03/07/09 Brown Bag Seminar 文献紹介 M2 米田英嗣
Journal of
Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition
1995, Vol. 21(2), 386-397
Dimensions of Situation Model Construction in Narrative
Comprehension
Rolf A. Zwaan, Joseph P.
Magliano, and Arthur C. Graesser
物語を理解する際には,単語や文の心的表象を構築するだけではなく,単語や文によって伝えられる状況を構成する.
時間,空間,因果関係
・現実世界でエピソードが展開するとき,時間,空間,因果関係が複雑にかかわっている.
しかし,物語構造は自然の法則に必ずしも縛られない.
・ 現実世界の制約と物語構造との不一致は文学の特徴の一つとみなされる(Bruner, 1986;
Genette, 1983; Striedter, 1989; Tomashevsky, 1925/1965).
こういった文学物語における不一致は状況モデル構築を研究するのに利益がある.
→特に状況モデルのさまざまな次元が直行変動に近いという事実によって,状況モデルの3つの次元を同時に調べることが可能に.
状況的連続性
・ もし読者が読解中に状況モデルを構築しているなら,不連続の状況よりも連続した状況を伝える物語のほうが,理解が促進されるであろう.
時間連続性 物語のなかで続く文が,前の文と同じ時間インターバル内で起こる事象,状態,行動を記述する場合に生ずる.時間推移(time shift)がある場合は先行する文脈と時間的に不連続である.時間不連続が理解を妨害して,読解時間を長くする(Anderson et al., 1983; Mandler, 1986; Ohtsuka & Brewer, 1992; Zwaan, 1994).例として,Appendixのsentence 3.
空間連続性 テキストが,同じ空間設定で事象,状態,行動が記述する際に生ずる.空間不連続が理解を妨げ,前のロケーションについての情報のアクセスがしにくくなる(Morrow et al., 1987, 1989).例として,Appendixのsentence 9.
因果関係連続性 現在の文と先行する物語情報との間の直接な因果結合がある場合に生ずる.因果連続性がない場合,読者は因果結合を推論しようとし,多くの処理時間がかかる.
実験の概要
・読者が時間,空間,因果連続をモニターする程度を調べる2つの実験を行った.
両実験の手続きは同じ.
・実験には,3つの状況次元に十分な妥当性を持った自然な物語文を選択した.
それぞれの文は,シラブルや系列位置など予備的な変数の数でも分析を行った.
・文の読解時間は被験者ペースで収集した.
読解時間は,文を現在の表象と統合する難しさを反映すると考えた(e.g., Bloom et al., 1990; Graesser & Riha, 1984; Haberlandt & Graesser, 1985; Haberlandt, Graesser, & Schneider, 1989; Just & Carpenter, 1980).
・2つの読解教示を比較した:特別な制約を課さない通常読解の教示と記憶教示
2つの教示が,異なったパターンをもたらすことを予測した.
通常教示では,読者が特別なストラテジーを用いないので状況連続をモニター
記憶条件では,読者に特別なストラテジーが生じる.
少なくとも以下3つの可能性がある.
①記憶教示が,読者に「マキシマリスト」状況モデルを構築するよう促す可能性
この場合,時間,空間,因果関係の不連続が,文の読解時間を有意に増加
②記憶教示が,描写された状況よりもテキスト自体をよりフォーカスする可能性
この場合,記憶教示の読者は通常教示の読者ほど状況次元をモニターしない.
③記憶教示が,状況モデルの構築に影響しない可能性
この場合,読解時間のパターンは通常条件と記憶条件で差がない.
実験1
方法
被験者 28名の大学生
題材 Elisabeth (1981)による短編小説”The Demon Lover”とGarcia Marquez (1972)による短編小説”A Very Old Man with Enormous Wings”
両方とも約3000語の長さ
普通でない文は分析から除外 その結果,Garcia Marquezの物語から145文,Bowenの物語から147文を分析した.
