2003年11月28日 BBSレジュメ D1 平山るみ
Journal of Communication, June, 368-382
Information Processing
and Risk Perception:
An Adaptation of the Heuristic-Systematic
Model
Craig W. Trumbo
The
Heuristic-Systematic Model (HSM)
・ ヒューリスティック-システマティックモデルは,態度形成以前の情報処理である.
・ リスクに関する情報を得た際,どのようにそれを扱うか,どのようにリスク認知に影響するかという疑問に関係する.
・ HSMは,個人の情報処理には,システマティックまたはヒューリスティック,またはその両方の方略があるという二重処理理論によるものである.
・ ヒューリスティック処理は,システマティック処理よりも,安定性がなく,行動への結びつきが弱いといわれている.
→cognitiveとmotivationalとして2つの過程を区別(Eagly & Chaiken, 1993)
・ 初期の認知的処理モデルは,情報処理能力レベルの個人差と考えられていた.
・・・システマティックはヒューリスティックよりも,情報処理能力などでより個人差を受ける
・ 2つの処理は,適切な動機付けと情報の充足感とも関係する.
→判断を行うのに必要な情報が十分でないと感じると動機付けが増進する.
Risk
Perception
・ リスク認知については,さまざまな分野から,理論や知見が提供されている.
・ リスク認知や反応についてのモデルも提唱されている.
Proposed
Model
Griffin(1999)のモデルを基に,本研究では仮説を立てる(Figure 1).
6つの変数と,年齢および性別がそれらの変数の前にくるものとする.
・・・性差がある(男性の方がリスクの害を低く評価)といわれているため
Methods
Date Collection
標準プロトコル法に従って専門の調査機関による.
1999年3,4月に実施.
シアトルとマリオンで合計400,ナイアガラで350世帯がターゲット.
分析は,がん問題に対する事前の認識の回答者とした(シアトル:N=127, 平均年齢55,男性50%,マリオン:N=165, 平均年齢57,男性42%,ナイアガラ:N=109, 平均年齢54,男性33%)
Measurement
結果が公表されている2つのがんのクラスター調査に基づく質問紙.
リスク認知は,個人のインパクト,暴露のコントロール,発生への影響への関心のようなリスクへの反応が含まれる.
・ どれくらいがんのリスクはあなたがこの地域で生活していて個人で直面すると思いますか?
・ どれくらいあなたはこの地域で引き起こされるがんの危険性を回避できると思いますか?
・ 自分が住んでいる地域のがんの問題について,冷静に考えることができますか?それとも,とても心配なことですか?
・ この地域に住むことで,将来のがんの発生率はどれくらいになると思いますか?
7段階評定.1因子性を確認.
システマティック-ヒューリスティックについての質問紙.
システマティック:
・ “この地域でのがんの問題について完全に知るために,より多くの観点から得たいと思う”
・ “この地域のがん発生率についての科学的情報を注意深く調べるために,大きな努力をしている”
・ “地域のがん発生率が問題になると,私はいつもより多くのことを知ろうとする”
・ “私は地域のがん発生率についての情報にあうと,そのことについて注意深く考える”
4項目,7段階評定.
ヒューリスティック:
“これに似た過去の状況での経験から,どのように考えるかをより簡単に判断できる”
“この地域でのがん発生率の問題について,専門家を信頼するのが望ましい”
“私は,がん発生の問題について,より多くの情報を求めなくても,すでに持っている知識によって判断できる”
7段階評定
前提となる3つの変数
能力:私は,この地域でのがん発生問題についての情報を見つける能力を持っている
動機:これは重要な問題であり,がんの問題についてどのように考えるか決めることは私にとってとても重要である
充足:今回は私が得た情報はがんの問題について私が知るべきもの全てである
7段階評定
Results
同質性の検定:
3つの地域によって差があるかどうか
・ 分散分析とレヴンテスト(Table 1)
・ 相関係数 (Table 2)
→いくつか有意な違いがみられたので,3つのケースについてモデルを検討
モデルの検定:
HSMの理論的予測に基づいてモデルを修正
・ 3つのケースごとに分析を行った場合,適合度高(χ2=165,df=168, ratio=1.7, p<.01, RMSEA=.04, p-close=.95)
・ 3つを統合して分析を行った場合,適合度低 (χ2=159,df=56, ratio=2.9, p<.01, RMSEA=.07, p-close=.01)
・ 階層的回帰分析 ステップ1で7つの変数,ステップ2で地域を変数にして分析を行うと,ステップ2でR2が.02上昇した.
・ 年齢と性別は,モデルにおいては特に重要ではない.
・ 能力と充足の関係性は強さの違いはあるが,一貫している.
・ 動機と充足の関係性は,違いがみられる.
・ システマティック処理は,一貫して動機によって予測される.
・ 充足や能力によるシステマティック処理の一貫した予測はない.
・ 能力は自己報告によるもので,情報獲得の自己効力感とも考えられる
→ヒューリスティックと関係性あり
動機とヒューリスティックは一貫してはいないが負の関係
システマティックとリスク認知は一貫した正の関係
ヒューリスティックとリスク認知は一貫した負の関係
→情報処理のタイプによって,リスク認知は予測される
Discussion
住民をサンプルとした調査での情報処理は,パフォーマンスや観察のための課題を行うことができないため,実験室とは異なるものであった.
→情報処理の尺度の改善が必要
このプロジェクトの目的の一つは,固有の文脈における一貫したモデルの働きを評価することである.
→非一貫性はモデル内の欠如があるのか,状況による差異なのか検討
なぜ3つの地域によって結果が異なったのか?
→自由記述などで,より詳細に検討
ヒューリスティックとシステマティックの情報処理がリスク認知に大きく影響
ヒューリスティックはリスクをより低く評価(Lopes(1991)と反する結果)
→がん発生率を高める証拠が含まれていなかったから?
科学的に合理的なリスク評価に近いとも言える.
情報処理モデルによるバイアス的知見の評価は,リスクへの反応なのかどうかや,「正しい」のか「合理的」なのかを同定するべき.
今後の課題としては,ヒューリスティックの尺度の改善,モデルにおけるリスク認知の性差について検討するべき.