03/02/04 Brown Bag Seminar 文献紹介 M1 米田英嗣
Journal of Experimental Psychology: General, 2000, 129(1), 61-83
Naomi P. Friedman and Akira Miyake
・読者は,物語を読む際にプロットの因果構造に空間情報を統合する.
・本研究の主な目的は,空間情報,因果情報の処理が,物語を理解する間に独立に起こっているのかを検討することである.
・心的表象が存在している証拠に,テキストの状況の構造が命題の構造をそのまま再現しているわけではない→命題構造は同じでも,状況構造が異なることがある.
・空間情報は,状況モデルの次元においておそらく最もさかんに研究されている.
・状況モデルの複数の次元がいかにして同時に表象されているか検討した研究はほとんどない→ほとんどの研究は,特定の次元のみに焦点
・本研究では,状況モデルの2つの次元―空間的次元,因果的次元がいかにして同時に維持され統合されるのかにを検討
視空間ワーキングメモリ,言語性ワーキングメモリの分離性
・2つのサブシステムが区別される根拠は,実験的研究,相関研究,神経心理学研究,ニューロイメージング研究から支持される(Baddeley & Logie, 1999; Logie, 1995; Smith & Jonides, 1997).
・Shah and Miyake(1996)は,Bddeley(1986)のモデルで仮定される2つの領域特有のサブシステムよりも高次のレベルで言語性―視空間の区別を提案
・ワーキングメモリの理論的枠組みを,状況モデル構築の空間性,因果性の次元を本研究で説明する基盤とする.
状況モデル構築における視空間ワーキングメモリと言語性ワーキングメモリの役割
・ワーキングメモリは状況モデルで生じるギャップや不一致を推論するために,必要な情報の多くのソースを統合して一貫した状況モデルを構築する際に重要な役割を果たす(Carpenter et al., 1994).
・言語性ワーキングメモリは状況モデルの因果的側面の維持,精緻化を行い,視空間ワーキングメモリは状況モデルの空間的側面の維持,精緻化を行う→言語性ワーキングメモリと視空間ワーキングメモリが分離され,状況モデルの空間的次元,因果的次元が互いに影響を与えず独立に処理されるであろうというのが,本研究の仮説
実験1
・実験の目的は,状況モデルの空間的,因果的側面の維持,精緻化の過程が,空間的,因果的情報にそれぞれどのように影響するかを検討することである.
方法
被験者 56人の大学生
題材
・7つのエンティティの位置が記述された4つのテキスト(たとえば2つのオブジェクトと5
人の登場人物)が4つの構造内(大学の建物,並木道,複雑な部屋,美術館)に位置
・登場人物と構造の配置を紹介したあと,空間的情報を統合して登場人物が問題を解決す
る話を記述
・4つのテキストはそれぞれ,空間単純・複雑,因果明示・暗示を組み合わせた.
・因果明示文は63文,因果暗示文は57文
オンラインプローブ
・空間プローブ6つ,因果プローブ6つ,正誤(true-false)判断
・空間プローブと因果プローブのtrueとfalseの数は同じ
・因果プローブは,状況モデルの因果的側面の一貫性を保つために必要な因果推論の速さと正確さを求めた.
題材の事前テスト
・12人の大学生に実施
・因果暗示文で因果プローブの正確さが落ちるのは,因果推論に必要な情報が足りないからではないことを確認
ワーキングメモリ測定
リーディングスパンテスト(Daneman & Carpenter, 1980)と空間スパンテスト(Shah & Miyake, 1996)を,言語性,視空間ワーキングメモリ能力の測定に用いた.
手続き
・個別実験
・被験者に文章を読み,理解し記憶するように教示
・できるだけ速く正確にプローブに反応するよう教示←プローブの正答の中には,文章に明示されておらず,正確に答えるには推測が必要であるものや,推論しなければならないものもあると教示
・テキストはコンピュータのディスプレイ上に呈示され,キーを押すと新たな文が呈示
・前の文に戻って読むことはできない.
・テキストを読んでいるあいだ,呈示される時間プローブ,因果プローブに反応
・その後,オフライン質問紙に答えた.
・練習試行は本試行で使うものと異なった短いテキストとプローブを用いた.
・練習試行の間は,質問を受け付けた.
・実験はおよそ100分かかった.
デザイン
・2×2の被験者内計画
・独立変数は,空間情報(単純,複雑),因果情報(明示,暗示)
・従属変数は,空間プローブ,因果プローブの成績と反応時間
予備的なデータ分析
・反応時間のデータは対数変換を行った.
・2つのワーキングメモリ測定は,妥当であった.
