Brown Bag Seminar 010529 文献紹介 担当:小島(文学研究科)
Linguistic and
non-linguistic spatial categorization
L.Elizabeth Crawford, Terry Rogier, Janellen Huttenlocher
Cognition 75 (2000) 209-235
文献要旨
・空間の言語的範疇化と非言語的範疇化は一致しない
・空間の言語的範疇化と非言語的範疇化の関係は、プロトタイプ形成と境界形成のよう
な、いわば中心化と境界確定のような逆の関係にある
・空間の言語的範疇化と非言語的範疇化は共通の構造に根差したものであるとしても、
この共通構造は、各範疇化の過程で異なった役割を果たす
序
言語と知覚の関係を、Sapir-Whorfの仮説が示すように「言語が知覚を形成する」と考えようと、知覚的決定主義(Perceptual determinism)のように「知覚が言語を形成する」と考えようと、前提として言語的・非言語的(≒知覚的)活動における範疇化は一致しているという考え方が根底にある。
こうした言語・非言語の範疇化が一致するという前提を確かめる為に、HaywardとTarrら(1995)は空間の範疇化に関しての言語的・非言語的範疇化の一致性を検討したところ、一致するとの結論が得られた。
ところが、この結果の内、非言語的な範疇化の構造に関する結果は、Huttenlocherら(1991)の非言語的な空間の範疇化に関する実験結果と異なったものであった。すなわち、前者は空間の非言語的範疇化は(言語的範疇化と同様に)垂直軸と水平軸からなる基本軸に近いか否かで範疇化がなされているとの結果を得たのに対し、後者では空間の非言語的範疇化においては対角方向のバイアスがかかるとの結果となっていた。
両研究は反応の取り方が異なり(Haywardらは正誤判断で空間位置の同定をさせたのに対し、Huttenlocherらは再生法を用いて空間位置を同定させた)、また、何よりも提示刺激が異なる為、両研究の被験者が同一の範疇化を行ったか否かが不明である。そこで、本研究では同一の刺激を用いて、前置詞aboveに関してこの両研究の結果の違いを検討した。
実験1
<目的>
空間の言語的範疇化と非言語的範疇化の一致性を検討する。
<方法>
<装置・刺激など>
被験者はシカゴ大学の学生。
刺激はMacⅡciで作成し、17インチCRTで呈示。
刺激は参照対象としてテレビの画像を呈示し、このテレビ画像を中心として同心円状に黒い点を28通りの位置に呈示した。一度に呈示された点の数は1つであった。黒い点の出現位置は中心角約13°で等間隔であり、半径5cmまたは10cmの円の周上に配置されていた。また、CRTの左上端には、小さな紙片に”Very Good”、”Good”、
”Fair”、”Poor”、”Very Poor”の言語報告で用いる判断基準が実験中示されていた。
<手続き>
刺激は、参照対象であるテレビの画像がCRTの中心部に呈示され、これを中心とした半径5cmまたは10cmの円周上に中心角約13°の間隔で区切られる位置のいずれかに黒い点が約1s呈示された。
被験者は、黒い点が呈示された後、中央のテレビの画像に対して、その点の位置がaboveという前置詞の示す位置として妥当かどうかを、”Very Good”、”Good”、”Fair”、”Poor”、
”Very Poor”のいずれかで言語報告するように求められた。この報告結果は実験者が”Very Good”=1~”Very Poor”=5としてコンピュータに入力した。その後、画面の中央部(テレビの画像の内部)に再び黒い点が現れ、被験者はその黒い点をマウスでドラッグして、先程黒い点が呈示された位置に置換することを求められた。
黒い点の出現する円周の半径の条件が2通りで、黒い点は円周上28通りの位置にそれぞれ一度だけ呈示されたので、実験の試行数は56通りであった。刺激の順序はすべてランダムに呈示された。
<結果>
