2002612 Brown Bag Seminar レジュメ       京都大学教育学研究科 M2 平山 るみ

Journal of Educational Psychology 2002, Vol. 94, No. 1, 197-209

The Domain Specificity and Generality of Disjunctive Reasoning: Searching for a Generalizable Critical Thinking Skill

 

Maggie E. Toplak and Keith E. Stanovich

 

     多くの思考や試論課題のパフォーマンスの基礎となる認知プロセスについての重要な論文において,Shafir(1994)は,意思決定や問題解決場面への選言的アプローチの重要性を強調している.

 

     disjunctive reasoning skill・・・意見を決定する時や,推論課題において問題解決時に,全ての可能な状況を考慮する傾向(Shafir1994

 

     Shafir(1994)・・・選言的推論は一般的思考方略として明らかのように見えるが,認知科学において用いられる広い領域に渡った推論課題をみると,人々は方略を用いないので最適にふるまわない.

EXABという2つの可能な結果と,起こるかも知れないし起こらないかも知れないXというイベントがある.
もしXが起こるとき,BよりAを選択し,Xが起こらないときもBよりAを選択するなら,BよりAをはっきりと選択するといえる.
二者択一での選言的思考は,Xが起こるかどうかについての不確実性が選択になんの関係ももたないという結果になる.
選択はイベントXの知識によって変わることはないので,BよりAを選択する.

→「最もシンプルで合理的行動の論議の少ない原理」(Shafir, 1994

 選言的推論の失敗は,実験室実験だけでなく,日常でもみられる.

 

     能力的限定は,認知的能力の個人差と様々なこれらの問題を通じてのパフォーマンスとの相関を説明できるかどうか 

 

     認知態度や思考傾向として特徴付けられたものを扱う・・・need for cognition, reflectivity

Shafir(1994)は,選言的推論を認知スタイルとするために理論的に推論しているが,それを支持する個人差に関するデータは示していない.

 

批判的思考における思考スタイルは領域普遍性が仮定

⇔発達・教育・認知心理学では領域固有性が仮定

→異なった課題によって認知スタイルとして選言的推論の領域普遍性を検証

 

方 法

被験者:ポスターで集められた,大学生125(男性47名,女性78)

平均年齢226歳,謝礼20ドル

2名は囚人のジレンマ課題,disease framing task完成できず

デザイン9種の選言的推論課題(4種は意思決定,5種は問題解決課題)

     4種の課題で認知能力尺度を構成(WAIS-Rより2種,語彙調査,Raven’s Matrices)

     2種の認知態度(need for cognitionreflectivity・・・MFFT(Kagan et al., 1964))

尺度

意思決定課題

     囚人のジレンマ(Shafir & Tversky, 1992)

     Newcomb’s problem (Nozick, 1969Shafir & Tversky, 1992を使用)・・・擬似魔術的思考(quasi-magical thinking)の例

     Disease framing problem (Kahneman & Tversky, 1984)・・・問題1,問題2

     Probabilistic choice task (Shafir, 1994)

●問題解決課題

     Selection task (Wason, 1966)

     Knights and knaves problem (Smullyan, 1978)

     Double disjunctive problem (Johnson-Laird et al., 1992)

     Disjunctive insight Problem 1 – the married problem (Levesque, 1986, 1989)

     Disjunctive insight Problem 2green blocks problem (Levesque, 1986, 1989)

 

●認知的能力課題

     WAIS-Rの短縮版・・・語彙テスト(verbal measure),ブロックデザインテスト(nonverbal measure)Full-scale IQと最も信頼性が高い組み合わせ

     Brief vocabulary measure (the checklist-with-foils format)・・・40単語と20の発音可能な非単語.知っているという単語にチェック.

     Raven’s Advanced Progressive Matrices (Set , Raven, 1962)

 

認知欲求尺度(Need for Cognition Scale)

     いくつかの先行研究で,disjunctive reasoningの傾向と相関.

