02/06/26 Brown Bag Seminar 文献紹介 M1 米田英嗣
Memory & Cognition 2001, 29(2), 327-335
Tracking of spatial information
in narratives
WILLIAM H. LEVINE and CELIA M.KLIN
読者がいかに空間情報(spatial information)を理解するかという問題は、位置(location)が物語において中心的な役割をはたすことが多いため重要である
「読者は、状況モデルのなかに空間情報を表象しているのか」という問題について、決定的な答えは出されていない
・ 読者は、空間的な細部に特別に注意を払うよう教示されたから状況モデルの空間性を用
いたのではないか→より自然な読解には一般化できない可能性
Zwaan and van Oostendorp(1993)、Zwaan,Radvansky,Hilliard,and Curiel(1998)、
Hakala(1999)も同様の主張
・ 空間情報は、空間的教示なしでも符号化されている(O’Brien and Albrecht,1992)
→読者はより前の文に表現された設定の情報と一致しない情報に出会ったとき、理解が困難になる
比較的自然な読解条件においても、少なくともベーシックな位置は状況モデルのなかに符号化している
De Vega(1995)の二つの仮説
・ 0nline-updating hypothesis 読者は位置の変化に出会うと、即座に位置情報を更新(update)する
・ backward-updating hypothesis 位置情報を更新することは、登場人物の位置を知ることがテキストの理解に必要であるときにのみ、なされる
Vegaは、位置情報は即座に更新されないと結論→更新は位置情報が理解に必要なときのみ起こる
De Vega(1995)の問題点
位置の変化が短い距離にわたってしか起こっていない題材→登場人物の移動が、理解に必要ない可能性
重要な問題は、読者が状況モデルのなかに位置情報を含んでいるかどうかではなく、何の条件のもとで読者は状況モデルのなかに位置情報を含んでいるのかである
実験1
Vega(1995)を改善(Table1参照)
・ 位置情報が精緻に述べられた
・ 移動文(motion sentences)を注意深く読むことが理解に重要であるということをたしかめるために、登場人物に目標(goal)や目的地(destination location)における活動を与えることで、それぞれの登場人物の移動を物語のなかに含めた
・ Vegaの移行文(shift sentences)は、新しい位置も古い位置も述べられていた。本実験では、古い位置は位置移動文のなかには含まなかった
方法
被験者 SUNY Binghamton communityの68人
題材 短い物語を用いた(Table1参照)
文章は、登場人物と目標の描写、目標が達成される目的地の詳しい描写ではじまった
登場人物がもといた(origin)位置が示され、そこでの活動について書かれた1つか2つの文が続いた
終わりから2番目の文は、移行なし(No-shift)条件、時間移行(Time shift)条件、時間位置移行(Time and location shift)条件の3種類であった
位置についてのプローブが呈示された
計画 実験文を以下の制限のもとにランダムに割り当てた
(1) それぞれの被験者は、3つの条件のそれぞれにおいて文章を1/3ずつ見た
(2) 文章のそれぞれのバージョンは被験者の1/3に呈示した
手続き 文章はビデオモニタに呈示された
文書の後に注視点が500msec呈示され、プローブ語が呈示される
できるだけ速く正確に再認判断
結果と考察
再認潜時 再認潜時は移行なし条件や時間移行条件よりも時間位置移行条件のほうが長かった
・被験者が時間位置移行条件のなかで移行文を読むとき、古い位置を活性化しなくなったり抑制したりする→記憶におけるアクセスビリティを減らす
・しかし、登場人物の以前の場所へのアクセスビリティを減らすのは、位置移行によるのか、時間移行によるのか、両者のコンビネーションによるのかわからない
・筆者らは、時間の変化よりも場所の変化から生じたと考える
エラーの割合 条件にわたって差はみられず
読解時間 条件にわたって差はみられず