・リーディングスパンテストの平均得点は45.4点で,空間スパンテストの平均得点は24.9点であった.
結果と考察
空間情報,因果情報操作の効果
・Table1は従属変数の平均,Table2は2×2の分散分析の結果
・空間プローブの正確さは,空間複雑テキスト(91.2%)よりも空間単純テキスト(94.9%)で有意に高かったが,因果明示テキスト(93.6%)と因果暗示テキスト(92.6%)では有意差がなかった.
・空間プローブの反応時間もこの結果を反映し,空間単純テキスト(2.858ms)よりも空間複雑テキスト(3.147ms)で増加したが,因果明示テキスト(3,008ms)と因果暗示テキスト(2.989ms)では有意差がなかった.
・因果プローブの正確さは,因果暗示テキスト(92.7%)よりも因果明示テキスト(97.0%)で有意に高かったが,空間単純テキスト(93.9%)と空間複雑テキスト(95.8%)では有意差がなかった.
・因果プローブの読解時間も,因果明示テキスト(2.890ms)よりも因果暗示テキスト(3.197ms)で増加したが,空間単純テキスト(3.039ms)と空間複雑テキスト(3.041ms)では有意差がなかった.
・空間情報とプローブのモダリティの間に交互作用が,正確さでも(F(1, 55) = 8.43, p <.01)読解時間でも(F(1, 55) = 4.88, p < .05)有意であった→空間情報は因果プローブのパフォーマンスより空間プローブのパフォーマンスに有意に影響を与えた.
・プローブのモダリティもまた因果情報と反応時間に有意な交互作用が示され(F(1,55) = 8.90, p < .01),正確さに有意傾向であり(F(1,55) = 2.81, p < .10),因果情報が空間プローブのパフォーマンスよりも因果プローブのパフォーマンスに影響を与えた.
読解時間
・被験者は,因果明示テキスト(53ms)よりも因果暗示テキスト(62ms)で因果推論文を読むのに有意に長い時間がかかった(F(1, 55) = 62.56, p < 0.01).
・因果推論文の読解時間は,空間複雑テキスト(57ms)と空間単純テキスト(57ms)では有意差がなかった.
・空間記述を読むのに,空間単純テキスト(109ms)よりも空間複雑テキスト(134ms)で時間がかかった(F(1,55) = 66.53, p < .001).
・空間記述を読むのに,因果明示テキスト(120ms)と因果暗示テキスト(122ms)では有意差がなかった.
サマリー
・プローブの測定から,空間情報は空間プローブの正確さと反応時間に影響を与えるが因果性には影響を与えず,因果情報は因果プローブの正確さと反応時間に影響を与えるが空間性には影響を与えないことが示された.
ワーキングメモリ測定との相関
・Table3では,空間スパンテスト得点は空間プローブの反応時間(r = -.31)と有意な相関があるがリーディングスパンテスト得点には有意な相関がなかった(r = -.17).
・相関分析は,分散分析の結果を補完し,異なったワーキングメモリサブシステムが状況モデルの空間的側面,因果的側面を構築するのに用いられていることを示した.
実験2
・実験1のテキストは,被験者が同時に維持し処理しなければならないように,空間情報と因果情報を統合することを意図した.
・実験2の目的は,空間情報と因果情報をより強固に統合したテキストを作ることによって,両者が分離していることをより厳密に検討することである.
・正しい位置にターゲットエンティティを配置するために,被験者は文を読む間に次の空間の記述がされるまで,最初の空間の記述に関する情報を維持しなければならなかった.
・Figure3Aで示されるように,間に入る文は,因果的前件(causal antecedent),因果的後件(causal consequent),因果推論の節(causal inference clause)を含んでいる因果情報文であった→最初に空間的記述から空間情報を維持している間,被験者は因果処理をしなくてはならず,因果暗示文ではより多くの処理をともなう
・Figure3Bは,因果プローブに先行したテキスト構造を示している→続く空間的記述の節が因果推論の節に先行するのを除くと,空間プローブに先行する構造は同一
方法
被験者 56人の大学生
題材
・空間情報,因果情報の操作は実験1と同じだが,Figure3で示した新しいテキスト構造に書き直した.
・因果明示テキストは73文あるいは76文,因果暗示文は65文あるいは68文
オンラインプローブ
・実験1と同じように,4つずつの空間プローブ,因果プローブを含んだテキストを構成
・実験1と同じように,オフラインの質問紙も配布
・実験が2時間で終わるように,空間的,因果的質問の数を12に減らした.
題材の事前テスト
・すべての空間的記述は,被験者に読みながらダイアグラムを埋めることでテストされた.
