2003年4月23日 BBSレジュメ 京都大学教育学研究科 D1 平山るみ
Journal of
Educational Psychology, 1993, Vol. 85, No. 1, 171-181
Personal
Factors Influencing Informal Reasoning of Economic Issues and the Effect of
Specific Instructions
Peter R.
Furlong
議論と非形式的推論
目的1・・・経済問題についての人々の思考や議論からの,推論のプロトコルを検討.
・前向きな推論の場合,推論者は解決法を根拠から産出する.
演繹的な議論であれば,証拠から解決策を導く.
・後ろ向きな推論の場合,主張を断言したり,推論による主張を支持したりする(Toulmin, 1958; vanEemerin, Grootendorst, & Kruiger, 1984).
非演繹的な議論や,非形式的推論を含む.
解決法は,推論によってのみ指示され,議論の信頼性は,読者や聴衆によって判断される.
・議論の合理性の一般的基準は,正しい推論と,推論から論理的に導かれた結論である(Angell, 1964; Thomas, 1986; vanEemerin et al., 1984).
→本研究では,推論による主張の支持+代替的主張,反例から,議論のプロトコルを分析する
・対話的な推論は,問題について批判的に考えたり,逆の視点から推論したりすることであると定義され(Paul, 1984, 1987),バランスの良い議論であるための要素であると考えられる.
・本研究・・・連邦の財政赤字解消のための議論における,非形式的推論について検討
影響する個人変数として,(a)教育経験,(b)問題に関する知識,(c)思考傾向,を扱う.
教育と経済学講座
・ アメリカの一般市民で,経済学の正式な教育を受けるものは,ほとんどいない.
・ 大学に通っていない若者は,日常の買い物に必要とされる以上に複雑な意思決定をするための知識は得ていないと思われる.
・ しかし,経済の授業外で,経済的知識は必要となる.
・ 国の経済的問題の性質のような,経済的取引の複雑性を与えられると,高校での単純な経済の授業と違って,十分情報を得た意思決定者となると思われる.
領域固有知識
・ 問題解決や意思決定における,宣言的・手続的知識の役割についての議論は少ない(Nickerson, 1986).
・ エキスパートは,その問題領域に関する膨大な知識を持つ(Chi, Feltovich, & Glaser, 1981; deGroot, 1965; Greenfield, 1984).
・ 知識の操作と固有・普遍の方略的知識の役割は,今回は十分には検討しない.
・
領域の知識量は,推論方略に影響すると考えられる(Alexander & Judy, 1988; Glaser, 1984).
・
インフレ,税の公平性,財政赤字といった問題が,経済的知識によって,推論のパフォーマンスに影響を受けると考えられる.
批判的推論態度
・ 質の良い議論をするためには,知識のある者が,能力を発揮しようとする態度や傾向性を持たねばならない(Norris & Ennis, 1989).
・ 態度(see Ennis, 1987)・・・根拠を求めること,もう一方も考慮すること,開かれた心であること,証拠や根拠が十分である場合に立場を変化することなどに影響し,良い議論に寄与する.
・ 態度の欠如・・・非合理的でバイアスのかかった議論となる.
議論の不足
・ 不十分な議論・・・メタ認知の不足(Perkins, 1989, p. 190)
・ 不備のある議論・・・片方の立場を非常に強く主張(Perkins, 1989; Ross & Anderson, 1982)
・ 確証バイアスによって,片方の立場のみ主張したり,自分の立場を過信するために早い段階で議論しなくなったりする.
・
“支援や手順を教えることで,生成される議論に大きな影響がみられた”(Perkins, 1989)・・・方略についての教示の有効性がある(Perkins & Salomon, 1989).
与えられた教示
・ 被験者には,思慮深く,開かれた心でいる態度を促進させる教示を与える.
・ 促進するよう指示された前後の,議論の内容や質の違いは,教示の効果と考えられる.
→批判的思考や議論のための,未来の授業活動に示唆を与え得る
動機的要因
・ 非形式的推論をより理解するために,推論を行う者の知識を求める態度や,経済的問題への関心も検討する.
・ 認知欲求尺度(Casioppo & Petty, 1982)・・・努力を要する認知活動に従事したり,それを楽しむ内発的な傾向を測定する尺度.
・ 得点高い者・・・より広く,深く複雑な情報を分析し,主題に対して,より進歩し多様な視点を持つ.
