BBS 2002.9.4 D2 松田憲
Semantic Context Effect and
Priming in Word Association
Rene Zeelenberg, Diane Pecher, Richard M. Shiffrin, Jeroen G. W. Raaijmakers
Psychonomic Bulletin & Review (in press)
要約
2つの実験で語彙連想課題におけるプライミングを調べた.実験1の学習フェイズでは意味的に多義的なターゲット語を,解釈を片寄らせる文章の中に呈示した.ターゲット語の適切な解釈は,後の語彙連想課題における手がかり語と一致するものとしないものがあった.プライミング効果は一致条件では得られたが,不一致条件では得られなかった.実験2では,学習文は特に一義語の意味的側面を強調した.語彙連想課題は,ターゲット語学習時により一致した文章文脈の場合に,一致していない場合に比べて,高い割合のターゲット選択が見られた.これらの結果は,語彙連想課題におけるプライミング効果が手がかりとターゲットの関係の情報の保持に大きく依存することを示している.
語彙連想課題(自由連想課題)
・学習フェイズ…連想語の組の一方(例えばSAND)をターゲット語として呈示.
・テストフェイズ…もう一方の語(例えばBEACH)を手がかり語として呈示し,被験者は最初に心に浮かんだ語を答える.
○多くの研究で,被験者がターゲット語をより多く答えることが明らかにされている.
語彙連想課題におけるプライミング効果の生起要因に関する先行研究
○Zeelenberg,
Shiffrin, & Raaijmakers(1999)による2つの仮説
第1の仮説:ターゲット強度説
・先行するターゲット語の学習が,ターゲット語に対する反応強度や接近可能性を高める.
例えば…ターゲット語(SAND)の先行学習が(閾値を下げるか活性レベルを上げることで)その記憶表象を強化し,手がかり語(BEACH)に対する反応としてターゲット語が生起しやすくなる.
第2の仮説:連想強度説
・語彙連想課題におけるプライミング効果は,手がかりとターゲットの関係の情報の保持に依存する.
→被験者はターゲット語の学習の最中に手がかり-ターゲットの組を生成し,その結果手がかり-ターゲットの連想が強化される(Humphreys, Bain,
& Pike, 1989).
例えば…学習フェイズでSANDが呈示されると,被験者は時としてBEACHを思い浮かべ,BEACH-SANDの連合が記憶される.その連合が,後の語彙生成課題で手がかり語BEACHに対するターゲット語SANDの生成率が高まる.
・Humphreys, et al.は,手がかり語はターゲット語学習時に思い起こされることを強調.
↓もう1つの可能性
・手がかりとターゲットの連合強度は,手がかりとターゲットによって共有された意味的特徴の強度ないし数に依存する.
Zeelenberg,
Shiffrin, & Raaijmakers(1999)の実験:双方向と一方向の連想語組の比較
○双方向と一方向の連想語の組(Nelson, McEvoy, & Schreiber, 1998)
・双方向の連想語の組(例えばBEACH-SAND):BEACHからはSANDが,SANDからはBEACHが連想可能である.
・一方向の連想語の組(例えばBONE-DOG):BONEはDOGを連想させるが,DOGからBONEは連想されない.
→ターゲットから手がかりへの連想が行われないので,被験者はターゲット語学習中に手がかり語を思い起こすことはない?
→手がかり-ターゲット間の共通特徴はターゲット学習時に記憶されないので,手がかりとターゲットの連合強度における属性プライミングは一方向の連想語組間では生じない?
○実験結果:双方向組で生じたプライミングが,一方向組では生じない.ターゲット語DOGの先行学習は,後の語彙連想課題において手がかり語BONEによって生成されない.
今回の実験
○目的
・語彙連想におけるプライミングに,手がかり-ターゲットの連合強度が主要な役割を担うことを示す.
・Zeelenberg, et
al.(1999)とは異なる条件操作で,同様の証拠を得ることを目指す.
