02/05/01 Brown Bag Seminar 文献紹介        教育学研究科M1 米田英嗣

Memory & Cognition 2000. 28(6). 1022-1028

The presence of an event in the narrated situation

affects its availability to the comprehender

 

ROLF A. ZWAAN and CAROL J. MADDEN

And

SHANNON N. WHITTEN

 

研究背景

 物語理解研究における一般的な仮説によれば,理解者(comprehender)は,テキストに記述された状況(situation)に影響を受けている.現実の状況から記述された状況へ移行することを,deictic shiftと呼ぶ(Duchan, Bruder, & Hewitt, 1995; MacWhinney, 1999)

 

Macdonald & Just(1989)の研究

   Mary baked cookies and cake.

   Mary baked cookies but no cake.

 両文とも単語の出現頻度は同じにかかわらず,cakeの反応潜時は上の文の方が短い.

Rinck & Bower(1995)らの研究

登場人物に近い対象(object)をコード化する記憶ノードは,登場人物から離れた対象をコード化するノードよりも活性化される.

Lutz & Radvansky(1997)らの研究

物語の状況において,いまだ活性化している登場人物の目標(goal)は,目標が達成されてもはや活性化していない登場人物の目標よりも,目標に関連した句(phrase)の反応潜時が短い.

Zwann(1996)らの研究

物語の状況において現在進行中の事象(event)は,進行中ではない事象よりもアクセスしやすい.

 

 以上のような知見を拡張するのが,本研究の目的.

 Gernsbacher(1990)の用語による,言語標識(linguistic markers) の例として,「時間の推移(time shifts)」―たとえば a week later―を指示している「時の副詞類」(time adverbials)がある.これが,理解する際に手がかりとなる.理解者は,入ってくる情報を現在の表象のなかにマッピングするのをやめ,あらたな下位構造へと移行するからである.移行の結果として,以前の文脈に関連した情報にアクセスしにくくなる.

 

実験1

目的

   時間的な不連続性(temporal discontinuities)に注目して「時間の推移」の問題を考

   察する.

方法

被験者 42人の学部学生.全員英語のネイティブスピーカ.

材料 36対の文とそれに続くプローブ語(APPENDIX参照)

   最初の文には,登場人物がある行為をしているか,やめたかが書かれている(たとえ

   ばWayne was/stopped watching a football game.)

   二番目の文には,時間の経過のあとに起こったもう一つの事象が書かれている(たと

   えばA moment later/an hour later/after an hour, he made a sandwitch.)

   最初の文に出てきた動詞がプローブ語(この場合はWATCHING)

計画 2(was/stopped)×3(moment later/hour later/after hour)の被験者内要因

手続き 教示はコンピュータスクリーンに表示

    被験者は対になった文を読み,プローブ語が2つの文のどちらかにあったかどう

    かを判断するよう説明をうける.

    再認の潜時と正確さをとる

結果

   不連続性(was vs. stopped)の主効果が有意

   時間の推移の主効果が被験者間には有意傾向 項目間には有意差なし

   両者の交互作用がみられる

   表1を参照

考察

   deictic shift仮説を部分的に支持

   1時間経って事象が状況のなかになくなると,事象が不活性化

   時間が経っても事象が継続していれば,不活性化は起こらなかった

   つまり,時間の推移の存在自体は不活性化をみちびかなかった

 

実験2A

目的

   実験1では,不連続性が事象を不活性化するということを明確に支持できなかった

   Tom was playing the piano. When his mother entered, he

   stopped/continued/resumed.のような対になった文を呈示.

   活動を示す動詞の反応潜時はstopped条件よりもresumed条件の場合のほうが速

   いであろう.

方法

被験者 48人の学部学生.全員英語のネイティブスピーカ

材料 36対の文とそれに続くプローブ語(APPENDIX参照)

   最初の文では,登場人物がある活動をしている(Mary was walking in the park. )

   二番目の文では,登場人物の別の活動が干渉し,最初の活動をやめたり,続

   けたり,再開する(When her friends drove by, she waved and

   stopped/continued/resumed.)

   最初の文に出てきた動詞がプローブ語(この場合はWALKING)

計画 3条件の被験者内要因

手続き 実験1に準じる

    再認の潜時と正確さだけでなく,それぞれの文の読解時間もとる

結果

   表2を参照

   再認の潜時において条件間に主効果

   再認の潜時は,stopped条件よりもcontinued条件のほうが有意に短い

   しかし,stopped条件よりもresumed条件よりも短い,とはいえなかった.

   有意ではないものの予想と逆

考察

   stopped条件よりもcontinued条件のほうがアクセスしやすいというのは,deictic

   shift仮説を支持

   干渉が入っても不連続な事象よりも進行中の事象のほうがアクセスしやすいことか

   ら,実験1の結果より頑健

   stopped条件とresumed条件に差がみられなかったのは,プローブの呈示時間の問

   題.つまり,あまり短すぎると,stoppedからresumedに修正できない.

 

実験2B

方法

被験者 63人の学部学生.全員英語のネイティブスピーカ

材料と計画 実験2Aと同じ(APPENDIX参照)

手続き 実験1に準じるが,プローブの呈示時間を,250 msecから1000 msecに変更

結果

   表2を参照

   再認の潜時において条件間に主効果

   再認の潜時は,stopped条件よりもcontinued条件のほうが有意に短い

   そして,stopped条件よりもresumed条件よりも有意に短い

考察

   これらの結果はdeictic shift仮説を支持

   理解者は,活動が一瞬とまったという干渉を不活性化するのに時間が必要

   状況のなかで再開した活動は,事象が不連続であるstopped条件と比較して事象

   のプローブの再認を促進する

 

全体的考察

事象の時間的な枠組みが,物語中の時間の推移(time shift)によって理解者の表象にアクセスしやすさに影響をあたえることがわかった.

読者が物語を理解する際に,自分がいま読んでいる状況の「なかに」自分自身をおいて理解している.

今後最優先の研究課題は,理解者が物語的状況のなかにどの程度まで入り込んでいるの

 かをさぐることである.