に関する記憶のことであり,また,展望的記憶のパラダイムの中では,反復エラーや脱落エラーの原因にもなっている.本研究で修正された実験パラダイムでは,自身が遂行したはずの展望的記憶に関して,遂行したかどうかを覚えているかということをはかる.より精密に展望的記憶を遂行した場合,遂行したことに対する記憶の忘却を減らす.一方で,文脈の変化は忘却を増やす.実験1から3では,被験者は実際には行なっていないことを遂行したと反応する傾向が見られた.実験4で弁別性のある反応を求めたところ,そういったエラーは減らせた.以上から,自身の過去の遂行に関する信念は,事象ベースの展望的記憶タスクにおける反復エラー脱落エラーに影響を与えうることが分かった.
展望的記憶
・・・自身の意図を形成したり遂行したりする時の記憶のこと.すべての意図が完全に遂行されるわけではない.
アウトプットモニタリング
・・・記憶テスト時に自分が再生したこと,再認したことについての記憶 (Gardiner & Klee, 1976).
Marsh, Hicks, & Landau (1998)
・・・日常生活における意図と遂行失敗に関する理由について調べた.←意図は明らかに忘却されるわけではなく,他にしなければいけないことに比べて重要性が少ないとみなされ,キャンセルされたり優先順位を後に回されたりして遂行できなくなることが多いことが示された.
他に考えられる要因
・・・リマインダーとしての外的な刺激 (配偶者,秘書,仲間) がない限り,やっていないことをやったと信じ込んだ場合は,遂行されずに終わる.やったことを,やっていないと考え複数回することもある.
Einstein, McDaniel, Smith, & Shaw (1998)
・・・脱落エラー反復エラーを調べることができるような実験パラダイムを作った.1つのリストが3分間続くような行動を計11しながらも,それぞれの行動がはじまって30秒後に展望的記憶を遂行するように求められた.その後,きちんと反応できたかどうかを被験者たちに尋ねた.その結果,展望的記憶を実際に行なったかどうかについての記憶は定かでないことが明らかになった.
Einstein, et al. (1998) の重要なポイント
・・・反復エラー脱落エラーには,実験者によって言われた展望的記憶を明らかに忘れたというのではない要因が入っていることが分かった.展望的記憶を遂行した (はず) の後に必要となるアウトプットモニタリングが要因のひとつにもなっていることが示唆された.
本研究の目的
・・・展望的記憶に関する実験パラダイムにアウトプットモニタリングを組み込む.
展望的記憶の実験パラダイム (Einstein, Holland, McDaniel, & Guynn, 1992)
・・・被験者に,300単語について1つずつ快不快評定をしてもらいながら,ある特定の種類の単語 (動物の名前) が呈示された時には特定のキーを押すよう指示する.日常生活における,郵便ポストを見たときにはがきを出すことを思い出す,といった事象ベースの展望的記憶につながる.
本研究の手続き
・・・ある特定の種類の単語 (動物の名前) について,それぞれ2回呈示する.1回目に呈示された時と2回目に呈示された時では違うキーを押させる.つまり,被験者が前にも押したことを覚えていたら,2回目出てきた時には違うキーを押せるはずである.こうすることによって1回目の展望的記憶遂行に関するアウトプットモニタリングをさせることになる.
結果の予測1.
・・・1回目に呈示された時にキーを押すことを忘れていたら,2回目の呈示における反応で2つの可能性がでてくる.
→1. 2回目の呈示で1回目に押すはずのキーを押す可能性 (1回目に出たことを忘れているor 1回目に押していないことを覚えているため).
→2. 2回目で2回目に押すべきキーを押す可能性(1回目に押していないことを忘れている).
結果の予測2.
・・・1回目に呈示された時にキーを押していたら,2回目の呈示における反応で2つの可能性がでてくる.
→1. 2回目呈示で2回目に押すキーをきちんと押せる可能性.
→2. 2回目呈示なのに1回目呈示で押すべきキーを押す可能性.
Einstein, et al. (1998) のように直接アウトプットモニタリングをさせない理由
・・・直接たずねると,若者の場合天井効果になったから.
実験1
目的1
・・・2回目呈示された時に,被験者が1回目の呈示で展望的記憶を遂行したかどうかを覚えているかどうかを調べること.
目的2
・・・動物が出てきた時に声を出させることによって1回目の呈示における遂行が覚えやすくなるかどうかを調べること (シンプル条件 vs. 精緻化条件).
目的3
・・・1回目呈示と2回目呈示の間隔が影響を与えるかどうかを調べること.
方法
・・・被験者
70名(うち,35名ずつ精緻化群と通常群に分ける).
・・・材料
288の具象名詞単語(Kucera & Francis, 1967) と8の動物の単語 (ライオン,馬).
8の動物単語のうち4単語は1回呈示条件,4単語は2回呈示条件.つまり,述べ12回動物の名前が呈示されることになる.述べ300回単語が呈示される.
22番目,47番目,72番目,97番目,122番目,147番目,172番目,197番目,222番目,247番目,272番目,297番目に動物単語はそれぞれ挿入される.
つまり,1回条件(172番目,197番目,222番目,297番目),2回呈示ラグ長い条件(97番目と247番目,72番目と272番目),2回呈示ラグ短い条件(22番目と122番目,47番目と147番目)ができた.
・・・手続き
述べ300の単語について快不快評定を5件法で行なう.
また,各動物の単語が1回目に呈示された場合には,/ キーを押すよう(First キーと呼ぶ),また,その単語が前にも呈示されその時 / キーを押したことを覚えていたら,=キー (Repeat キーと呼ぶ) を押すよう教示.
精緻化条件では,動物単語が呈示された時に声を出してその単語を読むよう教示.
実験に入る前,ディストラクタタスクを3分間行なった.