○結果の予測
・単語の意味的解釈とその後のほかの単語との関係は,その単語が与えられた文脈に依存する(例えばBarsalou, 1993など).
→学習フェイズにおいて,もしターゲット語が後の手がかり語と無関係な意味的解釈を強調するような文脈で呈示されたら,手がかり-ターゲットの連合情報は保持されずに,手がかり-ターゲットの連合強度の属性プライミングは得られないだろう.
→一方で,もしターゲット語が手がかり語と一致する文脈で呈示されたら,プライミングは検出されるだろう.
○今回の研究が先行研究よりも優れている点
・学習時のターゲット語の文脈を操作することで,全ての条件において同一のターゲット語と手がかり語を用いることが出来る.
←先行研究では単語間の連想方向性を操作していたために,同じ刺激を使えない.
実験1
ターゲット語に多義語を用いる.
○学習フェイズでは,多義語中の1つの意味に片寄らせる文脈の文章でターゲット語(例えばORGAN)を呈示.
…ターゲット語の意味的解釈には,テスト時における手がかり語(例えばPIANO)と一致するものと一致しないものがある.
・一致する文章:「教会でケビンはORGANで賛美歌を弾いた」
・一致しない文章:「肝臓は人体にとって重要なORGANである」
↑
手がかり語がDONORの場合は逆になる.
方法
被験者 大学生60名.全員英語が母国語.
刺激材料
・Nelson, et al.(1998)より48セット(ターゲット1,手がかり語2).刺激文章は全96.
・フィラーを学習フェイズに18文,テストフェイズに32語挿入.
・多義語の意味の使用頻度(Twilley, Dixon, Taylor, & Clark, 1994)のうち,最も高い2つの平均は.545(SD=.11)で,それ以外の平均は.294(SD=.10).
・手がかり語-ターゲット語の組は双方向性連合.手がかり語→ターゲット語は.15(SD=.18),ターゲット語→手がかり語は.14(SD=.14).
デザイン 一致,不一致,未学習の3水準(被験者内).被験者ごとにカウンターバランス.
手続き
学習フェイズ,妨害課題,テストフェイズの3段階構成.カバーストーリーは「今後の調査のための単語収集」
○学習フェイズ
・偶発学習課題として,文章内のターゲット語の語幹完成課題.
→語幹完成課題は,被験者が実際に意図して意味的解釈を行うことが保証されている.
・ターゲット語は大文字の頭文字と点4つだけがで記されている.例えば「ORGAN」の場合は「O....」.
・被験者には,呈示文が意味の通る文になるよう単語を完成させることを要求.
・解答後,正しい単語(ターゲット語)を文章の下に5秒間呈示.
○テストフェイズ
・7分間の妨害課題を挟んで,ターゲット語に対する語彙連想課題.
・手がかり語は1語ずつスクリーンに呈示され,被験者は最初に思い付いた関連語を1語だけ記入.解答は被験者ペースだが,あまり長く考えないよう教示.
結果と考察
学習フェイズにおける語幹完成課題の全体の83%がターゲット語を解答.
・文脈一致度条件の主効果が有意(F(2, 108)=8.02, p <
.001, MSE=1.715).
・一致-未学習間の差(M=5.6%)が有意(F(1, 108)=14.17, p <
.001, MSE=1.715).
・不一致-未学習間の差(M=1.0%)が有意差なし(F(1, 108) < 1, MSE=1.715).
↓
○ターゲット語へのプライミング効果は,一致条件のみで見られた.
→語彙連想課題におけるプライミング効果は,手がかりとターゲットの関係の情報の保持に大きく依存する.
○ターゲット語自体の強度が関わる可能性が棄却されたわけではない.
・表象は語彙と意味的ないし概念的なレベルとに区別される.
・多義語は語彙レベルの表象であり,意味的レベルではない.
→語彙連想におけるプライミングが表象の意味的レベルの強度の影響を受けることを示す必要がある.