     18項目.6段階評定

 

熟考性-衝動性(Reflectivity-Impulsivity):

 The Matching Familiar Figures Test (MFFT)

     ひとつのターゲットの絵を提示される→6枚のほかの絵から同じものを選択する→誤っていたらもう一度正解するまで

 

手続き:一回の3~4時間のセッションで課題を完成させる(本研究とは無関連な課題も含む).同一の実験者によって個人実験.

Selection taskprobabilistic choice problemdisjunctive insight problem 1disease framing problem(Part 1)prisoner’s dilemmathinking dispositions questionnaire (Need for Cognition Scale)WAIS-Rdouble disjunction problemdisease framing problem (Part 2)disjunctive insight problem 2knights and knaves problemNewcomb’s problemvocabulary checklistMFFTRaven’s Progressive Matrices

 

結 果

Overall Level of Disjunctive Responding Across Tasks

     Shafir (1994)では,これらの問題の多くで選言的な難しい思考もできる

→本研究・・・回答率は課題によって大きく異なる(9%~76).(Table 1

     囚人のジレンマ課題・・・先行研究やの結果と類似.cooperationの割合が多い.Shafir & Tversky (1992) 37%,本研究で46%がcooperateを選択.推論課題を間違える割合は少なくない.

     Newcomb’s problem・・・ Shafir & Tversky (1992)65%が一つを選択.本実験では63%が選択できず.

     the disease framing problem・・・本研究で最も簡単な課題.76%がフレームの影響受けず.影響受けたのは3%のみ.

     the probabilistic choice task・・・24%のみが”no preference”を選択.67%がGame19%がGame2

 

問題解決課題・・・5題全てで50%以下

     4枚カード問題・・・7%が正答.40%がmatching response.(先行研究を支持)統計的分析のためにクラス化.disjunctive, nondisjunctiveの二分化.正答・全て・Pのみがdisjunctive

     Knights and knaves・・・42%が正答.49%が判断不可能と判断.正答がdisjunctive

     Double disjunctive problem・・・16%が完全正答.The partial contingency respouseは,各前提での選択はできているが,logical treeの全てから結論を統合することに失敗.

     Disjunctive insight Problem …非常に成績悪い
 the married problem
13%が”Yes”86%が”cannot be determined”.(”no”2%はこの後の分析より除外)

green blocks problem9%が”Yes”84%が”cannot be determined” ”no”7%はこの後の分析より除外)

 


     完全な選言的推論はほとんどの課題で50%以下

     全てのパフォーマンスのレベルは非選言的な推論態度は稀であるというShafir1994)の結果と一致.

 

Relationships Among Disjunctive Reasonig Tasks

・選言的推論課題間のパフォーマンスは,領域普遍性を示唆しているのだろうか?

→全ての課題間でφ係数(←二分された変量間の相関を求める方法.Rosenthal & Rosnow, (1991)を参照)を算出 (Table 2)

各課題のパフォーマンスはMethod sectionで議論されたクラス化の基準に基づいてdisjunctivenondisjunctiveにクラス化.

 


     領域普遍性はとても弱い

いくつかの課題間には若干相関があるが,多くの課題のパフォーマンスは完全に分離.

 

Predictors of Disjunctive Reasoning

     選言的推論の領域普遍性についての仮定は強く支持されてはいないが,Shafir (1994)の,これらの課題でのnondisjunctiveな処理は計算的な制限の結果ではないという推測を正当化している.

課題のパフォーマンスと一般的認知能力との関係を検討

     Table 2でみられる領域普遍性の欠如は,これらの全ての課題の背後に共通するの能力的制限はないということを示唆.

     各課題における選言的・非選言的推論の複合的認知能力の平均(Table 3).

→認知能力に違い. probabilistic, selection, double disjunctionで選言的推論が出来た者が有意に認知能力高(effect size(Cohen’s d)は順に .48, .52, .69Rosenthal & Rosnow (1991)の基準によると”medium”

→課題の非選言的推論はそれらの固有の計算の違いのためではないというShafirの推測を支持.

 

いくつかの課題は認知能力の影響を受けていない.

選言過程は認知能力としてよりも認知態度として分析されるほうがいいということはないのかどうかという疑問.