・ 思考態度だけでなく,自分自身の生活に対する経済の重要度も関係すると思われる.
・ より重要と考える者・・・議論のメッセージをより詳細に検討.信念-態度-行動の一貫性をより強く示す(Leippe & Elkin, 1987; Petty & Casioppo, 1984).
本研究の仮説・・・関与度が議論の質に関係している.
方法
被験者:
ロッキー山脈地方に住む,成人61名.
地域の者で学生ではない者,8名(男性3名,女性5名,平均年齢54.4歳)
心理学概論の受講者12名(男性7名,女性5名,平均年齢19.8歳)
「政治的経済における価値問題」という学部の学際的授業の受講者22名(男性18名,女性
4名,平均年齢21.1歳)
心理学と教育学の大学院生19名(男性9名,女性10名,平均年齢33.5歳)
2人のタイからの留学生と1人のドイツからの留学生以外は,白人のアメリカ人.
材料:
フェイスシート(年齢,性別,学歴,経済学,職業)
連邦の財政赤字の問題に関する知識
次の文章を呈示
1. この問題についての自分の知識を0.0から9.0で評定
2. 財政赤字の問題に対して主に影響を与えていると思う経済的要因を5つ挙げなさい.それぞれの要因について,その重要性を述べなさい.
各要因は,0から2の3段階に得点化(基準は以下のとおり).
0ポイント
1. 無回答
2. 財政赤字とは関係のない回答
1ポイント
1. 具体的な宣言による回答
2. メディアで見受けられる宣言によって理由を例証する回答
3. 支出と歳入の均等性への不確実な関係性による斬新的ではない回答
2ポイント
1. 具体的な予算項目を含むことが可能な上位の要因についての回答
2. 国税,支出,支出と歳入の予算均衡などの,経済原理の理論についての回答
3. 前向きな推論において,財政赤字にとって確実に関係のある要因についての回答
推論項目のシートで,被験者は推論をする質問が含まれる.各質問は,連邦の財政赤字問題の1側面と関係している.
質問は,それぞれ別のシートに書かれている.質問の順序は,カウンターバランスをとった.
動機づけ尺度2種
認知欲求尺度(Cacioppo, Petty, Kao, 1984)…18項目,0-5の6段階評定
関与度尺度(Verplanken, 1989)…5項目,0-5の6段階評定
手続き:
1セッションでの個人実験.実験者による教示を受け,次の順で課題を完成させる.
(a). フェイスシート,(b). 問題に関する知識シート,(c). 認知欲求尺度,(d). 関与度尺度
推論項目のシートを渡した後,口頭で実験者に答えること,メモをとってもいいことを教示.問題が読み上げられた後,90秒後に回答準備ができたか,もっと時間が必要か尋ねる.必要であれば,30秒追加した後,回答する.回答は,録音され,その後書き起こされた.
実験群31名:最初の問題の後,2つの教示を与えた.
統制群30名:同量の教示を与えたが,実験群よりニュートラルなものだった.
・・・議論の質に対する,教示の方向性の効果を検討
2つ目の問題も,同様の手続き.実験者による,質問後の教示はなし.
セッションの所要時間は,平均30分.
データ分析:
目的1・・・議論の質と,5つの個人と心理的変数との関係性の検討.
5つの要因・・・教育レベル(正式に教育を受けた年数),経済学の講義(大学レベルの経済学講座を受けた期間の数),領域知識((a)0-9段階の自己報告,(b)財政赤字問題で得られた得点との合計),認知欲求尺度,関与度尺度
議論の質・・・前提(不足の解決に適切と思われる議論に含まれる宣言の数),推論の筋(不足解決の主張を支持する宣言に関係),主張(歳入の増加や支出の減少など,一般的解決法),評価(合理性を2つの基準に基づき4段階評定.前提に支持されているか.前提は正しいか,また関連しているか.),反論(推論によって支持される反論.0-2の3段階評定).
5つの個人変数と5つの議論の質の基準は,重回帰分析モデルでの,独立変数と従属変数である
目的2・・・教示の方向性と,議論の質との関係.
議論の5つの基準に対する,教示の影響をみる.