実験2
ターゲット語に一義語を用いる.
○文章の異なる文脈で,ターゲット語(例えばBEACH)の異なる側面を強調する.
…学習フェイズにおいて,後続の手がかり語(例えばSUN)とより一致する文脈と,より一致しない文脈で操作.
・より一致する文脈:「彼はBEACHでの暖かな日の後に,きれいに日焼けをした」
・より一致しない文脈:「子供はBEACHでスコップとバケツを使って遊ぶのが好きだ」
↑
手がかり語が「SAND」なら逆になる.
→ターゲット語の分離した表象は全て意味的側面であるので,ターゲット強度説での説明は困難.
方法
被験者 大学生64名.全員英語が母国語.
刺激材料
・Nelson, et al.(1998)より46セット.(ターゲットが1,手がかり語が2).刺激文章は全92.
・手がかり語-ターゲット語の組は双方向性連合.手がかり語→ターゲット語は.13(SD=.14),ターゲット語→手がかり語は.14(SD=.14).
・一義語は多義語と比較して文脈の効果が小さいので,ここでは未学習条件を設定せずに,素データでの分析を行った.
手続き ターゲットが一義語で,文脈操作が一致度の度合いになった以外は実験1とほぼ同じ.
結果と考察
学習フェイズにおける語幹完成課題の全体の88%がターゲット語を解答.
・文脈一致度条件の主効果が有意(F(2, 60)=9.72, p <
.01, MSE=1.98).
↑
○ターゲット語は,より一致する文脈(M=20.6%)のほうが,より一致しない文脈(M=17.4%)と比べて多く回答された.
→語彙連想課題におけるプライミング効果が関係情報の保持の効果が今度こそ示された.
総合考察
○研究の目的
・意味的文脈の,語彙連想におけるプライミング効果に及ぼす影響の検討.
○得られた結果
・多義語のターゲットを,後続する手がかり語と一致する意味的解釈に片寄らせた文章で与えた場合においてのみ,プライミング効果が検出(実験1).
・一義語においても語彙連想課題は文脈の効果を受け,手がかり語とより一致する文脈で与えられたターゲット語は,そうでない場合と比べて多く回答された(実験2).
→これらの結果はターゲット語の強度の視点からの説明は困難であり,語彙連想課題におけるプライミング効果が手がかり-ターゲットの関係の情報の保持に大きく依存することを示すものであると言える.
顕在的な検索方略による,潜在記憶課題の汚染の可能性
以下の4つの点で,今回の結果がそのような汚染を受けていないことが示される.
○その1:健忘症患者における実験的証拠
・手がかり再生のような顕在記憶課題に困難を生じる健忘症患者でも,語彙連想によるプライミングは損なわれない(Shimamura & Spuire, 1984など).
○その2:実験後のアンケート調査
・健常者でも語彙連想課題ではテストに対する気付きは比較的低い(Mulligan, 1998).
○その3:顕在記憶課題と語彙連想課題との分離
・手がかり再生において見られる画像優位性効果が,語彙連想課題では見られない(Weldon & Coyote, 1996).
○その4:今回の実験デザイン
・先行研究と比較して,本研究では長い刺激リスト,多くのフィラー,長い妨害課題を用いた.
・手がかり語として,低い連想価の語を用いた.
カテゴリーの範例呈示によるプライミング
○Mulligan, Guyer, & Beland(1999),Rappold & Hashtroudi(1991)の実験
・範例呈示によるプライミングは,学習時に範例がカテゴリー化されて呈示(例えばSOFTBALL,SKING,BOXING,VOLLEBALL,POLO,HUNTING,TABLE,CHAIR)されたほうが,ランダムに呈示(例えばSOFTBALL,TABLE,APPLE,BOAT,TIGER,SKING,BANANA,CHAIR)されるよりも,顕著に表れる.
→被験者は,単語の文脈が同一カテゴリーから呈示された場合に,異なるいくつかのカテゴリーから呈示される場合よりも,カテゴリー手がかりとターゲット語をより強く結びつける傾向にある.
