BBS 2003/1/22 D2 松田 憲
SUBLIMINAL MERE EXPOSURE:
Specific, General, and Diffuse Effects
Jennifer L. Monahan, Sheila T. Murphy, and R.B. Zajonc
Psychological Science, Vol. 11, No. 6, November 2000
要約
本研究では,反復効果の特定性効果と同時に一般化効果および拡散効果を検討した.実験1では,被験者は25の刺激を1回ずつ(1回呈示条件)または5つの刺激を5回ずつ(反復呈示条件),5ms呈示された.反復呈示条件の被験者は1回呈示条件よりも自分の気分をよりポジティブに評価した.実験2では閾下反復呈示によって生じた感情が無関係な刺激に転移するかを検討した.閾下反復呈示後に以前に呈示した刺激,似ているが新奇な刺激,異なるカテゴリーからの新奇刺激に対する感情評価を行った.以前に呈示された刺激が最もポジティブに評価され,新奇な異なる刺激への評価が最も低かった.全ての刺激において,反復呈示条件のほうが1回提示条件のものよりもよりポジティブに評価された.これらの知見は,閾下反復呈示によって生じた感情は無関連刺激への評価と気分にも拡散することを示唆している.
問題
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単純接触効果の論文は200を超えているにも関わらず,反復呈示によって刺激への好意度が上昇する過程や,生じた好意度の性質は十分に明らかにされていない.
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特定の刺激に対する好意度における反復呈示の効果はよく論文に記述されているが,その拡散効果についてはほとんど記述されていない.
○Gordon &
Holyoak(1983)の実験:
反復呈示による好意度の上昇は,以前に呈示された刺激のみでなく,類似した刺激にも同様に見られた.
‥反復呈示によって生じたポジティブな感情は,呈示刺激に物理的,構造的に類似した新奇刺激に一般化される?
もし類似した新奇刺激に一般化されるのであれば,全くの無関連刺激にも拡散するであろうか?
○Murphy, Monahan,
& Zajonc(1995)の実験:
反復呈示によって生じた感情が,別のソース(幸福顔と怒り顔の閾下呈示)から生じた感情に加算的に影響した.
‥反復呈示が気分の状態を上げ,上昇した気分が周囲のものに結びついた?
○ある特定の刺激に対して好意的な感情が生じると,気分全体もまた高揚する.
‥楽しい映画を見た帰り道は,その特定の映画に対するポジティブな感情が生じているだけでなく,気分全体が高揚する.
実験1
新奇刺激の閾下反復呈示は,被験者の気分状態を高めるかを検討する.
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被験者は25種の刺激を1回ずつ,または5種の刺激を5回ずつ,閾下呈示(5ms)される.
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刺激呈示後に,被験者の全体的な気分の状態を査定する.
方法
被験者
大学生74名(約半数が女性.反復呈示条件36名,1回呈示条件38名).中国語,日本語,韓国語に対する知識は無し.
材料と装置
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スライドプロジェクター2台
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中国語の表意文字.個性が無く,新奇で,多義的なものを選択(Murphy &
Zajonc, 1993; Niedenthan, 1988).
手続き
呈示フェイズ
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反復呈示条件では,5種の文字が5回ずつランダムに,1回呈示条件では25種の文字がそれぞれ1回ずつ5ms呈示され,直後にマスク刺激を1s挿入.
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被験者には,何も見えなくても画面のフラッシュを見るよう教示.
気分評定フェイズ
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最初に,現在の気分を5枚の顔写真(Faigin, 1990;1:真顔~5:笑顔)から選択することで評定.
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次に,現在の2種類の気分を5件法(1:悲しい~5:幸せ;1:抑圧~5:快活)で評定.
結果
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反復呈示条件(M=2.75)は1回呈示条件(M=2.26)に比べてよりポジティブな顔を現在の気分として選択した(t(72) = 2.05, p<.05).
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2つの気分の評定も同様の結果.
‥幸せ-悲しい尺度:反復呈示条件(3.67)と1回呈示条件(3.21)の間の差が有意
(t(72) = 2.41, p =.02).
‥快活-抑圧尺度:反復呈示条件(3.61)と1回呈示条件(3.24)の間の差が有意
(t(72) = 1.71, p =.09).
考察
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反復呈示は,閾下の場合でも,加算的でより拡散的な効果を引き起こす.
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反復呈示条件のほうが,1回呈示条件と比較して,自分自身をよりポジティブな気分であると評定.
→刺激の閾下反復呈示は,それ自体で感情状態を高めるのに十分なものである.
実験2
閾下反復呈示によって生じたポジティブな感情が,特定の効果(気分に影響する)のみを持ちうるのかどうかを検討する,また,その拡散効果によって,無関連な刺激にさえも効果を及ぼすのかどうかも併せて検討する.
方法
要因計画
2(呈示回数:1回,反復)×2(呈示刺激:文字,多角形)×3(テスト刺激:旧,新奇類似,新奇相違)の混合計画.テスト刺激条件が被験者内,呈示回数条件と呈示刺激条件が被験者内.
統制群は,事前の刺激呈示無しに実験群と同一の刺激を評定.実験群と統制群のデータは別々に分析.
被験者
大学生205名(約半数が女性.反復呈示条件75名,1回呈示条件74名,統制群55名).中国語,日本語,韓国語に対する知識は無し.
材料と装置
実験1の呈示フェイズで用いたものと同一.
手続き
呈示フェイズ
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方向付け課題は新旧判断の速さの測定.
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被験者には,刺激の呈示時間はとても短い(5ms)ので何が書いてあるかわからなくても画面のフラッシュを見るよう教示.
