報告者 杉森絵里子 2002.5.29

 

Is there something special about memory

for internally generated information?

(内的に生成された情報の特別性)

Carol L. Raye, Marcia K. Johnson & Thomas H. Taylor

Memory & Cognition 1980,Vol.8 (2), 141-148

要約

2つの実験では,被験者がある単語について見た回数,生成した回数が変数となった.そして被験者のうち半分は見た回数についての回答を求められ,あとの半分は生成した回数について回答を求められた.内的に生成された出来事に比べ,外的に生成された記憶のほうが相対回数について正確であった.また,内的な記憶に対する判断は外的生成出来事と比べると,被験者が判断の際に範囲を制限されるかどうかに影響しかなかった.また,内的生成記憶は外的生成記憶との回数における混同が目立った.内的記憶と外的記憶の潜在的な違いや判断過程における違いという観点から考察が行なわれた.

 

問題

内的に生成された出来事…思考,想像などのように心的過程を通したもの.

外的出来事…感覚を通して外部から入力される情報.

 

これまで記憶研究における関心

外的出来事の記憶のみ.

外的出来事を記憶するための思考の役割についてしか内的生成記憶については語られなかった(符号化の要因,文脈効果,体制化,イメージ化など)

 

最近になってようやく内的生成記憶のみに着目した研究が出現してきた.しかし,外的出来事の記憶と内的生成記憶の2つを比べようとした研究は少ない.

 

外的記憶と内的記憶の違いを調べるためのストラテジー

1.外的出来事の記憶と内的生成記憶の2つについて直接的に比べてみる.

2.ある特定の操作が外的出来事の記憶と内的生成記憶の2つに似たような影響を及ぼすかどうかを調べる.

 

典型的な方法

・呈示回数を変えて,被験者に項目を見せたり生成させたりする.

・のちにそれぞれの項目について出現回数を答えさせる.

 

実験1

外的記憶と内的記憶の相対回数数に関する正確さを直接的に調べる.

実験2

呈示回数を答える際に影響を及ぼすような変数を組み込むことによって,外的記憶と内的記憶の性質の違いを間接的に調べる.

 

方法

実験1 

被験者 20

学習時

モダリティ…外的出来事-呈示(presentation),内的生成-生成(generation)

4項目(生成2回・呈示2)4項目(生成2回・呈示5)4項目(生成2回・呈示8)

4項目(生成5回・呈示2)4項目(生成5回・呈示5)4項目(生成5回・呈示8)

4項目(生成8回・呈示2)4項目(生成8回・呈示5)4項目(生成8回・呈示8)

合計36項目を使用.全部で生成を180回,呈示を180回することになる.

18項目の学習を1ブロックとして,生成,呈示,ともに10ブロックを行なう.

生成ブロック→呈示ブロック→生成ブロック→呈示ブロック…

呈示ブロック→生成ブロック→呈示ブロック→生成ブロック…

 

呈示課題では

Color-BLUEと呈示され,BLUEを覚える.

生成課題では

Colorと呈示されBLUEと答える.

学習項目について
Batting & Montague(1969)
の単語で,Johnson et al.(1977)によって生成のときに間違えることは稀だと報告されている.

生成,呈示,ともに1項目につき3秒.

テスト時

学習直後に行なった.

10名 各々の学習後についてそれを何回生成したかを答える.

10名 各々の学習後についてそれが何回呈示されたかを答える.

 

結果

(Figure 1)

先行研究となったJohnson et al.(1977)の分析.

左側…呈示回数ごとの呈示回数判断の変化を示した.

右側…生成回数ごとの生成回数判断の変化を示した.

グラフ全体に着目 

呈示回数(2回,5回,8)×モダリティ(呈示,生成)で分散分析をした結果,交互作用.

呈示回数増加に伴う呈示回数判断の増加に比べて,生成回数増加に伴う生成回数判断の増加のほうが大きい.

グラフ内の11つの線に着目

生成回数の増加に伴う呈示回数判断の増加(右側)が,呈示回数の増加に伴う生成回数判断の増加(左側)に比べると大きい.

→生成回数が呈示回数判断に及ぼす影響に比べると,呈示回数が生成回数判断に及ぼす影響は大きい.

(Figure 2)

先行研究となったJohnson et al.(1977)との違い.

・生成が呈示より学習の時間が長かった.→生成の成績がよくなった原因ではないか?

・呈示条件で見ているか分からなかった.→呈示の成績が悪かった原因ではないか?

Johnson et al.(1977)と同じ結果が得られた.

 

方法

実験2

実験1と違うところ

テスト時,0から10までで回数判断をするように制限をする群としない群に分ける.

あとは実験1と同じ.

結果

(Figure 3)

左側…実際の呈示回数に対する呈示回数判断.

右側…実際の生成回数に対する生成回数判断.

→生成より呈示のほうがテスト時の制限の影響を受ける.

(Figure 4)

外的情報と内的情報の混同を示す.

左側…生成回数と呈示回数判断の関係.

右側…呈示回数と生成回数判断の関係.

→生成回数が呈示回数判断に及ぼす影響は,呈示回数が生成回数判断に及ぼす影響より大きい.

呈示回数判断について

制限がない時…生成回数が呈示回数判断に及ぼす影響が大きい.

制限がある時…生成回数が呈示回数判断に及ぼす影響が小さくなる.

生成回数判断について

制限がある時とない時での呈示回数が生成回数判断に及ぼす影響は変化なし.

 

総合考察

2つの実験のまとめ

1.外的生成出来事に比べると内的生成出来事のほうが回数に関して正確である.

2.呈示回数が生成回数判断に及ぼす影響は,生成回数が呈示回数に及ぼす影響より少ない.

3.テスト時の制限に生成回数判断が受ける影響は少ない.

ここから挙がる2つの疑問

1.内的生成記憶は外的情報記憶に比べて常に優れているのか?

22つの違いは何なのか?また,今回の内的生成記憶の優位性を説明できるものはあるのか?

これらに対する答え

1.記銘時と想起時における記憶の生成プロセスが同じだから.

2.外的情報と内的生成記憶の性質の違い次第でどちらが優れているかは変わるのでは.

外的記憶と内的生成記憶について

外的ソース記憶…感覚,知覚情報を多く含む.

→絵画であったり,色鮮やかであったり,感覚に強く訴えるものならソースの記憶も強く残るのでは.

内的ソース記憶…思考,感情などの認知プロセスを多く含む.

→深い考えを必要とするものなら,ソースの記憶も強く残るのでは.

 

今後の課題

内的外的,いずれの場合もたくさんな(線画,写真画像,文字,文章)項目についてそれぞれの性質を調べていくこと.