Visual attention and the apprehension of spatial relations  :

The case of depth

Catheleen M. Moore, Catherine L. Elsinger and Alejandro Lleras

Perception & Psychophysics 2001, 63,(4) 595-606

 

文献要旨

 対象間の空間関係に基づく視覚探索課題について、上下並びに左右に関するものはターゲット(及びディストラクタ)の特徴として認識されない、すなわち、視覚探索課題においてポップアウトしないとの結果が得られている(Logan,1994;Palmer,1994)

 それでは、奥行き関係に関する場合はどうであろうか?殊に、視覚情報の統合過程の比較的初期において生じるとされる知覚的補完や図と地の分化などが奥行き知覚に起因すると考えられることを前提にすれば、奥行き関係は他の空間関係に比較して何かしら特別な効果を視覚探索課題で見せる可能性が考えられる。そこで、本研究では奥行き関係に基づいてターゲットとディストラクタを判別するような視覚探索課題を用いて、奥行き関係の視覚探索課題における効果を検討した。

 結果は、奥行き関係についても、先行研究での他の空間関係と同様のものとなった。つまり、視覚探索課題には効果をもたらすようなものではなかった。こうした結果は、3次元空間知覚を行う我々の視覚システムに関して、奥行きの知覚が比較的初期になされるのかどうかに関する重要な意味を持つように思われる。

 

 対象間の空間関係を把握する場合に、我々はそうした関係を”そうした関係である”と認識する必要があるのだろうか?この点に関して、視覚探索課題を用いたいくつかの研究は、左様な認識が必要であるとの結論を出している(Logan,1994; O'Connell and Treisman,1990; Palmer,1994; Poder,1999; Steinman,1987)。しかしながら、先行研究が扱ったものは2次元平面での上下左右に関するものであり、奥行きに関するものがない。そこで、本研究では、奥行き知覚に関しても同様の結果が生じるのかどうかについて検証した。

 

実験1

<目的>

 左右(実験1A)あるいは上下(実験1B)の空間関係に関して、先行研究の追試を行なう。

<方法>

(被験者)

 30人の大学生を15人ずつ上下のグループ、左右のグループに分けた。

 全員視力、色覚は正常であり、実験の目的に関しては知らされていなかった。

(装置・刺激など)

 CRTは21インチのものを用い、刺激の作成にはCPUpentiumを用いたコンピュータを使用。

 被験者の視距離は約70cmで、実験室は間接照明で薄暗い状態(7.30cd/m)であった。

 刺激はプラスの形をしたものと正方形の組み合わせからできていた。どちらの図形も0.98°×0.98°の正方形におさまるサイズであった。また刺激を描く線の幅は0.11°であり、プラスの形と正方形との間隔は0.20°であった。また、刺激が円形配列されたが、その円の直径は11.20°であった。ターゲットの出現位置は全ての位置に同一回数現れるようにはしてあったが、その順番は完全にランダムであった。

(手続き)

 被験者はテストセッションの後本試行を行なった。試行数は、テストセッションが64試行で、本試行が8セッション×64試行の全512試行であった。試行毎にまず注視点が現れ、500ms経つと刺激が出現した。その後、反応が得られるまで画面はそのままであった。反応があれば、その後1500msのブランクがあり、次の試行に移った。但、刺激呈示後150ms以下あるいは5000ms以上の時間が経過していた場合はエラーとしてそのセッションの最後に再び同一の刺激を呈示するようにしてあった。また、当該セッションで正答率が95%以下であった場合にはセッション終了時に、"You are making too many errors. Please slow down and increase accuracy."とのメッセージが呈示された。

<結果と考察>

結果的には、先行研究の結果とほぼ一致するものであった。

すなわち、2次元での空間配置はポップアウトしないという結果であった。

 

実験2

<目的>

 奥行きの手がかりとして、単眼立体視での重なり合いを利用して奥行き関係が視覚探索に及ぼす影響を検証した。

<方法>

(被験者)

 15名の大学生で、彼らは実験1には参加していなかった。

 後の条件は実験1に同じ。

(装置・刺激など)

