BBS  2004/2/26

Rep.田中優子

 

Positions of the Opposing Force

Cohen, M.S.,  Eduardo Salas & Sharon L. Riedel 2002 Critical Thinking: Challenges, Possibilities, and Purpose. Arlington, VA: Cognitive Technologies, Inc. 26-37

 

 

 


How Is Critical Thinking Defined in the Literature?

 

 なぜ批判的思考の定義は雑多なのか?

         批判的思考は,現在の教育の分野において認識されたギャップに対する回答

         批判的思考のねらいは,多様な文脈において(小学校,中学校,大学など),文脈独立な思考スキルを促すこと.

→このような実用主義的な性質のため,一貫した単一の理論的枠組みをもたない雑多な定義群に

なりやすい.

 

        関心を持っているレベルが異なるため

規範的レベル,認知プロセスレベル,認知メカニズムレベル

 

        異なる視点が採用されているため.

批判的思考の「目的」,「制約」,「機能」の見解が異なる.

 

 

Normative Definitions

Purpose

Dewey(1910/1991)が批判的思考を最初に定義(reflective thinking).Critical Thinkingの目的に言及.

 「信念を慎重に考慮すること」

多くの後続の定義は,このDeweyの概念を模倣.

 

最初の著者たちのグループは,Critical Thinkingの目的により言及している

 

     Critical Thinkingの目的は信念を受け入れたりあるいは棄却すること.

Dewey1910/1991) 信念や知識の形態を活動的,永続的,慎重に考慮すること

Ennis1962)      陳述の正しい評価

Ennis1987)      何を信じ何を行うかに焦点をあてた合理的反省的な思考

 

単に受容や棄却をするだけでなく,多くの定義はその決定を“合理的に”行うことがCritical Thinkingの目的であるとしている:

 

     Critical Thinkingの目的は,規範的に正しく信念を受容すること.

Ennis1987)      何を信じ何を行うかに焦点をあてた合理的反省的な思考

   Wade & Tvris1993) 主張を評価し,よく支持された根拠に基づいて客観的な判断を行うための能力や

意志

 

評価の対象として信念に焦点をあてることは,実在主義者の伝統(intellectualist tradition)を引き継いでいる.たとえば,論理的な規準は,行動や他の知的成果(計画など)に対してでなく,信念にのみ適用される.ある著者たちは,この焦点を(抽象的な命題として考えられる)信念だけでなく,信念を生成する活動的なプロセスにまで広げた:

 

     Critical Thinkingの目的は思考プロセスを評価することを含んでいる.

   Oscanyan1984    批判的な思考は精神的活動の評価で成り立っている.

   Paul1993         あなたの思考をよりよくするために,考えている間考えていることについて考える.

 

 

いくつかの定義は,Critical Thinkingの目的を信念以外の知的な結果を考慮することにまで広げた:

 

     Critical Thinkingの目的は信念以外のターゲットを考慮することを含んでいる.

Dewey1910/1991) 信念や知識の形態を活動的,永続的,慎重に考慮すること

Glaser1941)     経験の中で起こる問題や主観を用心深く考えるような態度

   McPeck1994     反省的な懐疑主義をともなう活動に従事するための態度,関連する知識,スキル.

Ennis1987)      何を信じ何を行うかに焦点をあてた合理的反省的な思考

 

 

 

Necessary Functions

Deweyに続く大きなグループは,Critical Thinkingがその目的を達成するために実行しなければならない機能について詳しく述べた.これらの人たちのほとんどがCritical Thinkingを信念,あるいは信念と行動を評価することに限定した.これは,目的が狭く定義されればCritical Thinkingに必要な機能を特定しやすかったからだと思われる:

 

     Critical Thinkingの必要な機能は信念の根拠を評価すること.

Helpern1996      Critical Thinkingは思考プロセスを評価することも含んでいる.           

   Epstein1999      良い論証を述べるのと同様に,ある主張が真,ある論証は良いと確信していいかど

うか評価すること.

   

ある人たちは,信念あるいは行動の評価は基準(standards),規準(criteria),一般的な原理(general principles)の観点で行われなければならないと詳細に特徴づけている.しかし,その標準が論理的であることを要求していない:

 

     Critical Thinkingの必要な機能は規準を使うことで,必ずしも論理的ではない.

