BBS文献紹介(ショート発表)
Peralta de Mendoza, O.A., & Salsa, A.M. 2003
Instruction in early comprehension and
use of a symbol-referent relation.
Cognitive Development, 18, 269-284.
2003年10月31日
林 創
問 題
1
p あらゆる人間文化において,認知やコミュニケーションを支えるさまざまなシンボル(象徴)体系がある(文字,数,絵など)。
p 多くのシンボルは「認識の道具(cognitive tool)」といえ,情報を伝達し,データを保存し,思考や知識を拡張するものである(Vygotsky,1978)
問 題
2
p 本研究の目的は,大人の教示が,いつどのように,子どものシンボル体系の理解を呼び起こすのかを調べることにある。
p ここで教示とは,子どもが「シンボル-指示対象の関係」を見つけ出し,使うことが可能になる情報的なサポートのことである。
問 題
3
p 理論的モデル(Deloache, 1995 )
n 物が隠された場所について,絵,モデル,地図,ビデオイメージなどによって情報が与えられ,それを見つけ出す課題
n 具体的なシンボルそれ自体と,その対象との抽象的な関係の2つを表象しなければならない
問 題
4
p Deloacheの理論的モデルにおける,表象の獲得の
3つの要因
n シンボルと指示対象間の「類似性(similarity)」
n シンボルに対する「経験(experience)」
n 「教示(instruction)」
問 題
5
p DeLoache(1987,1989)
n 部屋とそのモデル(サイズ比は7:1)
n 対象は,見かけが同じで,相対的に同じ位置に配置
n 「部屋とモデルの間の一致」と「対象や出来事の類似性」について,「明示的な情報(教示)」を与えた
⇒ 結果
n 3歳児は,人形の位置の知識を使って,容易に大きな人形を見つけ出すことに成功した
n 2歳半では,失敗した
n ただし,3歳児でも,「明示的な情報」がないと失敗した
問 題
6
p 年齢の効果
n 4歳では「最小限の教示」で成功し,5~7歳ではまったく情報が与えられなくても成功した(DeLoache et al., 1999)
p サイズの効果
n 部屋とモデルのサイズの違いを縮めたところ(2:1),3歳児でも「最小限の教示」で成功した(DeLoache et al., 1999)
n 2.5歳児でも「完全な教示」を与えれば成功した(DeLoache et al., 1991)
全体の目的
p 大人が与える教示のレベルの違い,サイズの類似性,年齢,経験が,子どものシンボルについての理解においてどう関係するのかを調べること
n Study 1; 教示を必要としないのは何歳頃か?
n Study 2; 2.5歳児に対して,教示がどれくらい有効か?
n Study 3; 教示による学習と転移の効果の検討
Study 1
目 的
p 教示を必要としないのは何歳頃か?
n 「サイズの類似性」の効果はあるのか?
n サイズの類似性を高めれば,3歳児でも教示がなくても成績が上がるのでは?