 装置は基本的に実験1と同じ。

 刺激の個々のパーツサイズ、条件等は実験1に準じた。

(手続き)

 基本的に実験1と同じ。

<結果と考察>

 基本的に、実験1と同じく結合探索で見られるようなプロファイルとなり、単眼立体視での図の重なり合いの情報が視覚探索に効果を持つ証明にはならなかった。

 

実験3

<目的>

 実験2の手がかりでは奥行き感が弱いので、奥行き感が強く出るように刺激を変更して実験を行なってみた。

<方法>

(被験者)

 16名の大学生で、彼らは実験1、2には参加していなかった。

 後の条件は実験2に同じ。

(装置・刺激など)

 装置は基本的に実験2と同じ。

 刺激は前後関係がはっきりするように微妙に変更を受けた。

(手続き)

 基本的に実験2と同じ。

<結果と考察>

 基本的に、またもや結合探索で見られるようなプロファイルとなり、単眼立体視での図の重なり合いの情報が視覚探索に効果を持つ証明にはならなかった。

 

実験4

<目的>

 奥行きの手がかりとして、今度は両眼立体視を利用した。

<方法>

(被験者)

 15名の大学生で、彼らは実験1~3には参加していなかった。

 後の条件は実験1に同じ。

(装置・刺激など)

 装置は基本的に実験1と同じだが、両眼立体視用の刺激作成の為に、Stereographics CrystalEyes Ⅱというシステムを用いた。

 刺激は実験2、3で用いたものを両眼視差を利用した形で呈示した。

 ホロプターに対応した平面を真ん中に、その前と後ろの3面構成で刺激を呈示した。

(手続き)

 基本的に実験1と同じ。

<結果と考察>

 またまた、基本的に、結合探索で見られるようなプロファイルとなり、両眼立体視の情報も視覚探索に効果を持つ証明にはならなかった。

 

 

実験5

<目的>

 実験4では3面構成だったので、先行研究との関係で、2面構成で行なった。

<方法>

(被験者)

 30名の大学生で、彼らは実験1~4には参加していなかった。

 15名が実験5Aに、残りの15名が実験5Bに参加した。

 あとの条件は基本的に実験1に同じ。

(装置・刺激など)

 装置・刺激は基本的に実験4と同じ。

 ただ、刺激はホロプター面とその前面の2面構成で呈示した(実験5A)。

 また、実験5Bでは、ホロプター面と前面とに呈示されるペアの個々のパーツが重ならないようにしてあった(つまり、重なりの手がかりはなかった)。

 

(手続き)

 基本的に実験1と同じ。

<結果と考察>

 実験5Aでは結合探索で見られるようなプロファイルとなり、両眼立体視は視覚探索に効果を持つ証明にはならなかった。しかし、実験5Bでは視覚探索に効果があると言える結果であった。

 ここで、実験5Aでは効果が見られないのに、実験5Bでは効果が見られたことから視覚探索では、表面の同一性の効果はあっても、奥行きの効果はないと言え、先行研究の知見(Nakayama and Silverman,1986)に一致した。

 

<総合考察>

 結果的には奥行き関係が視覚探索に効果を持つ事がなかった。このことから示唆されるのは、空間関係の認識は注意の配分の問題に帰着するであろうということである。また、3次元空間の知覚に関して、奥行きの知覚はどの段階で生じているのかについて、本実験の結果は示唆に富んだものであると言える。実験5Bと実験1~4及び実験5Aの結果との比較からすれば、面の知覚は奥行きの知覚よりも早期に(前注意的に)行われている可能性がある。ただ、これも奥行き自体の知覚処理は面とほぼ同時に行なわれるが、探索の為のリソースとして表象化されて用いられる段階は知覚処理とは異なると考えれば、必ずしも面の知覚は前注意的で、奥行知覚はそれよりも遅いとは言えないことになる。また、視覚探索というタスクでは利用しないという可能性もある。いずれにせよ、知覚と認知資源としての表象とそれらの利用形態については決定的なことは言えない。今回の結果から言えるのは、空間関係はそれがそうであるという認識を必要とするだろうということだけである。