Watanabe Dauer1989) 一般的な原理あるいは規準によって真の主張を評価する技術.

Lipman1991         規準にもとづくことによって判断を容易にする思考

 

 

 

 

ある定義はさらに特定的で,評価は論理学に従わなければならないとした.形式論理は信念のみに適用されるので,この機能によってCritical Thinkingの目的は信念を評価することに狭められた:

 

     Critical Thinkingの必要な機能は明確に論理的な規準を使うこと.

Glaser1941)      論理的に探求したり推論する方法の知識であり,この方法を応用するスキル.

Flew1998)       論証が妥当であるか否かと関係している思考.論証は命題と命題が論理的な関

係にあるかと関係している.

 

 

ある人たちが主張した機能は,異なる文脈や課題に対してCritical Thinkingを適用する基準を調整することであるとした.彼らは一般的な規範的基準(たとえば論理学)の存在を否定した:

 

     Critical Thinkingの必要な機能は文脈に適応すること.

Lipman1991)     文脈に対して敏感になることによって判断を容易にする思考

Helpern1996)    特定の文脈や思考課題のタイプおうじて,用心深くかつ効果的なスキルを使うことを考える人. 

 

 

ある人たちは規範的基準の相対性についてより強い主張をした.彼らは,正しい思考を行う一般的な基準は存在しないと論じた.基準は異なる領域にたいして固有のものである:

 

     Critical Thinkingに必要な機能は領域によって規準の区別を用いること.

McPeck1994)    ある文脈や領域において妥当でなかった規準や論理的に誤った推論も,別の文脈

や領域では完全に正しいかもしれない.

 

 

Cognitive Definitions

Cognitive Process Requirements

認知プロセスモデルは,Critical Thinkingに必要な機能がどのように働くのか明らかにすべきである.

ある認知的な定義は,主張を受容するための理由に焦点を当てるプロセスについて述べている:

 

     認知プロセスは自分自身の立場を省察することを含む

Facione/America Philosophical Association1990

                      理想的なクリティカルシンカーは,バイアスに直面したとき正直であり,判断をするのに慎

重であり,熟考する意志をもち,問題を明確にし,複雑な問題を整理し,関連する情報を

勤勉に探索し,合理的に規準を選択する.

Paul1993    もし,思考がある特定の個人やグループに関心を持たせ,他の関連する人やグループを除外するものと規定されるならば,それは哲学的あるいは弱い意味でCritical Thinkingである.

 

 

認知的定義の他のグループはより広い見方を採用している.単に自分の信念にある間違いを見つけてそれを修正することに焦点を当てるのではなく,代替的な仮説や視点を活動的に考えることに焦点を当てる:

 

     認知プロセスは代替的な立場を省察することを含む

Brookfield1987)   代替案を考えたり探索すること.

Facione/America Philosophical Association1990

                      理想的なクリティカルシンカーは,慣習的な知りたがりである.

 

 

 

Cognitive Mechanism Requirements

Critical Thinkingの定義で,特定の認知的メカニズムについて述べてあるものも少しある.

 

     Critical Thinkingは意識的なコントロール下にあるに違いない

Reeder1987)    Critical Thinkingは省察的な態度を含んでいる.クリティカルシンカーは信念や主張,出来事,発見に焦点を当てる.この焦点化は意識的な決定の結果である.

Moore & Parker    主張を受け入れるか棄却するか,あるいはその判断を保留にするかについて行う,

注意深くかつ計画的な決定

Ennis1987)     何を信じ何を行うかに焦点をあてた合理的反省的な思考

 

 

ある人たちは,Critical Thinkingのプロセスが自覚的でるだけでなく,自分の思考を活性化したものにするような思考者についての自己概念によって導かれる:

 

     Critical Thinkingは思考を活性化したものにするような自己概念を要求する

Paul1993)    思考の構造を管理すること.

 

 

ある人たちは,Critical Thinkingには努力がいると断言している.例えば,Critical Thinkingは,既存の強い傾向を克服することが必要なので,認知的要領をかなり要する.