転移適切処理説(Transfar-Appropriate-Processing)による議論
○TAPのフレームワーク
・記憶パフォーマンスとプライミングの上昇は,学習-テスト間の処理の重複に依存.
・記憶課題は知覚的なもの(呈示刺激の物理的特性を処理)と概念的なもの(意味的特性を処理)に分離される.
○語彙連想課題の位置付け
・概念プライミング課題として見る立場(例えばRoediger &
McDermott, 1993)と,語彙レベルの処理に依存すると見る立場(例えばShelton & Martin, 1992)がある.
○語彙連想課題への概念的処理の関与を否定する先行研究
・Weldon & Coyote(1996):カテゴリーの範例呈示で見られなかった処理水準効果が,語彙連想では見られた.
・Vaidya et al.(1997):処理水準効果は手がかり語-ターゲット語の結びつきが弱い場合のみで得られ,強い場合では得られなかった.また,語彙連想課題における生成効果も得られなかった.
○今回の実験
・学習時の意味的文脈が語彙連想課題に重要な役割を果たす結果に.
→語彙連想課題への概念的処理の関与を肯定.
→先行研究で処理水準効果や生成効果が得られなかったのは,そこでの実験操作が手がかり-ターゲットの関係の符号化を促進することが出来なかったから?
・単語完成課題や文字置換課題のような,手がかり-ターゲット間関係の符号化を促進しない課題では生成効果は得られず,学習時に与えられるターゲット語のカテゴリー構造が顕著な場合のみに得られる(Mulligan, in
press).
・実験1の不一致条件では,学習時に生成課題を課しているものの,プライミングは得られていない.
→プライミングにおける生成効果は,手がかり-ターゲット間関係情報が保持されているときのみに生じる.
共有された意味的特徴の検討
○手がかり-ターゲットの連想強度促進の原因に関する仮説.
・仮説1:被験者がターゲット語の学習の最中に手がかり語を連想し,その結果手がかり-ターゲット間連合が強化される(Humphreys, et
al., 1989).
・仮説2:手がかり-ターゲットの連合強度は,手がかりとターゲットによって共有された意味的特徴によって強化される(Zeelenberg, 1998).
○ある特徴が獲得されたり注意を向けられる程度は各特徴ごとに異なり,単語が呈示されたときの文脈に依存する(Barsalou, 1993など).
・手がかり-ターゲットの類似度を高めることで共有特徴強度は増進され,語彙連想課題でターゲット語が連想される可能性が高まる.
・後続手がかりと一致する文脈でのターゲット呈示によって,ターゲットの意味的特徴の部分集合が保持され,それらの多くは語彙連想課題における手がかり語の特徴を共有する.
・不一致文脈では共通した意味的特徴は保持されず,手がかり語-ターゲット語間の関係とは無関係の特徴が保持される.
→一致文では,不一致文と比べて,多くのターゲット語が連想された(実験1).
→より一致する文脈では,より一致しない文脈より多くのターゲット語が連想された(実験2).
○今回の実験デザインからは,仮説1,2ともに似たような結果予測が可能であり,どちらか一方を棄却することは出来ない.
→他の概念プライミング課題によって得られた結果は,おそらく特徴ベースプライミングの説明に適用可能であろう.
○意味的分類課題において,反復プライミングは課題のタイプに影響を受ける(Vriezen,
Moscovitch, & Bellos, 1995).
・学習-テスト間で同じ課題で単語が与えられた場合のみで反復プライミングが生じる(実験1).
・課題が異なっても,与えられる情報のタイプが同じなら反復プライミングが生じる(実験6).
→概念プライミングは,単語への接近可能性の増加によるものではなく,意味的側面に依存するものである.
…プライミングは,テスト時の手がかりと課題要求が,学習時に保持されたターゲット語の意味的情報と適合するときに,もっとも顕著に現れる.