テキスト分析
292文を次元の数で分析
理論変数 状況連続文は1,不連続文は2
時間連続は,(a)先行する事象が同時に発生する場合(b)先に述べられた事象に直接続く場合
それ以外は,すべて不連続 たとえばAppendixのsentence 3.
空間設定の変化が述べられていない場合は空間連続文
別の空間設定に移動した場合,空間不連続文
先行する情報と直接に因果結合が必要な場合,因果連続文
・ 直接に因果結合がある場合,読者は推論の必要はなし
・ 因果結合がない場合,因果連続が崩れ,読者は状況モデルのなかで先行する情報の結合を推論したり,長期記憶から知識を用いて推論をする.
予備の変数 シラブルの数,系列位置,新しいアーギュメント名詞の数,アーギュメントのオーバーラップ,テキストの種類
手続きとデザイン
被験者は2条件にランダム配置
文は,コンピュータスクリーンに呈示し,スペースバーを押すと次の文
文ごとの読解時間を収集
教示はスクリーンに呈示
テキストの理解をみるため要約を求めた.
約40分で終了
テキスト題材の分析
Table1は,予測変数間の2変量の相関を示す.
結果と考察
読解時間の重回帰分析を行った.
Table2は,重回帰分析のb-weightを示す.
予備変数は両グループで一致したパターンを示し,シラブルの数が最も頑健な予測変数であった.
系列位置から,読者はテキストの先に行くほど読解時間が速くなった.
通常読解条件 時間不連続によって読解時間297ms増加(β = .041), t1 (13) = 5.07, SE = 0.008; t2 (282) = 2.55
因果不連続によって読解時間201ms増加(β = .034), t1 (13) = 4.18, SE = 0.008; t2 (282) = 1.95
空間不連続によって読解時間120ms増加 しかし,有意ではない(β = .014), t1 (13) = 1.64, p > .12, SE = 0.009; t2 (282) = 1.17, p = .24
→読者は通常読解で時間連続と因果連続をモニターしているが,空間連続の効果は見られず.
記憶条件 時間不連続によって読解時間187ms増加(β = .032), t1 (13) = 4.05, SE = 0.008; t2 (282) = 1.92, p = .056
空間不連続によって読解時間234ms増加(β = .029), t1 (13) = 2.97, SE = 0.010; t2 (282) = 1.91, p = .057
因果不連続によって読解時間34ms増加 しかし,有意ではない(β = .005), t1 (13) = 0.64, p = .53, SE = 0.008; t2 (282) = 0.40, p > .69
記憶教示が状況モデル構築を妨害した.
実験2
・目的は,①実験1の結果がより広い読者に一般化できるか ②分析の単位が物語ではなく文であっても結果が一般化できるか
・実験2は,読者が物語を読む際の状況不連続をいかに処理しているかを検討
→ 1回目に読んだときモニターされない次元が2回目に読んだときモニターされるかどうかに関心
・実験1の結果は,通常読解条件で記述された状況の時間次元,因果次元をモニターすることを示唆した.
→ 読み返しのデータは,通常条件と記憶条件との状況次元の優先度に情報を提供
方法
被験者 28名の大学生
題材 Edgar Allen (1951)による”The Tell-Tale Heart”とW.D. (1985)による”The Bass, the River, and Sheila Mant,”
両方とも約3000語の長さ
Wetherellの物語から114文,Poeの物語から145文を分析した.
テキスト分析
実験1と同じ
手続きとデザイン
被験者は2条件にランダム配置
教示は,実験1と同じで,加えてテキストを2回読むことを言われる.
約1時間で終了
テキスト題材の分析
Table 3は予測変数間の相関を示す.
結果と考察
Table 4にb-weightが示されている.
予備変数
Table 4で示すように,予備変数は2つの教示グループと,一回目の読みと読み返しで一致したパターンを示した.