方 法
p 手続き(Study 1は,「教示なし条件」のみ)
n オリエンテーションフェイズ
p 大小2つの人形とそれぞれの家を紹介
p 各々に存在するアイテムの名前を言った
n テストフェイズ(6試行)
p 「小さい男の子がここに隠れました」(椅子の下など)
p 「大きい男の子を大きい家に隠します」
p (検索1)「大きい男の子を探しに行ってね」
p (検索2)「小さい男の子を見つけましょう」
← 検索1が失敗したときに,それが記憶の欠如や課題に関心がなかったからではないことを調べるため
結果と考察 1
p 従属変数は,「検索」で「エラーがなかった(最初に調べた場所で人形を見つけた)個数」とした
n 検索2で高い成功率(95%)
n 3歳児が,驚くほど高い(88%)検索1の成功率だった ⇔ Deloache(1999)では63%
⇒ 3歳児で,シンボル関係を完全に理解できた
p Study 1の結果は,先行研究と違った
n Deloache et al. (1999); 5歳以下では正答率が低かった
n Deloache et al. (1987); 3歳児は,「完全な教示」を与えたときだけ正答できた
⇒ 「サイズの類似性」は,子どもがシンボル関係に気づくのを促進させる力がある
結果と考察 2
p 検索1についての他の分析
n “A-not-B error”の出現
← 最初に探した場所で見つからなかった場合,直前の試行で見つけた場所を探す傾向(エラーの80%)
Study 2
目 的
p Study 1では, 3歳児で「教示なし」で成績がよく,サイズの類似性の効果が不明確だった
⇒ 2.5歳児を対象にし,教示の度合いにより2条件を設定
「完全教示条件」と「最小限教示条件」
n 「サイズの類似性」の効果があれば,両群で成績が良いだろう
n 「サイズの類似性」と「明示的な教示」の両方が必要であれば,「完全教示条件」の群だけ成績が良いだろう
方 法 1
p 被験児
n 2.5歳児19人(平均31.7ヵ月;範囲30ヵ月~33ヵ月)
p 手続き:基本的にStudy 1と同じ
方 法 2
p 「最小限教示条件」
n オリエンテーションフェイズ
p 2つの対応関係を言わなかった
n テストフェイズ
p 6試行のうち最初の試行で,「大きい男の子は,小さい男の子と同じ場所に隠れます」とだけ言った
結果と考察 1
p 検索1と2ともに,条件間に有意な差があった
(完全教示条件>最小限教示条件)
結果と考察 2
p サイズの類似性と対象の物理的類似性が高い課題で,明示的な教示が必要かどうか?
⇒ 必要である。2.5歳児では,「完全教示」を与えられないと成功しない
結果と考察 3
p 「完全教示条件」のどういう付加的情報が,2.5歳児の成功にとって重要だったのか?
n オリエンテーションフェイズでは,影響なし
n 「最小限教示条件」: 第1試行では70%,それ以降は26%
n 「完全教示条件」: 第1試行では78%,それ以降は75%
⇒ 繰り返し教示を与えることが重要
結果と考察 4
p 検索2での有意差は何を意味するか?
n 92%と68%で有意差あり
← 対応づけの効果か?
n 検索2で成功したもののうち,検索1で2度目の探索で成功した試行を除外しても,有意な差があった
← 最小限教示条件の検索1の低成績は,記憶の悪さや動機づけの違いによるものではなかった
Study 3
目 的
p 教示による学習と転移の効果の検討
n 「完全な教示」を行うことで,後に行う同等の課題で教示がなくても自発的に解決できるようになるのか?
方 法
p 被験児
n 2.5歳児18人(平均31.8ヵ月;範囲30ヵ月~33ヵ月)
p 手続き:基本的にStudy 1,2と同じ
結果と考察 1
p 条件2×性別2×実験日2の3要因分散分析
n 条件の主効果(実験群>統制群)
n 実験日の主効果(2日目>1日目)
結果と考察 2
p 1日目で,実験群の方が有意に高い成績
n 研究2と同様に,2.5歳児では「明示的で繰り返しのある教示」が必要であることを示す
p 2日目でも,実験群の方が有意に高い成績
n 2日目は,両群ともに教示がなかったことから,「完全な教示を受けた先行経験」が,教示がなくなっても成功に導いたことを示す
全体的考察 1
p 3歳児では,サイズの違いを低減すると,教示なしでも高成績だった
n 「サイズの類似性」が,子どものシンボル関係の認識を促進する
p 3歳以下では,物理的類似性が高くてもダメ
n 「完全な情報」のサポートが必要
n アナロジー研究と同等の知見
(Gentner & Rattermann, 1991)
全体的考察 2
p 2.5歳児は,シンボル関係の理解の発達における敏感な頃なのかもしれない
p 教育への影響
n 年少の幼児には,「シンボルと指示対象の関係(絵本のイラスト,地図,ビデオなど)」に,「明確な教授」が必要かも知れない