結果と考察
動物単語に対してキーを押せた率は.54と.73だった.
・・・1回目呈示においてFirstキーを押しているにもかかわらず,2回目呈示でFirstキーを押す率がシンプル条件では多かった.精緻化条件のほうがアウトプットモニタリングできていた (表1上段から).
・・・1回目呈示においてキーを押していないにもかかわらず,2回目の呈示でRepeatキーを押す割合のほうが高かった.1回目できちんと反応したと誤って考える率のほうが,1回目には反応していないと考える率より高かった (表1下段から).
・・・ラグの差による違いは見られなかった.
つまり,1回目で反応できた場合もできていない場合も,2回目の呈示の時,1回目には反応したと考えていることが分かった.
実験2
実験1から
・・・1回目呈示でFirstキーを押して2回目呈示でRepeatキーを押せた場合
→1回目に出てきたことも展望的記憶を遂行したことも覚えている.
・・・1回呈示でFirstキーを押し忘れ2回目呈示でRepeatキーを押した場合
→1回目に出てきたことを覚えているが展望的記憶を遂行したと誤っている.
・・・1回呈示でFirstキーを押して2回目呈示でFirstキーを押した場合
→1回目に出てきたことを覚えているが,展望的記憶を遂行したと考えている.
→1回目に出てきていないと考えている.
・・・1回呈示でFirstキーを押し忘れ2回目呈示でFirstキーを押した場合
→1回目に出てきたことを覚えているが,展望的記憶を遂行していないと考えている.
→1回目に出てきていないと考えている.
2回目呈示でFirstキーを押した場合,2つのことが考えられる.そこで,動物単語に反応してキーを押した場合,“以前にもでたか”どうかを聞く.
目的
・・・1回目に呈示されたことを忘れているのか,1回目に呈示されたことは覚えておりその時遂行していないと考えているのか,を確かめる.
方法
・・・被験者
28名
・・・手続き
Firstキーを押した場合,“前にもこの単語は出ましたか”にyes/no判断.
結果と考察
98%が1回目呈示されたものに対して初めてと反応.
・・・28%が1回目呈示にFirstキーで反応したにもかかわらず,2回目呈示にも同様のFirstキーを押した.そのうち全員が,1回目も呈示されていたと答えた.つまり,呈示されていたことは覚えているが,自分が押したことは忘れている (表2上段から) .
・・・1回目呈示でFirstキーを押し忘れた時,2回目呈示でFirstキーを押す率とRepeatキーを押す率に差は見られなかった.Firstキーを押した人のうち84%は1回目に呈示されていたと答えた.つまり,1回目に呈示されていたことは覚えており,その時反応しなかったことも覚えている (表2下段から).
つまり,2回目呈示でFirstキーを押した人たちのほとんどが1回目呈示されていたことは覚えており,自分が押すのを忘れたと考えていることが分かった.
実験3
目的
・・・実験2の結果をふまえて事象ベースの展望的記憶遂行についてのアウトプットモニタリングを変化させるほかの要因について調べる.
・・・文脈の要因について調べる.意図する時とそれを実行する時の文脈が異なれば,展望記憶遂行の成績は下がる (McDaniel, Robinson-Riegler, & Einstein, 1998).
←1回目呈示のときと2回目呈示のときで,カバータスクを変える(はじめの150試行はイメージのしやすさ評定,後半の150試行は快不快評定).
方法
・・・被験者
70名(うち35名はシンプル条件,35名は文脈変化条件).
・・・手続き
22番目,47番目,72番目,97番目,122番目,147番目,172番目,197番目,222番目,247番目,272番目,297番目.
つまり,122番目,147番目,222番目,247番目 が1回呈示条件.22番目と172番目,47番目と197番目,72番目と272番目,97番目と297番目,が2回呈示条件.
シンプル条件ではずっと快不快評定.文脈変化条件では150番まではイメージしやすさ評定.300番までは快不快評定.
結果と考察
快不快評定とイメージしやすさ評定で展望記憶遂行に及ぼす変化なし.
シンプル条件では.62が,文脈変化条件では.58が1回目呈示で反応できていた.
・・・文脈の変化によって,自分が1回目呈示の時,展望的記憶を遂行できていたことを忘れる傾向が強くなった (表3上段から).
・・・文脈の変化と,1回目の時展望的記憶を遂行できなかったことに関する記憶に関係はなかった (表3下段から).
実験4
目的
・・・動物単語,ということでひとくくりにするのではなく,一つ一つの動物に別の反応を求めると,反応したかどうかを思い出せるのではないか.
方法
・・・被験者
70名(シンプル条件35名,弁別条件35名).
・・・手続き
シンプル条件は通常通り.弁別条件は1回目呈示に反応する時は,それぞれの動物の頭文字(lion なら l)を押す.2回目呈示に反応する時は,Repeatキーを押す.
結果と考察
・・・シンプル条件と違いなし.つまり,1回目に押すキーがそれぞれの動物によって違ってもそれによって押したことを覚えているわけではない (表4上段から).
・・・弁別条件では1回目呈示の時反応し忘れていたら,2回目呈示のときそのことを覚えている (表4下段から).
総合考察
全体を通して
・・・事象そのものを覚えていないのではなく,事象は覚えているがその時に自分が行動を起こしたかどうかを覚えていない.つまり,アウトプットモニタリングが反復エラー脱落エラーに大きく関わっている.
日常生活から
・・・日常生活では,遂行したことに関して思い出す時,何度も繰り返すことによってできたスキーマ記憶が干渉となって働いている.
←スキーマとは違う,弁別性のあることを展望記憶遂行の時にすると効果的である (実験4).
・・・日常生活では,意図するときと遂行する時の文脈が異なる.
←このことが,よりエラーを増やす(実験3).