     熟慮性得点とneed for cognitionとの関係(Table 4)

     熟慮性…selection, knights and knaveで平均に有意差.

           double disjunction, disjunctive insight 2で有意傾向.

     Need for Cognition Scaleframing problem, knights and knaves, double disjunction

で有意差あり.

disjunctive insight 2で有意傾向.

 

より強力な尺度として,認知能力・熟慮性・認知欲求を統合.

     最も純粋に選言的推論の観念を捉えるもの,かつ,十分な統計的固有性をもつものとして5つの課題を選択.(disjunctive insight Problem, prisoner’s dilemma, Newcombs problemを削除)

 

階層的回帰分析(hierarchical regression analyses)(Table 5)

     思考態度の変数をセットとして考えると,Table 523番目の分析からMFFTErrorsNeed for Cognition11.8%の説明率.⇔思考態度尺度の後に認知的能力尺度は5.2%の説明率.

     思考態度セットは11.9%の説明率であり,認知能力セットの6.7%と比べて単独変数である.

 

 

討 論

選言的思考は困難←Shafir (1994)と一致.

2つの課題では,ほとんどの被験者が選言的推論をすることができなかった.

 

課題のパフォーマンスは,その他のパフォーマンスから予想するのは困難.

→領域固有である.

⇔先行研究における領域普遍のアプローチ.

 


     先行研究は認識的領域が多く,選言的領域を十分に表していない.

初期の研究…帰納的,確率的推論や証拠への信念の修正に焦点.課題は有限の問題スペースの徹底的な探査のためにデザインされていた.

一方,我々の分析(特にTable2)は,領域固有という誤解を与えたかも知れない.

1. 選言的洞察課題は床効果であった.

2. 囚人のジレンマもNewcomb’s problemも選言的課題としては,問題あり.

5つの課題のみについて考察

10個中5つに有意な相関

→領域固有性とならんで領域普遍性の可能性も存在

 

     選言的推論の欠如は,計算的制限のためではない.

5つの選言的課題のパフォーマンスの回帰分析は,認知能力よりも思考態度の方がより強く課題に影響.

→認知能力と思考態度を区別する批判的思考のフレームワークと関係する.(e.g., Baron, 1985a, 1994; Ennis, 1987)

 ExBaron(1985a, 1994)

   能力…IQテストでのパフォーマンスの認知的バイアスの背景を探求する情報処理研究者によって研究される認知過程のタイプ(知覚速度,識別の正確さ,ワーキングメモリ,長期記憶の情報検索能力等)

      教示など短期間なものでは改善されず,長期な訓練が必要.

   態度…認知態度.信念形成の妥当性・適切さ,目標に対しての行動,認知的努力の規則性.(「認識的規則性」「反応的規則性」「認知的規則性」)←後者2つを測定.

      教示などによって変化させることができる.

 

     選言的推論と思考態度,選言的推論と認知能力との間の分離可能性は,思考態度と認知能力は,認知理論における異なった水準の分析での個人差を表すというフレームワークと関係がある.

→少なくとも,3水準の分析で区別される(biological level, algorithmic level, intentional level

・知能検査のような認知能力尺度は,アルゴリズム的レベル.

・思考態度は,意図レベルでの個人差.

 

     思考態度は反省的な意図的レベルの心理学的機構であり,選言的推論の傾向は意図的レベルの心理学的機構での変化と関係している.

→選言的推論の失敗は,単に計算的制限に負荷を与える課題の複雑さのためだけではない.

もしそうならば,ここで測られた思考態度は,認知能力における違いの後の単一変数が偏ることを説明できない.

 

     これらの選言的推論問題は,明らかにアルゴリズムレベルの認知能力が程度を変化するのに負荷を加えているが,アルゴリズムレベルの認知能力からのいくらかの独立性を示す態度によっても異なる.

→独立性は,選言的推論の失敗は,意図的レベルの分析で最適とはいえない規則のシステムのためであり,おそらく認知能力自体よりもより順応性があるであろうシステムのためである可能性を示している.