02/09/04 Brown Bag Seminar 文献紹介                      M1 米田英嗣

Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 2002, Vol. 28(4), 770-779

 

Temporal Order Relations in Language Comprehension

 

Elke van der Meer, Reinhard Beyer, Bertram Heinze, and Isolde Badel

 

・状況モデルは,テキストのような先行情報によって記述された状況に関するメンタルモデルであると考えられる→テキストから得られた情報と長期記憶内で表象された読者の知識とを統合

・スクリプトベースの状況モデルは,一般的な空間―時間の枠組みで起こる連続した事象を表象する

・状況が伝達される順序は,状況の時系列的順序に対応←アイコニシティ仮説(Fleischman, 1990; Hopper,1979; Zwaan, 1996)

言語理解に影響を与える一般的な事象の知識の時間的定位があるのかどうかを検討

心的な時間次元の事象の距離が影響するのかを検討

読者は別々のチャンク,いわゆるscenariosの中で状況モデルを構築する←シナリオモデル(Anderson et al., 1983)

 

実験1

事象と未来時制のペアを用いたvan der Meer et al.(1999)の結果が,連続した事象にまで拡張できるかどうかを分析→再認パラダイムを用いた.

方法

被験者 Humboldt大学の心理学科生42(22人が予備実験,20人が本実験)

刺激と材料

デザイン SOA(200ms1000ms)×時間(時間順通り,時間と逆)の被験者内要因

手続き 先行情報が200ms1000msで呈示,続いてターゲット呈示

    ターゲットの事象が先行情報と適合した状況であるかできるだけ速く正確に判断

結果 反応時間はfigure1

SOA(200ms1000ms)×時間定位(時間通り,時間と逆)で分散分析

反応時間 時間と逆よりも時間通りのほうが反応時間速い

1000msと比べて200msのほうが反応時間長い

     交互作用は有意ではなし

エラー率 時間と逆よりも時間通りのほうがエラー率低い

     1000msと比べて200msのほうがエラー率高い

van der Meer et al.(1999)の結果を支持

考察 1000ms条件は200ms条件よりも反応速度速く再認も正確→スクリプトベースの状況

モデルが先行情報を処理するあいだに構築する時間のフレームワークが,時系列に基

づいている

→もっと自然で複雑な理解のタスクは事象の知識に影響を与えるのか?

 

実験2

・一般的な事象の知識が時間情報を含んでいるのなら,文の理解にアクセスできるだろう

知識が未来の時間に支配されているのなら,未来の事象は過去の事象より速く状況

モデルに到達できるだろう

文の呈示時間が長ければ長いほど,スクリプトベースの状況モデルを構築する知識の効果が持続するだろう

方法

被験者 Humboldt大学の心理学科生 (30人が予備実験,180人が本実験)

刺激と題材 90の実験項目と90のフィラー,それぞれが文とプローブが対

      被験者に事象を示す動詞を呈示(たとえば,burn)

前の事象(たとえば,light)と後の事象(たとえば,extinguish)

半分は最初に後の事象,次に前の事象

もう半分は最初に前の事象,次に後の事象

Table 1参照

デザインと手続き 関連度(関連あるいは無関連)と時間定位(時間順通り,時間と逆)

                  被験者内変数,SOA(900ms1200ms3000ms)は被験者間変数

 プローブが文のなかに出てきたかどうかできるだけ速く正確に判断

結果と考察

反応時間はfigure2

2 (関連度)×2(時間定位)×3(SOA)の被験者内分散分析

関連度,時間定位,SOAの主効果が有意

無関連のほうが反応時間短い

時間と逆のほうが反応時間短い

長いSOAのほうが反応時間長い

関連度とSOAの交互作用が有意,関連度と時間定位の交互作用が有意

関連度,時間定位,SOAの交互作用も有意

2 (時間定位)×3(SOA)の分散分析

時間定位,SOAの主効果が有意

交互作用も有意

実験2の結果,文とプローブのあいだの関連度が反応時間に影響

実験2は実験1を支持

中程度のSOAでは,時間順通りのプローブの事象は,時間通りではないプローブの事象よりも速くアクセスされ,棄却するのに時間がかかる

制限されたSOAによって,読者はスクリプトベースの状況モデルにおける知識と事象とを統合することが妨げられる

長いSOAによって,バックグラウンドの知識,つまり中程度のSOAではアクセスされない過去の事象と統合することが可能

 

実験3

実験2と同じパラダイム

 シナリオモデルによるなら,すべての事象がスクリプトのなかに述べられているので,誤ったプローブの反応時間における時間的距離の効果はないであろう

アイコニシティ仮説によるなら,事象の時間的距離の効果はあるであろう

 

方法

 被験者 Humboldt大学の心理学科生34

刺激と題材 240の実験項目と240のフィラー項目,それぞれが文とプローブが対

デザインと手続き 2 (時間関連度)×2(時間定位)×3(時間的距離)の被験者内分散分析

 Table2参照

 

結果と考察

時間関連度と時間的距離の主効果が有意

時間関連度と時間的距離の交互作用が有意,時間関連度と時間定位の交互作用が有意

2(時間定位)×3(時間的距離)の分散分析

時間定位の主効果が有意→時間順通りの項目が,反応時間が長い

時間的距離の主効果が有意→距離のある事象が,反応時間が短い

実験2の結果を支持

アイコニシティ仮説と適合

時間的距離が増加すると,時間順と逆の関連した事象と比較して,時間順通りに関連した事象のアクセスが減少する.

 

総合考察

言語を理解する際に,一般的な事象の知識における時間的順序情報が影響を与えている.

 

スクリプトベース状況モデルの時間定位

 時間順通りのターゲットが時間とは逆のターゲットより速くアクセスされた.

時間順序関係を処理するための推論

 SOAが長くなればなるほど,文を処理する背景知識の影響に与える影響は強くなる.

 文の意味→未来の事象活性化→過去事象にアクセス

スクリプトベース状況モデルの時間的距離の影響

 時間的に近い事象は,離れた事象よりも,より速くより強く状況モデルの中に統合さ

れる→文では起こっていないが,状況モデルには統合されている時間的に関連した事象 

が,文表象と状況モデルとのあいだの干渉のためにオンライン処理における負荷が増加

 時間的に近くて誤っているプローブの事象は,離れて誤っているプローブよりも反応 

時間が長くかかる←状況モデルがより強固に統合するには,文の表象を乗り越えなけれ 

ばならない

 

結論

文理解における事象に関する知識の中の時間的方位と時間的距離の影響を示した.

バックグラウンドの知識が状況モデルを構成するために,時間の副詞,時制,アスペクトのような他の時間表現とかかわっているのかどうか,そしていかにかかわっているのかという問題が残されている.