Fuzzy-Trace Theory: Memory

Brainerd. C. J.

 

はじめに

ファジートレイス理論とは・・・記憶の符号化時,検索時において,要約的痕跡,逐語的痕跡,という2つを想定して,さまざまな現象を説明する理論.

 

認知心理学における2つの研究

a より高次の推論に役立つ基本的なプロセスや能力(注意,抑制,記憶)に関する研究.

b より高次の推論技術(意思決定,演繹推論,問題解決)そのものに関する研究.

・この2つの研究における理論は,どちらか片方に特定される.

・この2つの研究における実験パラダイムは,どちらか片方に特定される(自由再生,プライミング課題 vs. 数学の問題,医学に関する意思決定)

・この2つは深いレベルで共通したものである.

・ファジートレイス理論はこの2つに共通する説明をするための理論である.

 

ファジートレイス理論における3つの研究タイプ

・記憶は前述した2つの領域の架け橋となり,これら2つの理論付けにふさわしい.

1 記憶内容と推論の正確さの間のオンライン,もしくは発達的な関係についての研究.

2 推論そのものに関する研究.

3 推論に役立つ記憶という側面からみた記憶そのものに関する研究.

3つ目の記憶の側面から見た推論と記憶の関係についての研究を行なう.

 

記憶の側面から見たファジートレイス理論の3つのステップ

1 記憶全般を扱うのは難しいため,虚記憶に焦点を当てる.

2 虚記憶を説明するために使われるファジートレイス理論についての5つの原則を述べる.

3 実験による効果を述べる.

 

虚記憶に関する研究

・記憶の中でも”虚記憶”について研究され始めたのは1990年代以降(1)

10個の例における共通点・・・誤った記憶は被験者の経験の要約と関係している.

・幅広い虚記憶に関する問題をファジートレイス理論における5つの原則で説明する.

 

5つの原則(図2)

・通常二重処理理論といわれているが実際は相対処理理論と呼ぶほうが正しい.

・虚記憶の影響を調べ,そういった影響を予測するための理論.

1 平行貯蔵・・・逐語的痕跡と要約的痕跡が平行して貯蔵される.

2 分離検索・・・検索する際,逐語的痕跡,要約的痕跡,それぞれから検索される.

3 相反的判断・・・逐語記憶も要約記憶も,経験した出来事を元に貯蔵され,お互いが相補的であるが,保持時にそれぞれが正反対の影響を与える.

4 異なる時間経過・・・逐語的記憶痕跡は要約的記憶痕跡に比べて早く減少する.

5 発達可変性・・・逐語記憶も要約記憶も成人と幼児期の間に差がある.

 

偽りの記憶の予測的規制

・ソースモニタリング・・・単一処理理論,検索過程に重点を置く.

・構成主義・・・単一処理理論,符号化過程に重点を置く.

・ファジートレイス理論・・・二重処理理論,符号化時と検索時の両方に重点を置く.

5つの点から以前の理論とは対照的な理論を提唱する.

 

1 正しい記憶と偽りの記憶の分離

2 偽りの記憶の持続性

3単純記憶課題における偽りの記憶の創造

4 意味的なFAや妨害の発達による増加

5 偽りの記憶とターゲットの反復学習の間における逆U字型

 

1 正しい記憶と偽りの記憶の分離 について

・正しい記憶と偽りの記憶は共通した表象メカニズムもしくは検索メカニズムが基盤となっているという考えが主流だった.

・正しい記憶・・・逐語的痕跡と要約的痕跡の両方が関与している.

・偽りの記憶・・・要約的痕跡のみが関与している.

・図4・・・短い物語を聞いた後,その物語に関する再認判断.

 学習した文章について(正しい記憶)

 学習した内容ではあるが学習していない文章について(偽りの記憶に関するFA)

 学習した内容ではない文章について(反応バイアスに関するFA)

 横軸・・・偽りの記憶に関するFAの条件付ではない確率.

 縦軸・・・偽りの記憶に関するFAの条件付確率.

 単一処理理論が正しければ,図のpositive dependancy にプロットされるはずである.

・図5・・・物語について,文字だけ呈示する条件と文字と絵を呈示する条件の再認率の比較.

 正答について・・・文字だけより文字と絵のほうが正答率が高い.

 FAについて・・・文字と絵より文字だけのほうがFA率が高い.

 

2 偽りの記憶の持続性 について

・多くの実験によって,時間経過に伴って正しい記憶が減少し,FAは変化しないことが示されている.

 

3単純記憶課題における偽りの記憶の創造 について

・図6・・・学習時の呈示回数(1low vs. 3high) × テスト回数(1週間後のみ vs. 直後と1週間後の2) × テスト時のディストラクタの質(カテゴリ名 vs. 同カテゴリにおける違うもの)

学習時・・・ダイアモンド,テーブル,ブナ,コリー

テスト時ディストラクタカテゴリ名・・・ダイアモンドの代わりに宝石,テーブルの代わりに家具.

テスト時ディストラクタ同カテゴリ・・・ダイアモンドの代わりにルビー,コリーの代わりにプードル.

テスト項目に示唆性がなくとも,2回のテストによって1回のテストの時よりもFA率はあがる.

 

4 意味的なFAや妨害の発達による増加 について

・図7・・・正答率だけでなくFA率も加齢に伴い増加.

逐語的記憶容量が加齢とともに発達するとともに,要約的記憶というストラテジーも加齢とともに使用する頻度が高まる.

 

5 偽りの記憶とターゲットの反復学習の間における逆U字型 について

     8・・・学習時呈示回数(実験1: 1回,5回,10回 実験2: 1回,5回,20)

それぞれの回数におけるDeeseタイプの項目の虚再認率.

再認正答率は回数増加に伴って増加するのに対し,FA率は逆U字型.