When will the ball rebound ?

Evidence for the usefulness of mental analogues in appraising the duration of motions

Yves-Andre' Fe'ry and Alain Vom Hofe

British Journal of Psychology (2000) 91, 259-273

 

文献要旨

・運動の継続時間の推測には表象の利用が重要な役割を果たす

・運動の継続時間の推測に有用な表象は視空間の要素を持つ表象であると思われる

・空間的な表象は運動の継続時間に関する記憶に関わる

 

 物理的な運動法則と日常生活の中で我々が運動を捉える時の法則との間には齟齬があるが、それでもそれなりに我々は上手く運動を評定し、それに基づいて行動をしているし、実際のところそれで日常不都合が生じる事はほとんどない。こうした我々の能力は、知覚対象となっている運動の即時的処理だけではなく、過去経験の表象的蓄積にも基づく。殊に、物体の運動に関する時間的評定や運動の継続時間の予測は、主体の行動にも関わるものであるが、これに関しての研究は希である。本研究は、自然な運動において、当該運動の継続時間に関する表象が、どのような形で残り、利用されるのかについて調べた。

 

予備実験

<目的>

 ピッチングマシンから射出されるテニスボールの運動の評価を、普段こうしたマシンやスポーツに慣れていない者に評価させても問題がないかどうかをまず調べる

<方法>

(被験者)

 テニスのような、ボールが高速で移動するような類のスポーツをしていない者10名と10年以上のテニス経験者10名が参加した。この際、個人差をなくす為に、念のためVMIQVividness of Movement Imagery QuestionnaireIssac et al.,1986)を指標として用いて、平均値から標準偏差が±1の間に収まる者を被験者とした。

 

(装置・刺激など)

 テニスボールの速度は19.4m/sであった。

 テニスボールがピッチングマシンから射出されてリバウンドするまでの時間は2510msであった(誤差は±50msに収まるようにした)。

 評定用の刺激では、テニスボールの運動はピッチングマシンから射出後700msだけ見えるようにしてあった。

 

(手続き)

 被験者には1セッションあたり6回指標となるテニスボールの運動(referent trajectory)を見せて、セッション終了毎にその運動の継続時間を評定させるセッションを設け、継続時間を評定させた。ここで、被験者には特別運動の継続時間に関して注意を向けるよう仕向けるような教示は与えていなかったが、「後で部分的に運動を隠すので、今見た運動の軌跡ははっきりと覚えておいてもらいたい」旨の教示は行われた。また、被験者の個々の評定に対してフィードバックは行わなかった。

 評定方法は、テニスボールが射出されて700msだけ呈示された後、被験者はリバウンドするであろうタイミングでボタンを押すというものであった。

 

<結果>

 最初の2セッションは経験者グループと素人グループで評定値間に有意な差があった(t(18)=6.22, p< .05)が、3セッション目以降は結果に有意な差は出なかった。したがって、ピッチングマシンから射出されるテニスボールの運動の評価を、普段こうしたマシンやスポーツに慣れていない者に評価させても問題がない(=特別訓練に長期間を要するようなスキルではない)ことが確認された。

 

<考察>

 結果から、普段の慣れが多少は影響するとは言え、運動継続時間の評定は、それ自体特殊なスキルではないと考えられる。

 

実験1

<目的>

 自然な運動において当該運動の継続時間に関する表象が成立するとすれば、その形式に関しては、視空間的(visuo-spatial)表象、空間的(spatial)表象、時間的(temporal)表象のいずれかの形式で成立していると考えられる。それでは、実際どの形式が利用されているのか、あるいは、どの形式の利用が運動の継続時間の評定にもっとも効果的なのかを明確にする。

 

<方法>

(被験者)

 47名の大学生・大学院生で、全員テニスのような高速でボールが移動するような類のスポーツの未経験者。

 被験者は5つのグループに分けられた(visuo-spatial, spatial, temporal, referent, control)。

 

(装置・刺激など)

 装置並びに刺激の物理的条件に関しては基本的に予備実験と同様であった。

 但、グループ毎に実験セッションでのセッティングは異なった。

 

(手続き)

 実験は予備セッションと実験セッションから成った。

 予備セッションでは、どのグループも普通にボタン押しでの即時的な運動の継続時間の評定を行った。3回のテスト試行の後、6回の本試行を行った。

 実験セッションは、予備セッションの翌日に行った。

 実験セッションでは、まず被験者に予備セッションと同じ刺激が1回呈示された。ここで、被験者には特別運動の継続時間に関して注意を向けるよう仕向けるような教示は与えていなかったが、「後で部分的に運動を隠すので、今見た運動の軌跡ははっきりと覚えておいてもらいたい」旨の教示は行われた。

 次に、visuo-spatial, spatial, temporalの3つのグループには、それぞれの条件に応じて被験者に特定の表象を利用する事を促すようなヒントが与えられた。そのヒントは、visuo-spatialグループにはテニスボールの射出位置とリバウンド位置並びにテニスボールの運動の軌跡を点線で実験室の壁に描写したもの、spatialグループには、テニスボールの射出位置とリバウンド位置, temporalグループにはテニスボールの射出のタイミングとリバウンドのタイミング、というものであった。但、visuo-spatial, spatialの2グループについても、テニスボールの射出のタイミングとリバウンドのタイミングに関する情報は与えられていた。ヒントが与えらた際、被験者には「この呈示されたヒントの形式をよく覚えておくように」との教示がなされた。そして、「この説明の後、3秒後に一度音が鳴り、その後さらに5秒してから(先のヒントに応じた)表象を頭の中で浮かべて、その始まりと終わりを”gostop”の言葉で知らせて下さい。」という教示がなされ、こうした一連の作業を5回繰り返した。

 referentグループは、6回のテニスボールの射出を眺めるだけであった。

 controlグループは、最初に1回だけ前日と同じ刺激が呈示された後、「395532から、75秒間数字を逆に数えて行くように」との教示がなされた。

 以上の各条件毎の作業は、全体としてどれも80秒で収まるようになされた。

 その後、各条件について予備セッションと同様の評定実験を行った。この際、1ブロックを10試行として、5ブロック、計50試行行った。

 

<結果>

 2要因分散分析(5×5)の結果は、グループ間(F(4,35)=16.59, p< .05)、ブロック間(F(4,140)=7.39, p< .05)共に有意であった。グループとブロックの交互作用は有意ではなかった。

 

<考察>

 結果から、visuo-spatialな表象は外界での動的事象を評定するのに重要な役割をになっているのではないかということが示唆された。また、temporalのみの場合には成績が悪い事から、運動体の表象に際して、その様相の算定が不得意な人は、時間に関する表象のみを用いているか、あるいは表象を用いていない可能性があるといったように、この結果を利用して、個々人の表象利用の方略が探れる事が示唆された。

 

実験2

<目的>

 実験1での経験はどのような形で保持されていくのか。そこで、実験2では、実験1の被験者に、実験1終了後2日経ってから評定実験を行った。

 

<方法>

 基本的に実験1での予備セッションと同じ。

 

<結果>

 2要因(5×3)分散分析の結果、グループの主効果が有意(F(4,35)=5.9, p<. 05)、セッションの主効果も有意(F(2,70)=58.33, p< .05)で、グループとセッションの交互作用も有意(F(8,70)=2.8, p< .05)であった。

 

<考察>

 結果から、spatialグループの成績が他のグループに比べて成績が比較的落ちていないことから、運動の表象が記憶に保持される時には、主として空間的な表象(つまり、運動の空間的な始点と終点)の形で保持するのがよいことが示唆された。