02/12/10 Brown Bag Seminar 文献紹介 M1 米田英嗣
Psychological Bulletin, 1998, 123(2), 162-185
Rolf A. Zwaan and Gabriel A. Radvansky
1980年代初期,認知心理学者はテキスト理解を,テキストによって記述された状況を構築,検索することではなくテキスト自体の心的表象を構築,検索することであるとみなしていた.
・スキーマと状況モデルとのあいだの相違は,型式(スキーマ)とトークン(状況モデル)との相違である.
・スキーマは状況モデルの構築するブロックを構築するのに使われる(van Dijk and Kintsch, 1983).
Johnson-Lairdによれば,状況モデルは,少なくとも時間,空間,因果,動機,人物と対象に関連した情報を組み込んでいる.
なぜ必要なのか?
van Dijk & Kintsh(1983)
・文を飛び越えて情報を統合するのに必要
・モダリティを飛び越えて理解のパフォーマンスが似ているのを説明するのに必要
・理解における領域専門性の影響を説明するのに必要
・翻訳を説明するのに必要
・人々がいかにして多様なドキュメントからひとつの領域を学ぶのかを説明するのに必要
・すべての言語処理タスクが状況モデルにかかわっているわけではない
一般的な処理のフレームワーク
・最新(current)モデル:読者が文を読むと同時に構築されるモデル
・統合(integrated)モデル:ある文から次の文を読む間に,一度に一つずつ統合することによって構築されるモデル
・完成(complete)モデル:すべてのテキストインプットが処理されて長期記憶に貯蔵されるモデル
・状況モデルは,最新モデルと5つの異なった状況的次元の上にあるLTWM内の統合モデルの関連した側面との間で結合を形成することによって更新される.
5つの状況的次元
空間
・登場人物と空間的に密接した情報は,状況モデルのなかで前景化されやすいので,空間的に離れた情報よりも読解時間が速い(Glenberg et al., 1987).
・反応時間は,登場人物と物体が位置する部屋との距離の影響を受けた(Morrow et al., 1989)
・読者は,一貫した状況モデルを形成するのに役立つエンティティのなかで空間情報の関係を用いる→情報が前の状況モデルと一致していると解釈されたとき,更新される.
・状況の文脈内で人物の視点をとる読者は,正面で記述される情報は,後ろで記述される情報よりも手に入れやすい(Bryant et al., 1992).それに対し,外の観察者の視点をとる読者は,どちらの情報も手に入れやすさは同じ.
・読者が離れたモデルにたよって,事実が同じ状況にどのように言及されているかはっきりしない場合,統合は起こらない.
・記憶のパフォーマンスは,多くの表象にわたって貯蔵されるときよりも,ひとつの状況モデルに統合しやすいときのほうが良い.
・状況空間情報の統合は,一連の事実が単一の状況に明確に参照できて状況モデルが長期記憶の検索決定に使われてはじめてなされる.
・読者は,推論を立証するために状況モデルに依存した視点を用いる(Ferguson & Hegarty, 1994).
因果関係
・テキストに記述された事象間の因果関係は,因果結合語(たとえばbecause,so,therefore,consequently)を用いることで前景化される.
・因果結合語becauseが,文で記述された事象に関する表象の一貫性を強める(Caron et al., 1988)
・因果結合語は,andやthenのような非因果結合語と比較してオンラインの理解を促進させ, 後続する節の手がかり再生を増加させる(Deaton & Gernsbacher, in press)→読者は,因果結合語を事象間の因果的つながりを構成する手がかりとして敏感にとらえる.
・読者はcurrent modelをintegrated modelに組み込む統合的推論を形成する必要がないので,関連が高いペアの読解時間がもっとも速い(Myers et al., 1987).
・因果ネットワークモデルによれば,テキスト理解は特徴を問題解決に用いる→読者がある事象について読むとき,先行した文から,あるいは先に述べられた事象からの心的表象から,あるいは世界知識(world knowledge)から情報を用いることによって説明しようとする.
・読者は,現在の事象とワーキングメモリにおける情報との間のつながりを形成できるときでさえ,オンライン理解している間の因果推論を行っている(Albrecht & Myers, 1995).
意図
・物語の理解は,主人公(protagonist)の目標と計画をたどっておこなわれる(Graesser, 1981).
・登場人物(character)の目標が満たされない場合,目標と関連した情報が高く活性化される.