結果
尺度の信頼性:
認知欲求尺度・・・α=.88, 関与度尺度・・・α=.84
得点化:
評定者・・・実験者,および,大学の経済学の教授
相関:
5つの個人変数と5つの評価基準の平均と標準偏差,相関係数(Table 1)
教育レベル・経済学・・・相関なし
領域知識と前提・推論の筋・評価・・・知識が議論の質に影響するという証拠
認知欲求尺度と主張・反論・・・相関あり
関与度尺度と前提・評価・・・相関あり
重回帰とセットの相関:
同じ変数を用いて,重回帰分析(Table 2)
・5つの独立変数による説明率は,51.0% (adjusted R2=.141), p<.05.
・教育レベル,経済学の講義,認知欲求は,議論の基準と有意な関係性なし.
・領域知識は前提,関与度は評価に,有意な関係性あり.
有意性のみられたかった3つの変数をモデルから削除.
→有意だった2つの変数で重回帰分析(Table 3)
・ 説明率33.1%,adjusted R2=.187
・ 領域知識は,前提,議論の筋,評価に有意な関係.
・ 関与度は,前提,評価に有意な関係.
教示:
・(a)推論の質の4つの尺度,(b)反論の生成,に対する教示と推論項目の効果を検討.
反論の生成に対して,教示の主効果あり
・・・F(1, 59)=24.83, p<.0001
前提,推論の筋,主張,反論に対して,課題の主効果あり
・・・F(1, 59)= 5.12, p<.05,F(1, 59)=5.52, p<.05,F(1, 59)=4.63, p<.05,
F(1, 59)=22.43, p<.0001
反論に対して,交互作用あり・・・課題1では,実験群>統制群
課題2では有意差なし
・・・F(1, 59)=28.22, p<.0001
→教示の効果あり.課題2までは持続しなかった.
交互作用の欠如は,教示の質の違いとはできない.
・ 実験群の回答を,教示前後で比較.全ての尺度で成績は上がっていた.
・・・実験群の55%が,主張の要素が加わることで質が向上.
2つめの教示によって,42%が,反対意見について触れていた.
→2つの特殊な教示は,根拠や他の視点の付加による議論の質の向上に影響していた.
討論
・ 他の視点を持つよう教示がない場合,反論の生起はなかった.
・ 推論を行う者が意識しなければ,本人の持つ立場とは逆の視点は現れない.
・ 対話的な議論は,自分の好む解決法を弱めたり,優柔不断や葛藤を起こすリスクがあるが,多面的で複雑な問題を解決する際の,バイアスを回避する手段である.
・
Nickerson(1991)・・・最終的に産出されたものが,行われた推論の代表ではないかもしれない.
→システマティックな推論を使用していないとは言えない.
・ 教示を与えると,適切な反論を産出できた
→多面的論理的思考の能力はあるが,発揮するには,明示するなどの条件が必要.
強い支援をすることで,習慣となるかもしれない.
批判的な反省の習慣を,学習の目標するのが望まれる.
・ 認知欲求は,反論の産出,主張と相関あり
→意図的な異なった思考をするという証拠.
集団での問題解決は,批判的思考態度の発達を促進する(Brown & Palincsar, 1989).
本研究では,推論をする者の立場の対立が,より反論を精緻化したと考えられる(see Johnson & Johnson, 1979).
・ 促進するための教示の内容は,議論の質に影響を与えていなかった.
→天井効果の可能性.
・ 教育レベルは議論の質に関係していなかった.
→サンプルの質が,同質であった可能性.
・ 経済学の講義の数も,議論に有意な影響がなかった.
・・・自己報告の知識量とは相関があるが,査定した知識量とは相関がなかった.
→経済学教育の変数は,経済学的推論の成功や失敗に影響する要因ではないとが分かった.
・ 領域知識は重要な要因であった
→知識が合理的に働くメカニズムまでは解明できていないが,知識によって議論の方略を得られることが分かった.
・ 自分自身の生活に問題が関係しているか,という関与度も有意な相関があった.
→関心が,より深い議論をもたらす.
・ 領域知識と関与度は,反論には相関がなかった.
→関与が強い者は,推論によって自分を指示するはなるが,対話的推論の傾向はない.
知的な思考者は,グローバルな思考の質をもっていないかも知れない(Glaser, 1984).
・ 反論は,別の解決法への教示への回答のときでのみ,みられた.
→反論を生成する能力はあることがわかったが,一面的に自分の主張を支持する傾向があることが分かった.
2問目でも,教示を待っていたという可能性もあるが,自発的な批判的の欠如かもしれない.