 

     Critical Thinkingは骨が折れる,あるいはいやなものである

Dewey1910/1991)   省察的な思考は自分の価値にあった提言を受け入れたがる慣性を克服すること

を含んでいるので,いつも多かれ少なかれ面倒なものである.

  

多くの定義では,活動やスキルとしてのCritical Thinkingに言及するだけでなく,批判的な態度や活動に対するオープンマインドのように永続的な状態が必要であると言われている.

 

     Critical Thinkingは特別な傾向や態度を伴う

Glaser1941)     経験の中で起こる問題や主観を用心深く考えるような態度

Siegel1997)     クリティカルシンカーであるためには,自分の信念や行動を根拠に基づかせる必要

がある.Critical Thinkingには,傾向性や態度,習慣,特徴的な傾向の混合のよう

なものとして理解されている批判的精神が必要である.

 

 

 

What Are the Most Significant Variations in Current Usage?

 

定義に共通する最小限の要素

 “Critical Thinkingは,妥当性に関する適切な基準(standard)にもとづいて知的成果を評価する”

    →各定義の違いは,この要素の肉付けのし方の違い.

 

未解決の問題

        規範的問題

Ø         評価される知的な結果とは何か?それは信念でなければならないのか,それとも行動や知的活動の結果も含めることができるのか?思考のプロセスも評価されなければならないのか?

Ø         どのような規範的妥当性が要求されるのか?適切な評価規準は何か?論理の役割は何か?

Ø         規準の適用は文脈によってどの程度変化するのか?一般的な規準はあるのか,それとも規準は特定の領域と関連しているのか?

 

        認知プロセスの問題

Ø         評価プロセスは,ある人の見解に埋め込まれた含意や仮定を明らかにするような特別の活動を含むのか?

Ø         評価プロセスは代替案を積極的に考えることを含むのか?

Ø         人は活動的に情報を探索しなければならないのか,あるいは利用可能な情報に基づいて判断すれば十分なのか?

 

        認知メカニズムの問題

Ø         評価プロセスはどの程度まで自覚的でなければならないのか?

Ø         Critical Thinkingはどの程度骨が折れるものなのか,あるいはネガティブな情緒と関連しているのか?

Ø         クリティカルシンカーは,適切な特性や態度(永続的にCritical Thinkingを行う,懐疑的な態度を採用する)をどの程度身に着けることができるのか?

 

クリティカルシンカーは,根拠の評価に使われる規準を常に省察しなければならないのか?

根拠の評価とは,すべての潜在的な仮説を考慮したり棄却することを意味しているのか?

すべての出来事について,代替案を考えなければならないのか?

             

Critical Thinkingの合理的な概念は,明らかに便利なものであるべきだ.

そして,便利なものであるためには,意志決定者が任意でそれを操作できるような柔軟を提供しなければならない.

   しかし,現在のモデルではどのようにしてそれが行われるか示されていない.

 

 

 

 


-次章の要約-

4章で見たような定義の違いは,主に2つの高レベルなパラダイム間の競争の観点から説明される.

Critical Thinkingは伝統的に,個人の意識内で生じるようなものとして,内在主義[Internalist]の観点から概念化されてきた.合理的な判断は,普遍的な(e.g., 論理的な)基準を適用し,信念のある定まった評価をするところにあると考える.一時的に心に浮かんだ情報のみが関係していると考えるので,認知的プロセスと方略は重要でない.

一方,外在主義[Externalist]の観点からは,評価は知的な生産をする認知的プロセスの現実的な環境における信頼性をどのように判断するかの問題である.外在主義者の評価はかなり文脈依存であり,関連するプロセスは領域固有かもしれない.バイアスや誤信を明らかにし,意義を唱えるために見解を探索し,情報を活発に探索する認知プロセスは,ある特別な状況における信頼性を全体的に増大させるかもしれない.しかし,Critical Thinkingは合理性にとって必要ではない:ある状況においては,直感的なプロセスあるいはrecognitionalなプロセスがより信頼できるかもしれない.外在主義の観点からすると,Critical Thinkingスキルは認知的プロセスだけでなく,方略を適応的に選択するための永続的な特性や傾向性も含んでいる.