BBS 文献 02/05/08 小島(D1)

Intrinsic Frames of Reference in Spatial Memory

 

Weimin Mou and Timothy P. McNamara

Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 2002, vol28, No1, 162-170

 

 

文献要旨

・対象の空間位置に関する記憶は、その内在的参照枠(intrinsic frames of references)によって規定されるが、この内在的参照枠は主体の経験や外的環境からも影響を受けることが示唆された。

 

・位置(location)の概念というのは元来相対的なものであるから、これを他者に伝達する際には、大前提と

して、位置を位置として外在的に存在させうる記号系(言語など)とその記号系が一意に当該の位置を確定しうる参照枠(frames of references)が必要である。

 

Shelton & MaCnamara(1997)によれば、大きな部屋の中に7つの対象を設置して、被験者にその対象位

置を特定の視点に立たせて記憶させ、再生時には視点を様々に変えた形で対象の位置を指示させたところ、記銘時の視点方向を中心軸として想定される座標系で指示させたときが、最も反応が早く、正確であった。

→人は、空間配置を記憶し、表象化する際、自己中心座標系を用いているだろう

 

Shelton & MaCnamara(in Press)Werner & Schmidt(1999)によれば、主体が空間位置を記憶する際に自己中心的な座標を用いるとしても、その座標系が上手く表象に取り込まれるかどうかは、周囲の環境(部屋の形が長方形か円形かなど)の在り様に依存することが示唆されている。

 

・ただ、これまでの研究では、自己中心座標系と対象の布置、環境との関係を体系的に調べていないので、本実験では、これを体系的に調べてみた(らしい)。

 

実験

実験1

 

目的 

対象の空間配置記憶における自己中心的視点は重要なのかを検証

 

方法

(被験者)

20人の大学生(男女10人ずつ)が参加

(装置・刺激)

 図1のような配置の7つの対象物を正方形の部屋(約6.6m×6.6m)の中にマット(3.3m×3.3m)を部屋の四辺とマットの四辺が平行になるように敷いて設置した。ここで、対象物である円盤には直径14cmの円盤で、アルファベットのAからGまでが表に記載されていた。また、AとBの円盤は青、C、D、Eの円盤は緑、そして、FとGは赤の色が塗られていた。対象間の距離は91.4cmであった。

(手続き)

 被験者は、まず部屋に入る前に、部屋の中にあるアルファベットが書いてある円盤の位置を覚える課題であることを教示された上で、目隠しをされた状態で部屋に入り、所定の位置(図1view point)に連れて行かれた。目隠しを外した後、被験者は実験者から0°の軸に沿う形でマット上に設置されている円盤の位置を記憶するように求められた。記憶時間は30秒間であった。その後、実験者が0°軸に沿う列毎にアルファベットを読み上げ(但し、どの列から読み上げるかは、被験者毎にランダム)、それに応じて被験者は目を閉じた状態で、読み上げられたアルファベットに対応する円盤を指差していった。ここで、2回正確に被験者が指差しができたところで、被験者に好きな順で円盤の位置をアルファベットを言わせながら指示させていった(このとき、全ての被験者が内在的な軸に沿って指示した)。

 以上の課題が終了後、被験者は別室に移動して、コンピュータを用いてのテストを受けた。このテストでは、被験者は、コンピュータに示されたテキスト(例えば、”Imagine you are at the A and facing the B. Point to the D”)に応じて想像をし、その指示するよう指定された円盤の位置(先の例ならD)をジョイスティックで指示するよう求められた。

 

結果

 実験結果をまとめたものが図2である。取得データは、実際にあった円盤の位置とジョイスティックで指示した位置とのズレの角度であった(以下、取得データの性質は実験2,3も同じ)。また、統計的な処理は、性別、想像する軸の方向8条件(0°から315°まで45°刻み)、指示方向3条件(front, sides, back)の2×8×3の3要因混合モデル分散分析で処理した。

 

考察

 結果から、被験者は自己中心座標ではなく、(どのような外部の手がかりを用いているかは不明であるが)刺激の布置に内在的な軸で空間配置を表象していると考えられる。

 

実験2

 

目的 

より自然な状況で実験1と同じ事を行ってみた場合にどうなるかを調べてみた。また、被験者が本当に自己中心的座標では空間は位置を表象するのかどうかを検討するために、記憶のセッションで、被験者の視点に沿って(315°軸で)対象の配置を記憶する群を設けた。

 

方法

 基本的に実験1と同じ。記述の如く、記憶のセッションで、被験者の視点に沿って(315°軸で)対象の配置を記憶する群を設けた点と、円盤が実物(ハサミとかバナナとか)になった点が異なるだけであった。

 

結果

 実験結果をまとめたものが図3である。また、統計的な処理は、記憶時に指示された軸(0°と315°、想像する軸の方向8条件(0°から315°まで45°刻み)、指示方向3条件(front, sides, back)の2×8×3の3要因混合モデル分散分析で処理した。

 

考察

 記憶セッションでの指示によってエラーパターンが異なることから、必ずしも自己中心座標系が機能的に働かないわけではないことが示されたが、重要なのはやはり刺激自体が持つ布置であるようだ。

 

実験3

 

目的

 対象の布置に関して、0°軸の座標系が内在的に存在するとして用いられるのは、もしかすると部屋の形やマットの形がそうした座標系を形成しているからかもしれないので、部屋を丸くして、マットを外した状態で実験2と同じことを行った。

 

手続き

 実験2と全く同じ。部屋の形が丸くなったのみ。また、実験2と異なり、被験者の視点に沿って(315°軸で)対象の配置を記憶する群を設けることはしなかった。

 

結果

 実験結果をまとめたものが図4である。また、性別、想像する軸の方向8条件(0°から315°まで45°刻み)、指示方向3条件(front, sides, back)の2×8×3の3要因混合モデル分散分析で処理した。

 

考察

 どうやら、対象を取り囲む周囲の環境も空間表象には影響をもたらすらしいということが示唆された。

 

総合考察

 以下のことが示唆された。

・優位に働くのは、刺激布置に内在する座標系である

・座標系の選択は主体の経験や環境にも依存する

・どのような座標系で表象を形成するかは、記銘時に選択した座標系に依存する

・記憶を思い起こすときは、記銘時の座標系に近い方が思い出しやすい

 

 

 

 

 

 

 

 

   

     図1.刺激例                図2.実験1結果

 

 

    

    図3.実験2結果               図4.実験3結果