一回目の読解(First Reading)
通常読解条件の効果のパターンは,実験1と一致した.
通常読解条件 時間不連続によって読解時間189ms増加(β = .035), t1 (13) = 4.94, SE = 0.007; t2 (250) = 2.18
因果不連続によって読解時間216ms増加(β = .032), t1 (13) = 3.71, SE = 0.009; t2 (250) = 2.40
空間不連続によって読解時間120ms増加 しかし,項目分析では有意ではない(β = .016), t1 (13) = 2.25, SE = 0.007; t2 (250) = 1.06, p > .28
被験者は特別なストラテジーを用いない読解で状況モデルの複数の次元をモニターしていた.
記憶条件も実験1と一致
記憶条件 時間不連続によって読解時間172ms増加(β = .031), t1 (13) = 3.69, SE = 0.009; t2 (250) = 1.78, p = .078
空間不連続の効果はなし(β = -.001), t1 (13) = - 0.21, SE = 0.010; t2 (250) = -.16
因果不連続によって読解時間163ms増加 しかし,有意ではない(β = .025), t1 (13) = 2.18, SE = 0.011; t2 (250) = 1.60, p > .11
二回目の読解(Second Reading)
通常読解条件 時間不連続によって読解時間141ms増加(β = .032), t1 (13) = 3.40, SE = 0.009; t2 (250) = 2.43
因果不連続によって読解時間83ms増加 しかし,有意ではない(β = .017), t1 (13) = 1.40, SE = 0.012; t2 (250) = 1.36
空間不連続によって読解時間166ms増加(β = .031), t1 (13) = 2.76, SE = 0.011; t2 (250) = 2.44
→ 1回目の読解では処理されなかった次元をモニター
記憶条件の結果のパターンは,マキシマリスト状況モデル構築が観察されたという点で
興味深かった.
記憶条件 時間不連続によって読解時間150ms増加(β = .036), t1 (13) = 2.76, SE = 0.013; t2 (250) = 2.59
空間不連続によって読解時間128ms増加(β = .033), t1 (13) = 3.30, SE = 0.010; t2 (250) = 1.89, p = .06
因果不連続によって読解時間154ms増加 (β = .031), t1 (13) = 2.86, SE = 0.011; t2 (250) = 2.54
物語を読み返すとき,状況モデル構築に資源を割り当てたことが示唆された.
実験1と2を統合したデータセットの分析
①テキストを越えた一般化可能性
実験で用いた4つのテキストが異なっていたが,時間,因果次元は通常読解条件で一貫してモニターされた.
②状況変数間の関係
通常読解条件 時間は空間,因果関係とも交互作用なし(すべて|t| s < 1)
空間と因果関係に有意な交互作用:t1(27) = 3.05, SE = 0.03; t2(537) = 2.28
→因果不連続の結果生ずる読解時間の増加は,空間不連続がない場合よりも空間不連続がある場合に大きい.
しかし,因果不連続は,空間変数のレベルが連続でも不連続でも因果連続より,読解時間が長くかかる.
記憶条件 有意水準に達した交互作用はなし
③読解教示の効果
文の読解時間は,記憶条件(M = 4.747 ms)よりも通常読解条件(M = 4.431 ms)のほうが短い.
④テキストベース予測の検定
時間と因果不連続は,通常読解条件で読解時間が長くなる.
通常読解条件において時間連続と因果連続をモニターすることは,続く文の局所的な結合に依存しない.
総合考察
① 読者は,状況の複数の次元を通常はモニターしている.
② 状況次元は,自然な物語で相関はなく,読解時間で交互作用はなし.
③ 状況の不連続の効果は,テキストの結束性(cohesion)の状態に依存している.
④ 読解教示は,状況モデルの構築に異なった効果を持つ.
⑤ 物語を読み返すと,読者はさらに洗練した状況モデルを構築する.
・我々の方法は,状況モデルの多次元性の概略を最初に提供したという点で有意義である.