実験1の結果は0nline updating hypothesisを支持
実験2
・実験1の一般性を検討
・登場人物の位置が高く精緻化されてはじめて、読者は状況モデルのなかに位置情報を含むのだろうか。あるいはもっと一般的に起こるのだろうか
方法
被験者 SUNY Binghamtonの学部学生50人
題材 実験1の20の文章を改めた
その結果、主人公の位置について精緻化された大部分の部分が取り除かれた
移行なし条件をなくした
計画 実験文を以下の制限のもとにランダムに割り当てた
(1)それぞれの被験者は、2つの条件のそれぞれにおいて文章を半分ずつ見た
(2)文章のそれぞれのバージョンは被験者の半分に呈示した
手続き 実験1と同じ
結果と考察
再認潜時 再認の反応時間は、時間移行条件における登場人物の現在いる位置よりも、時間位置移行条件における登場人物の前にいた位置のほうが長かった(Table2参照)
エラーの割合 エラーの割合は時間位置移行条件より時間移行条件のほうが低かった
この結果は、再認潜時の結果と一致し、登場人物が前にいた場所は、位置移行のあとで記憶へのアクセスビリティが低いことが再び示された
読解時間 文の最後の行における読解時間には、有意な差はみられなかった
位置情報が精緻化されなくとも0nline-updating hypothesisを支持→読者は、さまざまな環境(circumstances)のなかで状況モデルの位置情報を更新している
実験3
登場人物が現在いる位置の優位性が短いものに限るのかどうか、あるいは直前で言及されていないときでさえ状況モデルのなかに維持されているのかを検討した
登場人物の現在いる位置か過去にいた位置かについて名詞句を含んだ文の読解時間を調べた
方法
被験者 SUNY Binghamtonの学部学生30人
題材 3つのバージョンを持った18文を使用(Table3参照)
3つすべてのバージョンは、登場人物の紹介、物語の位置の設定、その位置で起こっている行為(action)の記述で始まる
stay-backgrounded conditon 紹介エピソードが物語の位置で起こっている行為と結びついており、位置に関してはニュートラルであるが文の焦点(focus)を移行する背景を持った2つか3つの文が続く
stay-focused conditon 紹介エピソードが同じ行為と結びついているが、背景を持っていない文
go-backgrounded condition 紹介エピソードが物語の位置を変化させる行為と結びついており、stay-backgrounded conditonと同じ背景を持っている文
計画 実験1と同じ
手続き 実験1と同じ
ただし再認プローブは用いなかった
結果と考察
ターゲットの前の文(Pretarget sentence) ターゲット文の読解時間の違いは、文章の長さやターゲットが出てくる前の文を処理する際の難しさの違いによるものではなかった
ターゲットの行 登場人物の位置は、焦点や背景の変化にかかわらず、stay-backgrounded conditonのもとでアクセスされやすかった
・位置が物語で重要であるとき、即座に更新されいくつかの文のアクセスが維持され、状況モデルが維持される
・登場人物の現在いる位置がわかるターゲット文よりも、登場人物が前にいる場所がわかるターゲット文のほうが処理するのが難しい
全体的考察
・読者が状況モデルのなかの位置情報を含んでいるということは、より一般的なテキストの概念のアクセスビリティに影響を与える可能性がある
・実験1、2より、読者は、特別の課題の要求がなく位置情報へのアクセスがテキストの一貫性(coherence)を維持するのに必要がないときでさえ、位置情報を注意深くたどっていることがわかった
・実験3より、位置情報は記憶の特別な状態を保持しており、明示的に述べられたあとのいくつかの文にもたやすくアクセスすることができることがわかった
・本研究結果は、読者が読解しているあいだにさまざまな状況のインデックスをたどることができるという結果に重要な知見を加える
・読者は、表象を更新する手がかりとして位置の移行を使うことによって、自然な条件のもとでも少なくとも全体の空間的な詳細を符号化することができる
・読者の状況モデルや影響を及ぼしているテキスト変数のなかに、どの位置情報が符号化されるのかという条件を決定することが今後は必要