報告者 杉森絵里子 2002.6.5

The Role of Recollection and Partial Information

 in Source Monitoring

Jason L. Hicks, Richard L. Marsh, & Lorie Ritschel

(ソースモニタリングにおける完全記憶と部分情報の役割)

Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 2002, Vol.28, No.3,503-508

要旨

ソースモニタリングする際,どの程度詳細な記憶が必要とされるのか,もしくはどの程度あいまいな部分情報を基盤としているのかを調べるため,Remember Knowテストを用いたソース判断が行なわれた.Remember反応は詳細な記憶と関係していると考えられるため,本実験で得られた結果からは,ソースモニタリングにおいて詳細な記憶は必ずしも必要でないことが分かった.むしろ,Know反応でもソースモニタリングが正しく行なわれることから,あいまいな部分記憶でもソースモニタリングが正確にできていた.このことから,ソースモニタリングは完全な記憶によってはもちろんなされるが,あいまいな部分記憶でも,そこに残っているあいまいな質的属性を効率的に使ってできることが分かった.

 

問題

ソースモニタリング…記憶の源を決定する際の認知過程のこと.

・符号化時に覚えるべきこととともに符号化された視知覚情報,感情,認知操作などの質的属性を,検索時に診断する.

・決定時に使用する基準は,その人その時その場によって変化する.

 

ソースモニタリングの際,どの程度詳細な記憶が必要とされるのか.

・ソースモニタリングには詳細な記憶が必要である.

→ソース決定の際に,他のソースよりも詳細であるという理由から決定がなされるため.

:認知操作についての詳細より,視覚情報の詳細のほうが多いため“見た”のだろう.

→ソースモニタリング課題を促すことによって様々な記憶エラーが減るため.

完全な閾値プロセスが関わっている.→直線ROC

・部分的な情報しかもっていなくてもソースモニタリングはできる.

 →元の記憶が乏しくとも再認時,保持時,検索時,その時々で様々な情報が追加されため.

部分的情報でも十分な,連続した信号検出理論が関わっている.→曲線ROC

 

本研究では閾値モデルや信号検出理論は使わずに,Remember-Knowテストを用いる.

Remember-Knowテスト

ソース判断をしたのち,各々の項目についてRememberなのかKnowなのかを答える.

Remember…記憶に関する詳細な知識をもつ場合.

Know…記憶に関してfamilialityはあるが詳細については覚えていない場合.

Perfect et al.(1996)Remember反応にのみ正確なソース判断が見られた.

→ソース判断には完全な記憶が必要である.

Conway & Dewhurst(1995)Know反応にも正確なソース判断は見られた.

→ソース判断には部分情報が使われる.

・他

Hoffman(1997)

  相対的な記憶痕跡強度を調べて,よく覚えていないものはよく覚えていないほうのソースへと帰属させる.Know反応のものはRememberでないソースへと帰属される.

Bink et al.(1999)

  記憶痕跡の違い,つまりRememberKnowかということがソース帰属傾向の原因になっているとは考えない.Knowであってもぼんやりとした質的属性が残っているはずだから.

実験1 

方法

被験者 

 35人の大学生.

材料と手続き

 120の項目が選ばれた(40項目…見る,40項目…聞く,40項目…未学習)

 聞く…単語が呈示されたあと250ms間,実験者によってその単語が読まれる.

 見る…単語が呈示されたあと250ms間,被験者によってその単語が読まれる.

 80単語の学習の後,40の未学習項目を加えてソース判断とRemember Knowテスト.

結果(Table 1)

再認成績…“見た”“聞いた”間での差はなかった.

→“見た”“聞いた”の記憶痕跡強度は同じといえる.

ソース判断…“見た”“聞いた”ともにRemember-Know間での正答数,誤答数に差がなかった.

→部分的記憶だけでも,ソースモニタリングが完全記憶と同程度の正確さで行われることが分かった.

 

実験2

実験1で得られたデータは記憶痕跡が同じになるようなソース2つを使用したが,得られたデータをより一般的なものとするため,記憶痕跡強度の違う2つのソースで同じ実験を行なった.

方法

被験者

 36人の大学生.約25分の実験.

材料と手続き

ソースは“見た”と“生成”.“見た”については実験1と同様.“生成”については項目の2文字をアナグラムにして生成させた.他は実験1と同様.

結果(Table 2)

再認成績…“生成”のほうが“見た”より成績がよかった.

→“生成”の記憶痕跡強度が“見た”より強いといえる.

ソース判断…“生成”について

正答率はRememberKnowを上回った.

誤帰属率はKnowRememberを上回った.

ソース判断… “見た”について

正反応についてKnowRememberを上回った.

誤帰属率について差なかった.

ソース判断…“未学習”について

誤帰属率について“見た”でかつKnowとする反応が多かった.

→“生成”への帰属には完全記憶が必要で,“見た”への帰属には部分記憶が使われる.

総合考察

先行研究と照らし合わせると

Johnson & Raye(1981)…記憶とは作られていくものであり,その時その場によっていろいろソースの判断基準も変わる.

→内的に生成したことだと判断するには完全な記憶が必要であり,外的に知覚したことだと判断するには部分記憶が必要であるという結果から示された.

Johnson & Raye(1981)…信号検出理論で説明.

→本研究でも,ソース判断の際に完全記憶が利用されるということが想定となっているJacoby(1991)に疑問を投げかけている.

改良すべき点

Knowの定義をもっと精密にしていかなくてはならない.