・読者が物語のストーリーから情報を探すとき,うまくいかなかった目標の情報は,やりとげた目標の情報よりも手に入れやすい(Lutz & Radvansky, 1997).
・読者はより低い次元の行為をより高い次元の行為と結びつけることによって動機の次元のうえで状況モデルを更新している(Graesser et al., 1994).
主人公と対象(Objects)
・読者は理解している間,主人公をたどる,一方で対象のフォーカスは文脈手がかりに依存する.
・操縦に関する物語の代名詞を理解するとき,パイロットのほうがそうでない人よりも正確に理解しやすい(Morrow et al., 1992)→読者は異なった文から情報を統合する際に背景知識を用い,背景知識は主人公の性質(property)とかかわるという知見と一致
・看護婦や医者のような名詞によってステレオタイプ的に主人公が紹介される際に,ステレオタイプ的なジェンダーと不一致な場合は読解時間が長い(Carreiras et al., 1996).
・人物ベースの状況モデルの最も強い証拠は,fan effectパラダイムを使うことで得られる.
・情報は,たとえば薬屋で品物を買うときのような単一の状況に言及するときに初めて統合される.
時間
・テキストで記述された状況を適切に理解するために,記述された事象が実際に関連して起こっているときと,時間的に関連して起こっているときの両方を知る必要がある.
・事象の時系列順序と描かれる順序が完全には一致していない理由は,いくつかの事象が時間的にはオーバーラップするが,オーバーラップしないで描く必要があるからである.
状況モデルの性質
言語的手がかりと世界知識
・前景化装置の存在は,観察者が前景化された登場人物,対象,状態,事象についての説明を形成する可能性を高める(Magliano et al., 1996).
・詳細なメンタルイメージを構築することができるのは,読者が言語の記述からよりも文学からである←しかし,詳細なメンタルイメージを創造することは,大変な処理を要するー精緻なイメージを構成するのに少なくとも3秒はかかる(Denis & Cocude, 1992)⇒理解の際に詳細な視覚イメージを生成しているわけではないだろう
多次元性
・他の次元を統制しないで,一つの状況次元の一貫性を読解時間や理解で検討した研究が多い.
・時間,因果,空間的関連性を検討(Zwaan et al., 1995)
・読者は理解のあいだに因果的結合を一貫して形成するだけではなく,因果的結合は長期記憶からの情報検索を促進している(Zwaan et al., 1995).
・主人公が,状況モデルの決定的な要素である.
事象索引化モデル(The Event-Indexing Model)
・理解している間,それぞれの事象が5つのインデックス(時間,空間,因果関係,意図,エージェント)に分解される(Zwaan, Langston, & Graesser, 1995).
・事象索引化モデルは,理解する間に負荷を処理することによって,現在処理される事象と状況モデルの現在の状態との間で共有される状況インデックスの機能として変化する.
・時間的因果的不一致は,短い物語の理解の間に処理することに付加的な効果を持つー入力される物語事象が,先行する事象と(a)時間移行で分離され,(b)因果的に無関連な場合,読解時間は大きく増加した
・事象索引化モデルによれば,状況モデルに関する長期記憶の表象は,物語の中で記述される事象を記号化し,物語から推論されるノードのネットワークである.
・事象索引化モデルは,物語事象を記号化する記憶ノードの間にある内部結合の強さが,事象間に分配された事象のインデックスの数を変化させるということを予測する.
限界・問題点
・事象ノード間の結合の性質をはっきり特定はしていない.
・個別の次元を独立したエンティティとして扱っている.
→最新モデル,統合モデル,完成モデル
構築(construction):現在読んでいる文に記述された状況のモデルを構築
更新(updating):最新モデルを前の文で記述された状況の統合モデルに組み込む過程
検索(retrieval):統合モデルあるいは最終モデルを長期記憶からLTWM,STWMに戻す過程
前景化(foregrounding):STWMバッファ内の検索手がかりをLTWM内の統合モデルに維持する過程
・状況の内容には,エンティティ(主人公と対象)とプロパティ(たとえば身体的,精神的特性)を含む.
・プロパティは,エンティティの外観あるいは身体的状態や,意図あるいは目標,感情を含む.
・状況モデルの中心にいるエンティティである主人公は表象に必須である.
結論
・状況モデルは,人間の言語理解と記憶のパフォーマンス研究の決定的な概念道具であるが,統合的視点は欠乏している.
・将来には,自伝的記憶のような状況理解にかかわる他の分野の研究に拡張できると考える.