言語報告に基づく評定の結果は基本軸付近で範疇化が強いとするHaywardら(1995)の結果と一致した。
次に、マウスによる黒点の位置の再生結果は対角方向にバイアスがかかることが示されることになる結果であった。
<考察>
結果から、言語的範疇化では基本軸付近での範疇化がなされ、非言語的な表象は対角方向にバイアスがかかることが示されたが、これは、言語的な空間認知と知覚的な空間認知に齟齬があることを示唆する結果と言える。
実験2
<目的>
実験1では、垂直軸近辺での黒点の呈示位置がaboveの空間的な広がりを検証するには不適当であった為、その点を改良した刺激を用いてより詳細に空間の言語的範疇化と非言語的範疇化の一致性を検討する。
<方法>
<装置・刺激など>
刺激において参照対象上部が水平方向に拡張されたこととそれに伴う黒点の布置に変更があった(円状ではなく、楕円状となった)以外は基本的に実験1と同じであった。
<手続き>
方法と同じく、基本的に実験1と同じであった。
<結果>
言語報告による結果も、再生法での結果も実験1と同様の傾向が得られた。
<考察>
やはり、言語的な空間認知と知覚的な空間認知に齟齬があることを示唆する結果となった。殊に、垂直軸の効果が言語報告では強く見られるのに対し、非言語的な、表象による再生では対角方向へのバイアスが、垂直軸から少しでもすれると強く働く事がわかった。
実験3a
<目的>
実験1及び2での問題点として、非言語的なバイアスが、言語的な内的資源から生じている可能性があることが挙げられる。そこで、非言語的な空間認知に影響を及ぼすような言語的な内的資源の影響の有無を確認してみた。ここで用いられる仮説は、もし非言語的な空間認知も言語的な空間認知も、同じ言語的な内的資源から生じているのなら、誤謬の生じるパターンがどちらも同じになるはずであるということであった。
<方法>
<装置・刺激など>
実験2と同様の刺激を用いた。
<手続き>
実験3が実験2と異なったのは、再生実験は行わなかったこと、CRT左上端の言語報告用の紙片が取り外されたこと、被験者は言語報告を口頭ではなく、刺激呈示後画面左上端に出る「The dot is」の続きの文をキーボードで入力することであった。但、入力の際には、簡潔な表現にすることと、角度や時計表記などは用いてはならない旨教示された。
結果は、実験者により報告された表現を「leht-right」errorか「above-below」errorかに分類して、実験1及び2で再生法で行った誤謬処理と照らし合わせて検討した。
<結果>
実験2での再生課題による結果と異なり、「above-below」errorは生じなかった。ところが、「left-right」errorは4.8%生じ、これは実験2での再生法の結果に対して、高い比率であった。
<考察>
非言語的な空間認知も言語的な空間認知も、同じ言語的な内的資源から生じているのなら、誤謬の生じるパターンがどちらも同じになるはずであるという仮説とは異なる結果となったことから、両者の空間認知は同じ言語的な内的資源から生じているとは言えないことが示されたと言える。
実験3b
<目的>
プライミングの効果なども考慮して、実験3aの補足として、再生課題も取り入れて、実験3aでの目的を再検討してみた。
<方法>
<装置・刺激など>
実験1と同様の刺激を用いた。
<手続き>
基本的に実験3aと同じ。ただ、言語報告後、実験1の言語報告後と同じくマウスでの再生課題を行わせた。
<結果>
言語報告での誤謬と再生課題での誤謬の結果、言語報告では実験3aと同様の傾向が見られた。また、再生課題の結果は、やはり実験1と同様のものであった。
<考察>
やはり非言語的な空間認知と言語的な空間認知は同じ言語的な内的資源から生じているとは言えないことが示されたと言える。
総合考察
以上の結果から、空間認知に関して、言語的な範疇化と非言語的な範疇化は質的に異なるものであることが示唆されたと言える。殊に、言語による範疇化は基本軸に沿ったプロトタイプに基づくものであり、非言語による範疇化は対角に近付くような、いわば範疇の境界に向かうものであると考えられる。