ワーキングメモリ測定
・実験1と同じリーディングスパンテスト,空間スパンテスト
手続きとデザイン
・手続きは実験1と基本的には同じ.
・教示を長くして,空間情報がテキストにいかに含まれているかを説明,被験者がすべて理解できるようテキストの空間用語を紹介(たとえば“immediately adjacent”).
予備的データ分析
・実験1と同様に,対数変換を行った.
・2つのワーキングメモリの測定は,妥当
・リーディングスパンテストの平均得点は28.6点で,空間スパンテストの平均得点は22.1点であった.
結果と考察
・実験2の目的は,状況モデルの因果的次元,空間的次元の維持と精緻化が異なったワーキングメモリのサブシステムで独立に起こっているという仮説をより厳密に検討することであった.
空間情報と因果情報操作の効果
・Table4は平均値を,Table5は2×2の分散分析の結果を示している.
・空間プローブの正確さは,空間複雑テキスト(81.7%)よりも空間単純テキスト(86.2%)で有意に高かったが,因果明示テキスト(84.6%)と因果暗示テキスト(83.3%)では有意差がなかった.
・空間プローブの反応時間もこの結果を反映し,空間単純テキスト(5.086ms)よりも空間複雑テキスト(5.626ms)で増加したが,因果明示テキスト(5.307ms)と因果暗示テキスト(5.392ms)では有意差がなかった.
・因果プローブの正確さは,因果暗示テキスト(83.9%)よりも因果明示テキスト(96.4%)でより高かったが,空間単純テキスト(89.1%)と空間複雑テキスト(91.3%)とでは有意差はなかった.
・因果プローブの反応時間は,因果明示テキスト(3,453ms)よりも因果暗示テキスト(4,005ms)で有意に増加したが,空間単純テキスト(3,687ms)と空間複雑テキスト(3,751ms)とでは有意差はなかった.
・空間情報とプローブのモダリティの間に交互作用が,正確さで有意であった(F(1, 55) = 5.74, p <.05)が読解時間は有意でなかった→空間の複雑性が,因果プローブの正確さよりも空間プローブの正確さに影響を与えた.
・プローブのモダリティも交互作用が,因果情報と正確さ (F(1,55) = 15.22, p < .001),反応時間に有意であり(F(1,55) = 10.21, p < .01),実験1とほとんど同じく,因果情報が空間プローブのパフォーマンスよりも因果プローブのパフォーマンスに影響を与えた.
読解時間
・因果明示テキスト(78ms)よりも因果暗示テキスト(86ms)で有意に読解時間がかかった(F(1, 55) = 10.12, p < .01)が,空間複雑テキスト(82ms)と空間単純テキスト(81ms)とでは有意差がなかった.
・空間単純テキスト(134ms)より空間複雑テキスト(167ms)で有意に読解時間が長かった(F(1, 55) = 46.76, p < .001)が,因果明示テキスト(152ms)と因果暗示テキスト(147ms)とでは有意差はなかった.
・読解時間データから,対応するプローブに出会わなくても情報の操作の効果があることがわかった.
サマリー
・実験1の結果がおおむね支持された.
ワーキングメモリ測定との相関
・因果プローブと空間スパンテストとの有意な相関はみられず(r = - .20, p <.10),リーディングスパンテストとの相関は小さかった(r = .13, p > .10).
・実験1同様,因果プローブは空間スパンテスト得点にもリーディングテスト得点にも有意な相関はみられなかった(それぞれr = .02とr = -.13).
・相関の結果は分散分析の結果を補完したが,効果はより弱くなり実験1の結果とは一致しなかった.
・空間プローブの反応時間は,空間スパンテストとは相関があり,リーディングスパンテストには相関がなかったが,因果プローブの測定では予測された分離はみられなかった.
総合考察
・状況モデルの空間的次元,因果的次元の維持と精緻化は独立して起こる.
・空間性ワーキングメモリのみが空間的次元を支え,言語性ワーキングメモリのみが因果的次元を支える.
・本研究の結果は,Zwaan, Magliano, and Graesser(1995)の研究で示された空間的次元と非空間的次元の独立性が,複数の次元をモニタする別々のワーキングメモリのサブシステムが基盤になっていることを示唆する.
・本研究で得られたデータは,変換過程の性質について多くの情報を提供していないけれども,変換が起こる際の興味深い知見を持っている.
・単一の要素を同時に注目する研究上の方略の有効性は,状況モデルの研究に制限されない→ワーキングメモリの研究にも強い影響を持つ.
・空間の記述を理解する過程とメカニズムを研究することは,ワーキングメモリのモデルや理論の未検討の面を補正するのに有意義であろう.