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刺激呈示の1秒前にはビープ音で被験者に警告.
評定フェイズ
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テスト刺激の呈示時間は各1s.
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被験者は15種のテスト刺激(旧,新奇類似,新奇相違の各条件に5種類ずつ)に対する好意度評定(1:全然好きじゃない~5:すごく好き).
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約半数の被験者に対して文字,もう半数の被験者に対して多角形を提示.
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呈示刺激をA,Bの2セットに分け,片方が旧刺激,もう片方が新奇類似刺激.呈示されなかった刺激が新奇相違刺激.
結果
文字,多角形ともに,セットA,B間に差は無し.また,呈示刺激間にも差は無し.
呈示回数の効果
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反復呈示条件の被験者は,1回呈示条件の被験者ないし統制群と比べてよりポジティブに評定(F(2, 202) = 11.07,
p < .001, η2 = .10).
・
各テスト刺激においても同様(旧刺激:F(2, 204) = 12.81,
p < .001;新奇類似刺激:F(2, 203) = 4.47, p
< .01;新奇相違刺激:F(2, 203) = 3.50, p
< .025).
テスト刺激の効果
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統制群を除いたテスト刺激の主効果が有意(F(2, 292) = 15.29,
p < .001, η2 = .10).
・
両呈示回数条件において,新奇相違刺激(M=2.56)は,新奇類似刺激(M=2.94, t(151)
= 3.24, p<.01)および旧刺激(M=3.03, t(151)
= 4.84, p<.001)ほど好まれない.
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旧-新奇類似条件間に差は無し.
→実質的な一般化効果
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1回呈示の新奇相違を除く全ての評定値が,統制群を上回る.
総合考察
得られた知見
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5種の刺激反復呈示条件は,25種の1回呈示条件に比べて,自分自身をより良い気分であると評価(実験1).
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反復呈示によって生じたポジティブ感情は,オリジナルのソース刺激から,類似した新奇刺激,さらには関連の無い極めて異なった刺激に対しても拡散(実験2).
→反復呈示によるポジティブ感情の獲得には,警戒と緊張の減少が関与している.
単純接触効果にはたす気分の役割
○反復呈示は,再認がチャンスレベルの状況下において好意度を上昇させる(Kunst-Wilson & Zajonc,
1980; Wilson, 1979).
○再認の正確性と単純接触効果の強度は負の相関(Bornstein, 1989).
→閾下呈示は,認知的相関物の形成が最小であり,意識の関与する閾上と比べて効果の汚染が少ない.
→単純接触効果は,少なくとも部分的には,不特定のままの感情のソースに依存している.
○2つのソース(幸せ顔,怒り顔によるプライミングと単純接触)から生じる感情は,両者が閾下で与えられたときにのみ,加算される(Murphy, Monahan,
& Zajonc, 1995).
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顔のプライミングは最適な呈示時間では効果が減少する一方で,反復呈示は呈示時間の影響を受けない.
→意識を介在するソースとしないソースの違い.
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被験者は文字評定前に顔刺激を最適な時間での呈示には慎重になるが,反復呈示にはその様な疑いを持たない.
→一般的に被験者は反復呈示と好意度の関係には気付かず,ポジティブな感情が呈示刺激に,さらには無関連刺激に拡散している.
知覚的流暢性説との不一致
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知覚的流暢性説でも,類似した新奇刺激への好意度の上昇は説明可能であるが,実験2で見られたような無関連刺激に対する好意度の上昇が説明できない.
→反復呈示によって生じたポジティブ感情は,ソース刺激に特定されるものではなく,無関連で非類似の刺激にも般化しうる.
→知覚的流暢性は反復呈示に伴う好意度の上昇の十分条件であるが,必要条件ではない.
親近性の関与の可能性について
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以前の接触は知覚者が主観的に刺激を経験する観点を変化させ,ぼんやりとした親近感を感じさせる.そしてそれが好意度に誤帰属される(Smith, 1998).
→実験1の結果から,Murphy &
Zajonc(1993)やMurphy, Monahan,
& Zajonc(1995)で繰り返し示されるように,気分状態の高揚は反復呈示の効力によるもので,この効果は主観的な親近性を必要としない.
脳研究による証明
○Whalen et al.(1998)の実験:
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閾下で笑顔と恐怖顔を呈示し,fMRIで脳活動を測定.
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恐怖顔への反応で偏桃体が活性化され,笑顔への反応では活動が抑制.
→感情的反応は刺激への知識無しでも生じうる.
○Elliott &
Dolan(1998)によるPETを用いたKunst-Wilson
& Zajonc(1980)の追試
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再認判断では左前頭部および頭頂部が活性化するのに対し,好意度判断では右後側頭部が活性化.
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被験者は新旧刺激の区別が出来ず,先行刺激への主観的親近感の徴候も見られず.
‥‥知覚的流暢性や親近性の誤帰属は,単純接触効果の十分な理論的説明たり得ない.
系統発生的見解
○反復呈示による気分の高揚は進化論的観点から見ても有意義である.
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子の刻印付けは介護者からはぐれて危険にさらされることを防ぐ.
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繰り返される無害な刺激への好意は,新奇で潜在的に危険な刺激への警戒と対比して,生涯を通じてより適応的である.
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反復呈示の処理は,文化的慣例の内面化と文化的産物における感情的賦与に,重要な役割を担う.
‥‥反復呈示に起因するポジティブ感情の増進は,有機体の物質的,社会的環境への適応のより根源的な要素を説明するかもしれない.