2002年4月17日 Brown Bag Seminar レジュメ
京都大学教育学研究科 M2 平山 るみ
Journal of Educational Psychology, 1996, Vol. 88, No. 2, 260-271
Effects of Preexisting Beliefs, Epistemological Beliefs, and Need for Cognition on Interpretation of Controversial Issues
CarolAnne M. Kardash and Roberta J. Scholes
Lord,
Ross, & Lepper (1979)
刑罰についての両極の意見をもつ人々にどちらも含んだ証拠を読ませ,それを評価させた.
→自分の意見と一致する側の証拠をより高く評価
矛盾した証拠にふれた後,自分の立場の方向性をより極端にした人もいた
○本研究の目的
・
人々が持つ先行信念や論争的な問題に対する態度が,新たな情報に対する反応にどのように影響するかを,理解,再生,証拠の評価,事後の信念の変化を用いて検討する.
・
論争的問題に対する様々な証拠の解釈は,認知的処理に対する個人の信念や特性によってどのように影響を受けるのか.
→epistemological
beliefs,(Schommer, 1990), HIVとAIDSとの関係に対する信念の強さ,認知欲求尺度(Cacioppo,
Petty, & Kao, 1984)が,HIVとAIDSの関係に関する様々で結論には達していない証拠を含んだ文章をもとに書く結論にどのように影響するのか
○
Epistemological Beliefs
● 知識と信念との違い(Bowie, Michaels, Solomon,
& Fogelin, 1992)
・
信念は誤っている可能性がある
・
信念は不適切な証拠に基づいているかも知れない
● e.g., Kitchener, 1983; Schommer,
1990, 1993
・
個人の”Epistemological Beliefs”は学習方略や問題解決等に重要な役割を果たしている
・
メタ認知の重要な構成要素である
● epistemological beliefs
questionnaire (Schommer, 1990)
・
63項目,4因子で構成される.
(a) 学習能力は生得的なものである
(Innate Ability)
(b) 知識は独立したものとして最も特徴付けられる
(Simple Knowledge)
(c) 学習は素早くなされるか全くなされないかである
(Quick Learning)
(d) 知識は絶対的なものである
(Knowledge is Certain)
・
様々な理解課題やメタ理解課題のパフォーマンスに影響
(Schommer, 1990, 1993)
○ Biased
Assimilation
● Lord et al. (1979)
・人々は自分がもつ先行知識や社会的理論の文脈のなかで新たな情報の妥当性,信頼性,代表性,暗黙の意味を評価する=スキーマ原理(Alba
& Hasher, 1983)と一致
○ Need
for Cognition Scale
・
34項目より構成される.
・
情報を求める,証拠の分析,抽象的思考に従事する傾向.
・
得点が高い者の方が,より批判的に議論を評価,熟慮し,議論の再生も高かった
(Caccioppo, Petty, & Morris, 1984)
○ Research
Hypotheses
・
人々が一般的に持つ知識の確かさについての信念や,論争的問題についての信念の強さの影響.
・
論争的問題に関して矛盾した証拠が示されているテキストの解釈について,複雑な思考を行なったり楽しんだりする傾向.
・
HIV-AIDSの議論に極端な立場をとる人・・・知識は確かなものであるという強い信念,
認知的に複雑な課題を嫌う傾向
・
HIV-AIDSの関係は不確かであるとする人々・・・知識は不確実で変化するものであるという信念,
認知的欲求は高い.
方 法
被験者:女性78名(81%),男性18名(19%)の心理学概論受講者
19歳から34歳(中央年齢21歳)
材料:
テキスト
・
Science 1998年6月29に掲載されたHIVとAIDSとの関係について.
・
National Institutes of HealthのBlattnerとカリフォルニア大分子生物学教授Duesbergが執筆.
・
「二つの立場」について,1354語,60文,平均18.5語
・
どちらの立場も8つのarguments,テキストには結論付ける宣言やパラグラフは含まれていない.
認識論的信念
・
Schommer(1990)の認識論的質問紙63項目のなかから42項目(確かさに関する信念,知識の構造,獲得の早さに関する項目,知識獲得のソースについての信念)
・
7段階評定
HIVとADISについての信念に関する項目
・
「HIVがAIDSを引き起こす」という記述にどの程度同意するかについて.
・
AIDSに対する信念,態度に関して.
・
40項目,9段階評定.
AIDSの感染についての先行知識
・
被験者がAIDSは何気ない接触や蚊を通じて感染し得るということに賛成又は反対する程度を調べる15項目を9段階評定
→ポイントが高いほどより「確かな」信念を反映
認知的欲求尺度
・
認知的欲求尺度(Cacioppo,
Petty, & Kao, 1984)から18項目を5段階評定
・
どれくらい面白いか,どれくらい理解するのに易しいか,どれくらい提示されたテキストの情報を熟知しているか
・
4段階評定
結論課題
・
テキストの結論を書く
・
教示「あなたは,今読んだこの研究プロジェクトのAIDSとHIVの文章の著者であるとイメージしてください.あなたは,最後のパラグラフ若しくは結論を除いたものを手にしています.どうぞ,文章に記されていることに基づいて読者のために結論を良い1つか2つの最終パラグラフを書き,文章を完成させてください.結論はできるだけ簡潔にしてください.」
手続き:認識論的質問紙→40項目のAIDSについての信念調査→認知的欲求尺度(セッション1の前約48時間,家で)→時間制限なしでテキストを読み質問に答えるよう教示(時間は測定)→おもしろさ・困難さ・熟知度について→言語能力テスト20項目(Wide
Range Vocabulary Test…French, Ekstrom, & Price,
1963)→結論課題
結 果
○
Preliminary Analyses
● Factor analysis of epistemological beliefs
・
Schommer (1990)とは若干異なったため,独自に因子分析(主因子法,バリマックス回転).
・
4因子・・・Quick learning, Certain
knowledge, Innate ability, Depend on authority(Table 1)
● Scoring of conclusion task
・
産出された結論を,確実性の度合いで分類(Schommer,
1989の基準による) (Table 2)
・
結論を述べることに失敗している回答・・・”no
conclusion”(多くの場合,単にテキストの情報を再
生産(reproduction)しただけ)
・
明らかにBlattnerかDuesbergのどちらかの側であるとする回答・・・”certain”
・
現在の研究では不確かということを暗示している回答・・・”tentative”
・
現在の研究は曖昧で調査は明確な答えを示していないという回答・・・”ambiguous”
・
著者2人によるコーディングの一致率は85%
● Characteristics of participants who did and did not
write a conclusion
・
96名中28名が”no
conclusion”,このうち21名が単なるテキストからの情報の再生
・
7名がテキストの情報を何も参照せず結論付け…AIDSに感染するような行動をすることを控えるよう警告している
・
χ2検定…性差,民族差,学年差,専攻差,全て有意差なし
・
“no conclusion”と”actual
conclusion”でt検定…認識論的信念の因子得点,先行知識,認知的欲求尺度得点,言語能力得点,テキストの性質,テキストを読む時間,全て有意差なし
○
Primary Analyses
● 個人差変数,テキストの性質,結論の種類間の相関 (Table 3)
・
conclusionとの相関・・・Certain
Knowledge, 賛否の程度 が有意に相関,Need for Cognitionは有意傾向
・
認識論的信念の因子間に相関なし→Schommer(1990)を支持(個人の認識論の構造は比較的独立した信念のセットから成り立つ)
・
Need for Cognitionは「知識は権威者から伝えられる」という意識と相関
・
「より適切なAIDSの先行知識」は,学習とは「早い」ものではなく増加の仮定であるという意識と関係
・
HIV-AIDSの信念項目の極端な立場の度合いは,知識は権威者によるという意識と負の相関
・
生得的能力のような素朴認識論の意識は,言語能力得点と負の関係
・
テキストが読みやすいかどうかは,先行知識と相関
○ Regression
Analyses
・
結論の種類と6つの変数(Certain
Knowledge, HIV-AIDSの関係への信念の強さ,Need
for Cognition,先行知識,テキストの性質,テキストを読む時間)との関係…重相関係数は.51
(F(6, 61)=3.54, p<.01) 寄与率26%
・
信念の強さ,認知欲求尺度得点,知識の確かさが有意(F(1,
61)=6.12, 5.67, 5.39, ps<.05).
討 論
・
確かな知識の存在を信じる傾向にない人々ほど,初めのHIV-AIDSの関係に対する信念は極端でない傾向.
確かな知識の存在に強い信念を持つ人は,極端な確信を持つ傾向.
・
認知的に複雑な課題を行なうことをより楽しむ傾向にある人は,彼らが読んだ様々な証拠は結論に達しない不確かなものだ,ということを適切に捉えた結論を書く傾向.
認知的に複雑な課題を行なうことは好きではない傾向にある人は,彼らが読んだ情報を無視する「biased
assimilation」を示すような結論を書く傾向.
・
Schommer(1990)を支持・・・因子構造とそれらの独立性,認識論的信念は知識の批判的な解釈に影響
・
論争的トピックについての固有の信念の強さは,そのトピックに関連する様々な結論を導くのではない証拠の解釈の仕方を決定するのに重要
・
結論は提示されたディベートの影響を大きく反映しており,普遍の信念や個人変数では予想し得ない.
・
HIVとAIDSのテキストの内容や論争への反応を実際にあらわしているとされる被験者によって生成された結論は,矛盾した情報のない記事から書かれた結論と比較するべきである.